掲示板バックナンバー: 2005年


■ 2005年1月1日(土)

最近リリースされた鶴亀メール v4.0Xには迷惑メールフィルターが実装されました.今やこの機能抜きのメーラーは使い物になりません.なにしろスパムメールの山に正規のメールが埋もれているような状況ですから.かなりきちんと濾し分けてくれるようです.

忽然とアイデアが浮かびました.不要な情報,役に立たない情報,有害な情報に対するWeb用ノイズ・フィルターがあれば便利.いろいろなサイトをそのフィルターを通して閲覧できるようにし,何%の情報が残るのかも数値データとして示すのです.もちろん(会社の場合)ハゲ頭の社長の写真,(研究者の場合)業績リスト,第三者にとってなんの値打ちもない個人情報(たとえばアホバカ丸出しの日記・雑文)などはカットされます.大半のWebサイトは壊滅状態になるでしょう.

特定有害サイトにアクセスできなくする仕掛けは,今でもあります.そんなprimitiveなものでなく,コンテンツの一部をノイズとして濾し分けるのです.

もちろん何が有用なのかは,人によって異なります.そこで,細かい救済指定を用意し,カスタマイズできるようにします.たとえばアダルト情報を透過させることもできます.ネットサーフィンのヒストリーを解析し,自動的に学習する機能も設けます.

このアイデアの所有権を主張するつもりはありません.誰か実際に無用コンテンツ・フィルターを開発しませんか.

本サイト自身が壊滅状態になったりして…

■ 2005年1月2日(日)

戯れに血液型推測Web版で血液型を推定してもらったところ,

で,AB型と推定されました.正解はB型です.この推測ソフトが使い物にならないのか,私が規格からはみ出た外れ物なのかは不明です.

■ 2005年1月3日(月)

昨日,DVDで観た「69 sixty nine」は脳天気な高校生が馬鹿騒ぎしまくるだけの駄作でした.「キッズ・リターン」も同じような趣向のバディームービーですが,ヤクザとボクサーになり損ねた悪ガキ二人に「もののあはれ」が感じられ,名セリフ入りのラストシーンも秀逸でした.今日は口直しに「カンフーハッスル」を観に行きましたが,あいにく満席でした.

明日から仕事を再開しますが,しばらく放置していたことがいくつか残っており,客観的に見て相当シビアな状況に追い込まれています.といっても,過去に幾度となく繰り返してきたことであり,平気の平左.かくの如き「まあ,なんとかなるさ」的図太さが私のバイタリティーの源です.

■ 2005年1月4日(火)

12月31日の掲示板に書き込んだ質疑応答が逆RIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析Q & Aに追加されました.古谷君は原子中の電子密度のフーリエ変換,すなわち式(5・26)から式(5・27)を導くという問題を解いてくれました.答えはここです.

教育効果が大分上がってきたのに気をよくして,古谷君にもう一つ質問してみました:占有率gと等方性原子変位パラメーターBは互いに相関が強く,同時に精密化するのが困難だが,この事実を結晶構造因子の計算式(「粉末X線解析の実際」,式(6.13))に基づいて説明せよ.

回答はいずれ掲示板に書き込みます.

■ 2005年1月5日(水)

新年早々ですが,VICS v5.2.7とVEND v6.6.1をリリースしました.VICS v5.1.4で変更したDialog Barの一部がいつのまにやら元に戻っていたので,再修正しました('Models', "Surface", "Frame", "Mesh" → 'Surface type', "Smooth Shading", "Wire-frame", "Dot surface").VENDでは,v6.5.4で変更したDialog Barの一部が元の木阿弥になっていたのを再修正("Polyhedra" → "Polyhedral")するとともに,2D Projectionダイアログボックス内のPlaneパネルで'plane'を取り去りました.VICS_VEND_manual.pdfとVICS_VEND_readme.pdfも少しだけ書き直しました.

VICSもVENDも,そしてマニュアルもなかなか不具合が出尽くしません.開発し始めてから,もうかれこれ3年半もたつというのに.日暮れて道遠し ーーー といった心境です.

「キッズ・リターン」は

「マーちゃん。俺たちもう終わっちゃったのかな。」
「バカヤロー。まだ始まっちゃいねえよ。」

という名セリフで幕を閉じます.こんな虚勢を張れるのは若いうちだけです.

■ 2005年1月6日(木)

昨年暮れにEpsonのハイエンド・デスクトップ機Endeavor Pro3100とEIZOの液晶ディスプレイFlexScan M190が届きました.Endeavor Proの主な仕様は次の通り: Pentium 4 570J(3.80 GHz) CPU, DDR2 RAM 3072 MB,Serial ATA HD 250 GB,RADEON X800 XT(PCI Express X16) GPU,MATSHITA DVD-RAM SW-9583S スーパーマルチドライブ.

環境整備中に,Windows Updateでつまずきました.更新プログラムのダウンロードに必ず失敗するのです.Epsonのサポート係に問い合わせ,自分でもいろいろ試しましたが,結局,更新プログラムを一つ一つ手動でダウンロードすることと相成りました.面倒ですが,他に打つ手がありません.

■ 2005年1月7日(金)

坂根弦太氏がDV-Xα法関連Webページをさらに充実させてくださいました:

また,古谷君が原子の電子密度のフーリエ変換で使った数式をメモ帳に記してくれました.こういうふうに実際に自分の研究や仕事で必要に迫られないと,数学の意義(どういうことに役立つのか)はなかなか理解できません.たとえば私の場合,プログラミングや結晶学を勉強する過程で,行列(ベクトルを含む)や行列式がいかに有用であるかをようやく悟りました.とくに,正・逆格子の基本テンソルの活用による幾何学的構造パラメーター計算の簡略化には目を瞠ったことを覚えています.

■ 2005年1月8日(土)

カンフーハッスル」には期待を裏切られました.相当な力作であるのは認めますが,型にはまった,手垢まみれのストーリーだな,と随所で感じてしまうのです.過剰なCGにもうんざり.功成り名を遂げ,芸能人長者番付No. 1の地位を得たチャウ・シンチーがチープな味も馬鹿っぽさも抑制し,あまり羽目を外さずに撮った煮え切らない映画 ーーー と一蹴したら,手厳しすぎるでしょうか.1月3日放送の「ナニワ金融道」(フジTV)の方が赤裸々かつ分別臭ゼロで,よほど面白かった.

たとえば,中性子回折を使えば,軽元素がよく見えて当然.放射光を利用すれば,輝度と分解能が高くて当たり前.少なくともそこには何の独創性も意外性もありません.自分の才能・能力のせいだと勘違いしたら笑止千万.CGも似たようなもんです.CGを駆使すれば,どんな超人技でも,どんな神業でも可能ですが,所詮はコンピュータが吐き出した画像データにすぎません.カンフー映画に私が期待するのは鍛え上げた達人の技量です.実写シーンが少なすぎる「カンフーハッスル」には空しささえ覚えました.やはりブルースリーは偉大だった!

■ 2005年1月9日(日)

2004年は研究所に引きこもり通しでした.外勤・出張もめったにせず,外国にも行かず,オリジナルな口頭発表もせず(これは例年通りですが),さる学会の評議員会も全部欠席.別に体調を崩したわけでも頭が変調を来したわけでもなく,優先順位の高い順に処理していたら,結果としてそうなっただけです.といっても,インターネットを通じ最新の情報・ソフトを提供し続けたのですから,社会的使命は十二分に果たしたと信じています.税金泥棒という熟語は余の辞書に無し!

今年は,外に出て行く機会を増やすつもりです.といっても,8月にフィレンチェで開かれるIUCrの国際会議は敬遠しておきます.7月に講習会一つと集中講義二つを行わなければならず,疲れ果てているはずです.よりによって真夏に,イタリアきっての観光地なんぞに出かける気にはなれません(ローマの大学の教授に「あそこはローマよりずっと暑いから,止めといた方がいいぞ.」と忠告されました).要らざる消耗を防ぎ,限りある身の力を生産的なことに振り向けたいです.

■ 2005年1月10日(月)

不要なWindowsのコンポーネントの削除方法(メモ代わり):"プログラムの追加と削除"というコントロールパネルで"Windowsコンポーネントの追加と削除"を選び,不要なコンポーネントのチェックをはずし,OKボタンをクリックする.

上記の操作により,FAXサービス,MSN Explorer,Outlook Express(=迷惑ソフト),Windows Messenger,ゲームなどが削除できます.

■ 2005年1月11日(火)

1月4日に書き込んだ古谷君への質問とその回答を示しましょう.なお,この逆Q & AはRIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析Q & Aに追加済みです.

Q: 占有率gと等方性原子変位パラメーターBは互いに相関が強く,同時に精密化するのが困難ですが,この事実を結晶構造因子の計算式(「粉末X線解析の実際」,式(6.13))に基づいて説明してください.

A: 式(6.13)の右辺には占有率gとデバイーワラー因子(温度因子)Tの積が含まれています(サイト番号jは省略).gがsinθ/λと無関係に一定なのに対し,Tはsinθ/λに依存します(反射番号Kは省略).熱振動を等方的と近似すると,Tは式(6.14),すなわち

T = exp [-B(sinθ/λ)2]

という指数関数で表せます.5つの異なるBに対して,Tをsinθ/λの関数としてプロットしたのがこのグラフです.

図から明らかなように,sinθ/λの増加とともにTはゆるやかに減少します.T = 1に漸近していく低角領域を除いて各曲線を平行移動すると,他の曲線とほぼ重なります.このことから,gとBの相関が非常に強いこと,低角領域の反射が確度・精度の高いgとBを得るのに役立つことが直感的に理解できるでしょう.逆に言うと,低角の反射が測定されていないと,gとBの確度・精度が低下してしまいます.開き角の大きなソーラスリットを装着したブラッグーブレンターノ型回折計やTOF中性子回折装置(とくにSirius)を使う場合は,そういう恐れがあることを覚悟しておくべきです.また,Bが小さい方がsinθ/λの増加に伴うTの減衰が緩やかなので,gとBの相関が強まります.

■ 2005年1月12日(水)

昨日,VICSによる熱振動楕円体の作画について不具合の報告があり,当該機能を久しぶりに使ってチェックしました.Mac OS用ATOMSまで動員してバグっていることを確認しました.鬱.

さっそくRubenに不具合の修正を依頼しました.

6つの異方性原子変位パラメーターβijに課せられる制約条件を導き出すためのソフト(サブルーチン)があるといいなあ ーーー と,昔から切望してきました.230の空間群に対する制約条件は

W. J. A. M. Peterson and J. H. Palm, Acta Crystallogr., 20 (1966) 147.
桜井敏雄, "X線結晶解析の手引き", 裳華房 (1983), pp. 194-200.
にまとめられています.しかし,それらは"International Tables for X-Ray Crystallography", Vol. Iに記載されている各サイトの最初の等価位置に対する制約条件だけなのです.どの設定の何番目の等価位置だろうが自動的に制約条件を決定してくれるソフトをご存じの方は,ぜひお教えください(レスポンスの予想確率<5%).

■ 2005年1月13日(木)

Endeavor Pro3100でWindows Updateに失敗するという障害(1月6日参照)ですが,MicrosoftのWebサイトからWindows Updateに入ると大丈夫ということを発見しました.不思議なことに,一度うまくいったら,後は通常の方法で更新可能になりました.また,スタンバイ中に液晶ディスプレイが表示されてしまう問題も発生していたのですが,休止状態を無効にしたところ,無事解決しました.

やはり一世代前の枯れたOS(Windows 2000)を使うのが賢明なのかもしれません.

■ 2005年1月14日(金)

ダンボールハウスガール」全編をビデオで観るのは,かなりの苦役でした.そもそも,米倉凉子には黒革の手帳は似合うものの,ダンボールの匂いやすきま風はしっくり来ません.また,やたらにシリアスで,気が滅入りました.いっそ「ドラッグストアガール」のようにお笑いに徹したらよかったのに.

■ 2005年1月15日(土)

VICS v5.2.8をリリースしました.SCAT用ファイルコンバータcontrdの入力ファイルc04dで指定する中心座標が直方体の中心からずれるというバグを修正しました.岡山理科大学の坂根弦太氏のご指摘です.詳細にわたるバグ報告をお送りくださったことを感謝します.大阪大学の水野正隆氏にもご協力いただき,なんとか解決しました.昨年の12月29日の掲示板で「VICS・VENDのSCAT関連部分とcontrdの熟成には予想外に長期間を費やしました.ようやく枯れ切ったようです.」と胸を張ったのは失態でした.恥ずかしい限りです.これでSCAT関係のバグはすべて潰した ーーー と信じたいです(単なる願望).

また,VICS_VEND_manual.pdf(VICS編)中の11.1節を少々書き直しました.結合サーチ時にはすべてのbond specificationが終わってからでないと,[OK]ボタンをクリックしてはならないことを明記しました.

ついでにcontrd.tbzも更新しました.Readme_contrd.txt中で,中心座標について,より詳細に記述しました.

なお,水野氏が鋭意製作中のcontrd・contrwd統合プログラムをいずれ3D Visualization System VENUSで公開します.contrwdは原子や波動関数の成分を指定して3Dデータをテキストファイルに出力するプログラムです.DV-Xα法のユーザーはご期待ください.

■ 2005年1月16日(日)

坂根弦太氏による「DV-Xα + VENUSによる波動関数の三次元可視化データ集」は「DV-Xα + VENUSによる錯体の電子状態ギャラリー」とタイトルを変え,肥大成長を遂げつつあります.そして,contrd,VICS,VEND用のファイル(F01,F09,F39,C04D,*.vcs)がダウンロードできるようになりました.VENUSによる3D可視化を通じて,2Dマップでは見落としていたことがわかるようになり,エキサイトされていると坂根氏から伺いました.お役に立てて光栄です.

複雑な空間分布を呈し,しかも正負の値をとりうる波動関数は,色覚も働かせつつ3次元的に理解すべき性格のものです.上記のWebページを眺めれば,そのことがよくわかるでしょう.坂根氏のWebサイトはSCATとVENUSの組み合わせを使う方々にとって非常に有用なので,3D Visualization System VENUSの13.6で紹介させていただきました.

■ 2005年1月17日(月)

週末は二日続けて冷雨でした.「大阪物語」のビデオを観て過ごしました.売れない夫婦漫才師(沢田研二,田中裕子)と中学生の娘,若菜(池脇千鶴)を巡る淡々とした物語.前半は織田作之助作「夫婦善哉」の風情があります.後半は雰囲気がガラッと変わり,失踪した父を捜すために家出した若菜の大阪放浪記です.みやこ蝶々がちょこっと出てくるんじゃないかな,と予想していたら,その通りでした.流石に存在感があります.町田 康もカメオ出演していました.

映画自体は佳作だと思いますが,DVD慣れした身にとってビデオは貧相に見えて仕方ありません.レンタル料金は同じなのに… マイナーな映画もDVD化してほしいものです.

印象に残った言葉を二つ挙げておきます.ダメ親父(沢田)の述懐です:

おもろないことは結局長続きせえへんで。
人間、みんなちょぼちょぼや。
■ 2005年1月18日(火)

5億円強奪事件の犯人のことを

どうしてこんな事を…。たった5億円ぽっちのお金のために…

と不思議がる富豪刑事(深田恭子)のセリフは,近来まれに見る名言でした.ヒロシの自虐ネタや「〜ことを忘れたい.」と同様に,様々なシチュエーションで応用が利きます.一昨日,昨日とVENUSについて記したので,ここで一発,

どうしてこんなすごいソフトを…。たった5ポイントぽっちの獲得のために…

というのはいかがでしょうか.

注釈が必要ですね.「すごいソフト」というのはVENUSパッケージのことを指します.5ポイントというのは,勤務先による業績の評価点です.われわれはVENUSというブランドをゼロから立ち上げ,3年半も開発およびブラッシュアップを続けてきました.その間,想像を絶するほど莫大なエネルギーを費やしたのは言うまでもありません.それにもかかわらず,第一著者の論文1報未満にしか評価されないのです.内部と外部の評価がこれほど隔絶した例は珍しいのではないでしょうか.要するに,科学技術ソフト開発というのはポイント還元制という時流に合わないことなのです.「個人的趣味」同然の扱いといってよいでしょう.もちろん,競争的資金の獲得に直結する性格の仕事でもありません.

もっとも,当Webサイトによる情報発信ときたら,

どうしてこんな巨大なサイトを…。まったくポイントを稼げないのに…

という悲惨な状況ですから,それよりはずっとましです.

■ 2005年1月19日(水)

下妻市と周辺市町村との合併が以前から計画されており,「下妻市」という市名は風前の灯火となっていたのですが,とりあえず下妻市と千代川村だけが合併し「下妻市」の名を残すことに決まりました.ひょっとしたら,「下妻物語」のおかげで名前が全国区になったせいかもしれません.

なお,下妻ー東京・TDR間の高速バス(東北自動車道経由,1日8往復)が4月に開業するということをH氏からお知らせ頂きました.「続・下妻物語」では,水海道ー東京間(常磐自動車道経由)の高速バスが殺人事件の現場となっているのですが,下妻ー東京間のバスが出現したら,この小説の内容は古くなってしまいますね.

映画ベストテンでのランクですが,「下妻物語」は第26回ヨコハマ映画祭で1位(作品賞,監督賞,主演女優賞,助演女優賞,最優秀新人賞も受賞),キネマ旬報で3位でした.ちなみに,セカチューもイマアイもベストテン圏外です.また「下妻物語」は第59回毎日映画コンクールの女優主演賞,スポニチグランプリ新人賞,美術賞も受賞しました.

■ 2005年1月20日(木)

MOLDAの作者,吉田 弘氏(広島大学)の訃報に接しました.1月2日に逝去されたそうです.3D Visualization System VENUSに書いたように,VICSはMOLDA形式のファイルを読み込めます.分子グラフィックスの先達である吉田氏に敬意を表して,当該機能を組み込みました.またGaussian 98でCube形式のファイルを作成した際には,MOLDAの助けを借りました.心からご冥福をお祈りいたします.

■ 2005年1月21日(金)

昨日はアーヘン工科大学(ドイツ)の桃沢 愛さんが一年ぶりに来訪.相変わらず元気,溌剌,プラス思考 ーーー つまり私の逆です.彼女が帰った後,某所にて「地獄絵図」1時間コースを体験しました(なんのことかはconfidential).嗚呼,つらかった.

■ 2005年1月22日(土)

締切が迫りつつある解説の原稿を,未だに1行も書いておりません.ほとんど焦りもしない鉄面皮の自分に,小心かつ生真面目なもう一人の自分が呆れ果ててはいるのですが… 今は別な雑用で手一杯.動かざること,山の如し,という状況がもうしばらく続きそうです.

ということで,年明けから私へのメールへの返答率がとみに低下しておりますが,悪しからず.当面,頭の上の蠅を追わねばならないのです.

是が非でも私からの返事がほしいという人には,効果抜群のノウハウをこっそりお教えしましょう.私の配布しているソフトのバグやマニュアルの間違いを血眼になって探し出し,それをメールに何気なく記すのです.返答確率が倍増(当社比)すること,請け合いです.但し,鬼の首を取ったような態度を取ると,へそを曲げる恐れが多分にありますので,ご注意を.

■ 2005年1月23日(日)

古谷龍也君との逆Q & Aをもう一つ追加しましょう:

Q: デバイーシェラー型光学系の場合,吸収をきちんと補正しないと,等方性原子変位パラメーターBの確度が下がってしまいます.式を使って,これを説明してください.

回答は後日ということで…

■ 2005年1月24日(月)

今,私が一番観たい映画は,何を隠そう「あゝ! 一軒家プロレス」です.「お父さんのバックドロップ」とともに,DVDがリリースされるまで黙々と待つことにいたしましょう.

■ 2005年1月25日(火)

Rubenが私の所を去り,今年度の人件費が浮いたので,昨年秋以降,Power Mac G5,ノート型・デスクトップWindows機を続けざまに購入しました.いずれもハイエンド機です.贅沢三昧といってよいでしょう.ところが,嬉しくも何ともないんです.空しいだけ.4年前,6年前のPCをいつ壊れるかと怯えながら使っていた6月以前の方がよほどハッピーでした.ソフトのインストールや環境構築も面倒で仕方ありません.こんなはずじゃなかったのに…

■ 2005年1月26日(水)

今年から,日本セラミックス協会年会の予稿原稿を電子ファイルで送れるようになりました.しかし,MS WordとPDFの両方を提出しなければならないのにはがっかりしました.PDFだけなら,LaTeXを使うのですが…

私がWordを毛嫌いしている最大の理由は,プリンター出力が薄汚いことです.とくに上付・下付文字の大きさ・位置と英数字ー全角文字間の間隔が不適切なのには不満が募ります.泣く泣く,JTeXEditTextures(依然としてMac OS X版はリリースされません)で印刷した予稿原稿を郵送しました.

おかげで,100%自己満足の境地に浸れました.なにしろ,日本語と英数字との間隔,日本語の大きさ,日本語と英数字の相対位置までカスタマイズしましたから.

■ 2005年1月27日(木)

昨日書き込んだ日本セラミックス協会(以下,セラ協と略します)2005年年会における講演について,もう少し詳しく述べておきましょう.タイトルは「Le Bail法と最大エントロピー法の連携によるパターン分解」で,3月23日午前(講演番号:2J04)に講演します.私のオリジナル講演は超レアものですから,年会参加者はぜひ聴講(見物?)しに来てください.

まあ,いつまでも同じネタ(リートベルト解析,MPF解析,3D可視化)を使いまわしていると,「やれやれ、またか・・・」と思われますし,自分自身も飽き飽きしたので,飛びきり新鮮なネタ(RIETAN-2000→ALBA→EXPO2004)を披露するということです.

どういう風の吹き回しか,3年前のセラ協年会でもVENUSについて口頭発表しました.その講演が起爆剤となって,

1.セラ協2002年年会(関西大学): オリジナル講演(2002年3月25日)

2.VICS・VENDベータ版をリリース(2002年6月28日)

3.セラ協2002年秋季シンポジウム(秋田大学): 依頼講演(2002年9月23日)

4.VICS・VEND正式版をCD-ROM版「セラミストのためのパソコン講座」収録ソフトとしてリリース(2002年12月末)

5.セラ協2003年年会(都立大学),ミニシンポジウム「三次元可視化技術のインパクト」: 招待講演(2003年3月24日)

6.PRIMA正式版を追加したVENUSシステムが完成.当Webサイトで配布開始(2003年4月8日)

7.セラ協学術論文誌に研究総説を依頼執筆(2003年5月20日投稿)

という猪突猛進が一年余り続くことになったのです.

思い返せば,No. 1の講演は波及効果抜群でした.No. 3, 4, 5の依頼はVENUSの開発スピードを一段と加速しました.たとえばNo. 3の依頼により,ベータ版のリリース(No. 2)は大幅に早まりました.CD-ROM書籍へのVENUSの収録(No. 4)は,その完売に大いに貢献したはずです.No. 5のミニシンポジウムは,タイトルの方が中身より派手でした(笑).No. 6でリリースしたPRIMAの超高速性能を見せつけられたMEMユーザーの間には,衝撃波が走ったのではないでしょうか.No. 7は日本セラミックス協会賞学術賞受賞者に課せられた義務にほかなりません.その研究総説には,VENUSシステムについての簡単な説明とVENDで作成したカラーの図を4つ入れました.いずれの図も同じページに収めたので,別刷代は意外に安く上がりました.締切(受賞日)の10日も前に郵送した理由は,どうしても思い出せません.

今回の口頭発表はどうかというと,おなじみのRIETAN-2000とVENUSばかりでなくEXPO2004まで飛び出すので,聴衆の頭をいたずらに混乱させたまま時間終了となる可能性大です.

■ 2005年1月28日(金)

contrd.tbzを更新しました.静電ポテンシャルの計算法と坂根弦太氏のWebサイトに関する情報をReadme_contrd.txtに追記しました.

VENUSの開発者として,坂根サイトにおけるDV-Xα法関連情報の増強に全面協力しています.多数のコメントやアドバイスを次から次へと送り続けています.昨年暮れから昨日までに彼との間でやりとりしたメールの数は60通(!)に達しました.DV-Xα+VENUSによる錯体の電子状態ギャラリーは膨張の一途をたどりつつあり,ついに等電子密度表面上の静電ポテンシャルの三次元可視化イメージまで出現しました.このサイトはDV-Xα法による電子状態の研究・教育に大いに役立つことでしょう.

最近,坂根氏をはじめとするDV-Xα研究協会のアクティブ・メンバーとのコンタクトがかなり増えています.高価な商用3D可視化ソフトに対する自衛手段として高く評価されるようになったのです.今後,VENUSはDV-Xα法のユーザーの間にじわじわ浸透していくでしょう.

玄人離れした研究者がやたらに目につく●●●●●●から足を洗った今,代わりに新たな学協会に入会し,ずぶの素人としてフレッシュな気分を味わうのも悪くありません.これこそスクラップ‐アンド‐ビルドそのもの.そこで遅ればせながら,DV-Xα研究協会への入会手続きをとりました.

■ 2005年1月29日(土)

数年前から花粉アレルギー症に苦しまずに済むようになりました.体質が変わってきたようです(老化現象?).しかし,史上空前という花粉飛来を目前にして,予防のためにシジュウム茶(Googleで検索してみてください)を飲み始めました.以前,さる会社の方から,この健康茶が花粉症に絶大な効き目があると聞いたからです.美味とは言い難いですが,飲みにくくはありません.これならなんとか続けられそうです.

■ 2005年1月30日(日)

英文単行本の1章を書きませんかという申し出を受けたのですが,多少迷った末,止めておくことにしました.ある種の材料の構造解析に関するレビューですが,「恋の門」中の毬藻田のセリフを借りると,「腕がだるい」のです.あまり気乗りしない仕事に嫌々ながら取り組むと,ろくなことはありません.ストレスが溜まると同時に疲弊するだけです.

■ 2005年1月31日(月)

最近リリースされたMac OS X用GIMP v2.2.3を試用してみました.X11 for Mac OS X上で動くので,Windows版と違って安定なはずです.VICSで保存したTIFF形式のファイルをPhotoshop CSとGIMPで読み込み,イメージを同一の分解能・サイズで縮小してみました.平滑化法には,それぞれバイキュービック法とキュービック法を指定しました.

な,な,なんと,Photoshopでは各原子にリング状の縞模様が発生したのに対し,GIMPでは各原子は滑らかに彩色されていました.つまり,商用ソフトがフリーソフトウェアに完膚無きまでに敗北したことになります.喜んでいいのか,悲しむべきなのか.大体,Photoshop CSはイメージの縮小,切り抜き,ファイル変換にしか使っていないのです.100,800円の価格の内,1,000円分くらいの機能にすぎません.F1カーで近所に買い物に行くようなものです.過剰性能の高額ソフトは追放せよ ーーー という天の声でしょうか.

■ 2005年2月1日(火)

RIETAN-2000で得た解析結果を報告する際,引用するよう要請しているMater. Sci. Forum掲載の論文(Izumi and Ikeda, 2000)を引用した論文の数が250を突破しました.日本の借金と同様,着実に増えつつあります.

借金時計を眺め,相も変わらぬ予算の濫費,少子化傾向,4割近い国民年金未納率を考慮すると,日本の将来がお先真っ暗なのは明らかです.いずれ1000兆円の大台に達しそうな勢いの借金とこれから増える一方の老人に支給する年金は.いったいどうするのでしょうか.

■ 2005年2月2日(水)

Endeavor Pro3100でOpenGLグラフィックソフトを走らせると,しばしば,いきなりログオフしてしまいます(再現性あり).ということは,VICSやVENDを使うのが危険ということを意味します.ベンチマークソフトCrystalMark 2004でも,OpenGLグラフィック性能テストでつまずきます.DirectXベンチマークは問題ないのが不思議.今のところ,手の施しようがありません.

■ 2005年2月3日(木)

VICS v5.3をリリースしました.熱振動楕円体の形と配向が正常に表現されない例がSPring-8の田尻寛男氏から送られてきました.確かにORTEPやATOMSと同様な図がVICSでは得られません.Rubenに依頼して,このバグを修正してもらいました.v5.2で実現したはずのBaurの歪み指標がいつのまにやら出力されないようになっているのに気づき,当該機能を回復させました.さらに,配位多面体選択時のOutput Windowへの出力をわずかに改善しました.

なお,熱振動楕円体を可視化するときは,International Tables, Vol. Iに記載されている各サイトの等価位置のうち,最初の座標を入力してください.これは異方性原子変位パラメーターβijに課せられる制約条件の表を利用するときと共通の注意点です.

VICS_VEND_manual.pdfとVICS_VEND_readme.pdfを改訂し,後者には,GIMPによるイメージ縮小法について書き加えました(1月31日参照).今後,Mac OS X用GIMPを積極的に活用していくつもりです.

contrd.tbzも更新しました.Readme_contrd.txtにインストールの手続きを追記しました.

■ 2005年2月4日(金)

年を取るにつれ,体力,気力,記憶力,運動能力,etc.は下降線をたどっていきますが,私の場合,例外が一つだけあります.日本語,英語を問わず,文章を書くスピードは衰えるどころか,むしろじりじり向上しています.若い頃に比べると,信じられないほど速筆になりました.本掲示版への書き込みが途切れないのはそのためです.それから年の功で,語彙も増えました.もっとも,重要なのは中身ですが…

■ 2005年2月5日(土)

筆の速さを自慢した罰が当たりました.先月末締切の原稿はどうなっているのでしょうか,という催促の電話がかかってきたのです.猛スピードで書き殴るのがいくら得意でも,極端なスロースターターでは話になりません.

VICS v5.3.1とVEND v6.6.2をリリースしました.両者に共通する改良点はOrientation Dialog Boxで入力した6つの指数u, v, w, h, k, lを記憶しておき,再びOrietation Dialog Boxを開いたとき,同じ値が表示されるようにしたことです.さらにVICSでは,画面の横幅を4の倍数にするという制限が効かなくなっていたのを回復させました.いずれも門馬網一君による改訂です.

■ 2005年2月6日(日)

坂根弦太氏のWebサイトからダウンロードした錯体のファイルをcontrdを使って251×251×251のピクセルサイズで変換したのですが,さすがに何時間もかかりました.引き続き,VENDで静電ポテンシャルに応じて彩色した等電子密度曲面を3D表示しましたが,重いのなんのって.あたかもGPUが悲鳴をあげているかのように感じました.こういうときこそEndeavor Pro3100の出番なのですが,OpenGL関連のトラブルが未だに解決していません.残念至極です.

■ 2005年2月7日(月)

昨年から今年にかけ,元気な高校生が登場する映画 --- キッズ・リターンピンポンさよなら、クロ下妻物語69 sixty nine花とアリス --- を新旧取り混ぜ観てきました.昨年10月28日に記した理由から,まだ観ていないスウィングガールズも同様な趣向の映画でしょう.

負けてはいられません.元気なオヂもいるんだぜ --- と,存在感を誇示するべく,週末は捻りはちまきで,締切の過ぎた原稿をひたすら書き殴りました.できるだけ威勢の良い話になるよう心がけました.図表9枚入り.結構いい感じに仕上がったと自負しています.

しかし, どうみても長すぎるんじゃないでしょうか.おまけに,久方ぶりに繰り出した「泉節」のアクの強さには,自家中毒症状が出そうです.加齢臭も漂っています.

まあいいか,こんなもんで.推敲している時間的余裕もないことだし.いずれ何か執筆する機会に再び恵まれたなら,初の試みとして,軽妙洒脱な文章に挑戦しましょう.

ところで,「花とアリス」をDVDでなくビデオで鑑賞したのは失敗でした.これは明らかに視覚に訴える類の作品なのです.サイズが小さく不鮮明なビデオ画面からは,鈴木 杏と蒼井 優の魅力が今一,伝わって来ませんでした.

■ 2005年2月8日(火)

岡山大学の神崎正美氏から掲示板BNの2003・2004年分の後ろの方がちょん切れているぞ,との指摘を受けました.ところがエディターでHTMLファイルを開いてみると,まったく欠落していません.例によってWebサーバーが不調らしい.しばらく日時を置き,ブラウザのキャッシュを空にしてから閲覧すれば,大丈夫でしょう.

本掲示板は終始一貫して「平成軽薄体」という文体で綴っています.あえて軽佻浮薄な印象を与えるよう,血のにじむような努力を重ねてきました.なぜかって? その方が面白いからです.

■ 2005年2月9日(水)

2003・2004年のページをチェックしたついでに,ところどころ読み返してみましたが,エンタメ度満点ですね.名文句があちこちに散りばめられてます.思わず吹き出してしまうような書き込みが何カ所もありました.とくに「さとう珠緒と佐藤江梨子を取り違える」(2004年7月15日)という下りは爆笑物です.

芸能界に疎いのは今に始まったことではありません.さすがに沢口靖子と光浦靖子は区別できますが,平山 綾,上戸 彩,松浦亜弥の違いとなると怪しいもんです.米倉涼子,国仲凉子,篠原涼子,広末涼子を見分けられるようになったのも,つい最近です.

ちなみに,2003年の大晦日の記事にある水冷パソコンと薄型ソーラー電波時計は結局,購入するまでには至りませんでした.No. 10のお気に入り(■■■■)のことは,忘れようにも忘れられません.未だに熱が冷めていないのには我ながら呆れています.

■ 2005年2月10日(木)

GAMESS専用3D可視化ソフトMacMolPlt v5.4.1がリリースされていました.

■ 2005年2月11日(金)

2月5・7日に記した解説はほぼ書き上がりました.原稿をチェックしながら脳裏に浮かんだのは,昨年夏,とある大学教授と食事しながら交わした会話です:

泉:学会にいくつも入っていると学会誌がたまる一方です,広報誌も届きますしね.パラパラっとページをくくった後,その辺に積み重ねておいて,ときどきまとめて捨てています.

教授:僕は封も切らずに山積みだな.読んでる暇などないから.

まあ,こんなところが現実でしょう.専門的な堅苦しい話に興味をもつ人はわずかですし,理系の研究者には(本来の意味の)スタイリストがあまりいませんから.いくら力作を執筆したところで,あまり読んでもらえません.まして地味な研究について淡々と記述したところで,見向きもされません.空しいものです.

今回の記事を熱心に読んでくれる人は,いったいどれくらいいるのでしょうか.

放置プレーやポイ捨ての恐れがなく,内容をいつでも更新できるという点では,紙媒体よりWebの方がはるかにましです.当Webサイトは平日だと数百人/日の訪問者がいますから,時が経つにつれて読者の数はぐんぐん増えていきます.実績にならないのが玉に瑕ですが…

■ 2005年2月12日(土)

Endeavor Pro3100におけるOpenGL関連障害の対症療法がわかりました.「画面」というコントロールパネルで設定 → 詳細設定 → トラブルシューティングを選び,ハードウェア アクセレータを下から3番目と4番目のレベルに設定すると,VENDやCrystalMark 2004が安定に動きます.DirectX Graphicsの加速を無効にしないとダメなのですが,OpenGLアプリケーションはDirectXなど使っていないはずです.なんだか,訳が分からなくなってきました.

このPCの問題点はビデオカードだけでありません.ファンの音がうるさぎて,長い間使う気になれないのです.一方,Power Mac G5の静粛性はまずまずです.CPUを水冷にするだけでも効果的なんですね.

■ 2005年2月13日(日)

森 康裕著「焼きミスよさようなら!! DVD/CD-Rパーフェクトデータ」によれば,ずば抜けて高品質なチャンピオンCD-Rメディアは死滅したのだそうです.チャンピオン・メディアの代表例は太陽誘電のCDR-63/570Pです.当時の太陽誘電ではCD-Rメディアの父と呼ばれた石黒隆氏やCD-Rメディアの母と呼ばれた浜田恵美子といったCD-Rを知り尽くした達人が製造に携わっていたとのことです.

伝説の技術者 ーーー カッコいいではありませんか.あこがれるなあ.

神奈川大学で開かれる日本化学会 第85春季年会(2005年3月26〜29日)に出席される方は,アドバンスト・テクノロジー・プログラムにおける浜田恵美子氏(太陽誘電商品開発本部)の招待講演「有機色素系光記録媒体 〜 CD-Rからブルーレーザー対応記録まで」を聴講されるようお奨めします.

そういうお前は聴きにいかないのかと問われるかもしれませんが,日本化学会春季年会というと,トラウマを抱えているもんで… 詳しくは掲示板の2001年6月2日をお読みください.

■ 2005年2月14日(月)

今日はCD-Rの父ならぬ地球化学の父の話をしましょう.本掲示版の2003年2月12日の記事で,私が

ずっと前から読みたいと思っていたB. Masonの"Victor Moritz Goldschmidt: Father of Modern Geochemistry"をふと思い立って注文したのですが,もう入手不能とのことでした.残念です.

と嘆いていたのをお読みになった神崎正美氏(2月8日参照)が,その本はGeochemical Societyから購入できるということを教えてくださいました.どうもMasonの本を注文した書店の社員がろくに調べもせずに,いい加減な回答を寄こしていたようです.玄人離れした人というのは,どの世界にもいると見えます.

そこで,あらためてWebでこの書籍を検索してみたところ,2000年1〜12月の「地質ニュース」にほぼ全部の翻訳が掲載されていたことがわかりました.PDFが公開されています.

まだ拾い読みしただけですが,ナチスの暴虐にGoldschmidtがいかに痛めつけられ,命を縮めたかが詳しく書かれています.

私はMasonの「一般地球化学」(松井義人・一国雅巳訳)で結晶化学の基礎を学びました.松井義人は神崎氏の修士課程のときの先生であり,そのまた先生が南 英一(東大理)で,Goldschmidtのところで研究したのだそうです(敬称略).「一般地球化学」にはGoldschmidtの影響が色濃く反映されています.

「一般地球科学」はなにか別な専門書との交換で,後輩の女の子から入手したのです.今でも書棚に入っていますが,その後入手したMasonとMooreによる第4版(英語)同様,もうほとんど手を触れることはなくなりました.

Goldschmidt大先生とはまったく関係ありませんが,「後輩の女の子」と書いたところで,つい思い出し笑いをしてしまいました.映画「ドラッグストア・ガール」中の田中麗奈のバカっぽいセリフ

私,先輩の後輩です.

をまだ忘れていませんでした.

■ 2005年2月15日(火)

2月5・7・11日に記した解説ですが,CD-Rに焼いた図面8つは2月10日に郵送し,本文と表は昨日,メールに添付して送りました.タイトルは「結晶構造と電子状態の三次元可視化システムVENUS」です.VENUSのユーザーには興味深い読み物だと思われます.活字になるのは4月ごろだそうです.

自分でも辟易とするほどクサい文章が延々と続くため,鼻をつまみながらお読みいただく必要がありましょう.

残念なのは,VICSとVENDで作成した図面が白黒で印刷されることです.美しさとわかりやすさが相当損なわれてしまいます.PDFも公開されるでしょうから,そちらをご覧いただいた方がいいかもしれません.

■ 2005年2月16日(水)

RIETAN-2000 Rev. 2.0.1をリリースしました.spgri中の空間群P3121(No. 152)のところに置き忘れていた別な軸設定に対する行を取り除きました.VICSの場合,v5.1.4で修正ずみです.雛形ファイル*.ins中で中性子回折における吸収補正のために入力する変数の名前をABSORPに変えました.ABSORPとしては,試料の密度だけでなく-μR = -(線吸収係数)×(試料の半径)を入力できるようにしました.マイナスがついているのは,ABSORPが正だと試料密度,ゼロだと吸収補正なし,負だと-μRと判定するためです.詳しくは,雛形ファイル(すべて更新されています)を参照してください.

μRはダイレクトビームの透過率から求めます.吸収断面積の大きな元素を含む試料を扱う場合や比較的長い波長の中性子を入射する場合は,密度よりμRを入力すべきです.ちなみに,SPring-8の物材機構ビームラインの粉末回折装置を用い,デバイーシェラー型光学系で強度データを測定していたころは,たとえ波長が非常に短くても,常にダイレクトビームの透過率を測定していました.

■ 2005年2月17日(木)

2月15日に記した8つの図面ですが,編集担当者から「あまりにもカラーが綺麗なので感嘆しました。」とのメールが届きました.確かに色つきだと,素晴らしいです.イメージの質を落とさないように注意していますし.でも白黒になると,見るも無惨に…

1月23日に記した古谷龍也君との間の逆Q & A

デバイーシェラー型光学系の場合,吸収をきちんと補正しないと,等方性原子変位パラメーターB の確度が下がってしまいます。なぜ,このようなことが起こるのでしょうか?

ですが,遅ればせながらQ & A, No. 13で公開してもらいました.

平板試料を用いるブラッグーブレンターノ光学系や平行ビーム光学系では,吸収因子は2θと無関係に一定です.デバイーシェラー型光学系では,キャピラリー(X線回折)とバナジウムセル(中性子回折)を回転させながら回折強度を測定します.観測強度に及ぼす選択配向や粗大結晶の効果を軽減でき,試料による吸収が比較的少ないとき有効です.昨日書いたことと重複しますが,重原子(X線回折の場合)や吸収断面積の大きな元素(中性子回折の場合)を含む試料を扱う場合や,波長が比較的長い場合は,ダイレクトビームの透過率を測定して,μRを求めるべきです.

彼とメールをやりとりしている過程で,中性子回折において透過率から密度を計算する方法を聞かれました.その計算には吸収断面積,非干渉性散乱断面積,干渉性散乱径まで必要で,短いプログラムを書かなければなりません.そこでユーザーの利便性を損なわないよう,μRを入力する機能をRIETAN-2000に急遽,追加しました.μRならば,透過率から簡単に求まります.これがRev. 2.0.1リリースの舞台裏です.

さて,ダラダラ続けてきたQ & Aですが,古谷君も3月で修士課程修了ですし,この辺で幕を引くことにしましょうか.そうそう,大分前ですが,奇怪なメールを受け取りました:

はじめまして、私は物理のかぎしっぽプロジェクトメンバーの一人、イズルードと申します。

私は学部時代、MEM(最大エントロピー法)によるアルカリハライド結晶の電子密度解析という題目で卒論を書きました。

そもそも、私が大学に入ったのも、その研究室を選んだ理由も『現実逃避』です。話が長くなりますので今回はそういったことについては省略させてもらいます。

お忙しいところすみませんが、次の4つの質問に答えてください。
・MEMは何の役に立つのか?
・MEMは人間の物質的な幸福につながるのか?
・MEMは人間の精神的な幸福につながるのか?
・MEMは自然界にどういった影響を及ぼすのか?

追記:私とのメールとのやりとりはもちろん、私の個人情報のすべてを公開することを許可します。

実のところ,多忙のため,黙殺したままでおりました.「MEM」を「リートベルト法」,「研究」,「金」,「女」,「クルマ」,時節柄「バレンタイン・チョコ」など,何に置き換えても構いませんから,私に替わり,最終Q & Aとして回答してやってください,古谷君.

■ 2005年2月18日(金)

昨晩,当Wepサイトのコンテンツのバックアップ作業中に,誤って大半のファイルを消去してしまいました.本日,ほぼ完全に復旧させました.今後はこのような致命傷になりかねないミスを犯さぬよう,十分気を付けます.

■ 2005年2月19日(土)

VICS v5.3.2をリリースしました.斜方晶系で非標準的な軸設定を採用すると,Output Windowに各原子に対する対称操作が誤表示されるというバグを取り去りました(Ruben).ただし,それらの軸設定では,CIFが正しく出力されないことにご注意ください.Atoms Dialog Box中のチェックボックス"Show outlines of ellipsoids"を"Show principal ellipses"に変更しました(泉).'Outline'という曖昧な用語はまずいので,ORTEP-IIIのマニュアルで使われている由緒正しい表現に改めたということです.さらに,配位多面体の稜や熱振動楕円体のprincipal ellipseが表面に存在しないとみなされ,かすれてしまうことがあるという不具合を修正しました(門馬).このために,二つの新しい関数を追加しました.

今回の改訂に対応するため,VICS_VEND_manual.pdfも修正しました.

■ 2005年2月20日(日)

答えに窮するような質問への回答を押しつけられたにもかかわらず,古谷龍也君はQ & Aをこの先も続けたいのだそうです.今時,これほどパワフルで手応えのある学生は珍しいです.しかしねえ,会社で本格的に働き始めたら,そんな余裕など到底ないと思いますよ.まあいいや.とりあえず,もう一つ,こんな質問はいかがでしょうか:

Q: 複数の相の混合物をリートベルト法で定量する際,厳密にはmicroabsorptionを補正しなければならないそうですが,microabsorptionとはなんでしょうか.そしてどのように補正するのでしょうか.

工業材料は混合物であることが多いですから,この知識は将来,会社の仕事に役立つかもしれません.

■ 2005年2月21日(月)

東工大,八島研究室のホームページで,Liイオン伝導体La0.62Li0.16TiO3の結晶構造と拡散経路に関する研究(J. Am. Chem. Soc.に掲載される予定)が図面2つ入りで紹介されています.粉末中性子回折データのMPF解析により,Liイオンの移動経路を解明したそうです.解析と可視化にはRIETAN-2000とVENUSが使われました.

■ 2005年2月22日(火)

2月20日に記したQ & Aの答えです:

Q: 複数の相の混合物をリートベルト法で定量する際,厳密にはmicroabsorptionを補正しなければならないそうですが,microabsorptionとはなんでしょうか.そしてどのように補正するのでしょうか.

A: 多相試料を扱う場合,吸収因子(「粉末X線解析の実際」,6.2.2参照)以外にmicroabsorption(absorpition contrast)の補正が必要になる場合があります.カリティの「X線回折要論」(松村源太郎訳)では,microabsorptionを「局部吸収」と訳しています."Particle absorption"と呼ぶこともあります:

相Aの比較的大きな結晶子が相Bと共存している場合を想定してください.入射ビームが相A中で過ごす時間は相B中で過ごす時間に比べ長くなります.その結果,入射ビームが混合物の平均線吸収係数の媒体を通過しているかのように吸収されるという近似は成立しなくなり,入射ビームは相Aの線吸収係数に近い物質で吸収されるかのように振る舞います.

言い換えれば,回折を起こしている結晶子内部での吸収は,その結晶子のサイズあるいは線吸収係数が十分大きい場合,無視できなくなるということです.

相Aとの線吸収係数が相Bの線吸収係数よりはるかに大きい場合も,似たような状況が出現します.たとえばLiFとPb(NO3)2の混合物がこれに該当します.

このような吸収効果をmicroabsorptionと呼びます.Microabsorptionの影響は消衰効果と同様,結晶子サイズと波長が小さくなるにつれて減少します.中性子回折の場合は,よほど吸収断面積の大きな元素を含んでいない限り,microabsorptionを無視できます.

Microabsorptionの補正法はいくつか提案されています.たとえば

には,リートベルト解析においてBrindleyの方法

に基づいてmicroabsorption効果を補正する方法が報告されています.

■ 2005年2月23日(水)

VICS v5.4をリリースしました.Atoms Dialog Boxにおいて,熱振動楕円体のprincipal ellipseの線幅{Line width}を指定できるようにしました.門馬綱一君,ご苦労様.v5.3.2における改善と相まって,熱振動楕円体上のprincipal ellipseが大分鮮明になるはずです.

従来は,イメージファイルとして保存した画像中のprincipal ellipseがか細くて,明瞭に見えませんでした.試行錯誤で調べたところ,{Scale} = 10のとき,{Line width} ≒ 8.0が適当な値でした.スクリーン上では極端に太く見えます.カラーの図面でないと,見えにくいのが玉に瑕です.

VICSとVENDの次世代版が完成した暁には,現バージョンはtoy(おもちゃ)に成り果てると以前,記しましたが,おもちゃをどこに出しても恥ずかしくないおもちゃたらしめるだけでも,膨大な手間暇がかかります.今日もVICSが必須機能を欠いていることを指摘されました.確かに仰せの通り.これは最優先で組み込まねばなりますまい.なにしろ当該機能は種々の超伝導酸化物の研究に(も)役立つ上,VENUSは超伝導プロジェクトの予算に100%依存してきたのですから.

おっと,RIETAN-2000もそうでした.RIETAN-2000とVENUSのユーザーは超伝導プロジェクトの恩恵に浴していることを忘れるべからず!

■ 2005年2月24日(木)

Z. Kristallogr., Vol. 219, No. 12 (2004)は"Structure Determination from Powder Diffraction Data"の特集号(Ch. Baerlocher, L. B. McCusker編)です.12のレビュー論文が掲載されています.非経験的構造解析に挑戦したい方は,見逃してはなりません.

■ 2005年2月25日(金)

ALBA v1.3.1を含むVENUS.tbzとそれに対応した三つのバッチファイル*.batを追加したExamples.tbzをアップロードしました.二つのプロンプト行から'including its absolute path'という文字列を削除しました.上記のバッチファイルをダブルクリックしてALBAを起動すれば,絶対パスはもはや必要ないからです.

ALBA v1.3.1はCompaq Visual Fortran Compiler v6.6C3でビルドしました.Pentium 4用に最適化されています.新たに"Maximum Optimizations"と"Generate Most-Optimized Code"というコンパイラ・オプションを指定した結果,かなり高速化しました.

ALBA_manual.pdfとVICS_VEND_manual.pdfも更新しました.後者では,全文書にわたってスペルチェックをかけました.

古谷龍也君から中性子・放射光実験施設での注意点・アドバイスRIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析に追加したという知らせが届きました.本人の写真も別なページに貼られていました.それにしても,ずいぶん肥大成長を遂げたもんですね,このサイトは.これだけ充実したWebサイトを構築した学生がどれだけいるでしょうか.ほとんど拝見したことがありません.悲惨なヤツだったら,枚挙にいとまがありませんが…

2月22日に記したBrindleyの論文をN女史が送ってくださいました(深謝).1945年発行の雑誌を所蔵しているというところに歴史の重みを感じます.

μiを相iの線吸収係数,μaveを混合物の平均線吸収係数,結晶子の有効半径をRとすると,各相の(μi - μave)Rからmicroabsorptionを容易に補正できます.電卓でも可能な計算ですが,いずれRIETAN-2000に組み込むことにいたしましょう.

■ 2005年2月26日(土)

2月23日に記したVICSに欠落している機能とは,結合探索における最小結合距離{Min. distance}の指定にほかなりません.超伝導Co酸化物の発見者である高田和典氏からその機能を追加するよう要望されたため,門馬綱一君にお願いして組み込んでもらいました.不規則構造をもつ物質を扱う際に結合距離の範囲を指定できないのでは,話になりません.これまで,そういう要望がなかったのが不思議なくらいです.

相当手こずるだろうな,と予想していたところ,門馬君はたった一日でやってのけてしまいました.あらためて彼の力量に感服いたしました.

本掲示版に何度も明記したことですが,VENUSはCo酸化物超伝導体の研究を通じて着実にブラッシュアップされました.とりわけ助かったのは,単位胞内の総電子数(干渉性散乱径の合計)が規定値から逸脱するというMEEDの致命的(かつ隠蔽されてきた)バグに気づかせてくれたことです.理由は不明のままですが,Co酸化物超伝導体の場合,MEM解析後に総電子数がなんと約20%も変動しました.この物質は超伝導を呈するだけでなく,総電子数の変化を検知するセンサーとしても優れていたのです.2月23日に記した経済的支援だけでも十分ありがたいのに,さらに恩恵を施してくれるとは… こういうのを「天使が舞い降りる」というのではないでしょうか.私の仕事に明るく暖かい光を投げかけてくれるのは,いつまでたっても超伝導なんですね.これからも何らかの形で超伝導の研究に貢献するよう心がけます.

ともあれ,VICSをv5.5にアップグレードしました.地味に見えるでしょうが,v5.0のリリース以来,もっとも重要な改訂であることは間違いありません.

2月15日に記した解説「結晶構造と電子状態の三次元可視化システムVENUS」中のfigure/table captionを英文にせよ,とのお達しがあったので,大至急,英訳しました.どさくさ紛れに,本文と引用文献にも手を加えました.あらためて読み返していたところ,筆力の強さに,思わず引きずり込まれるような気がしました.なんとも強烈な,ぶっ翔んだ文章ですが,別な機会に不純物を除去し,脱臭処理を施した上,添加物を加えて再利用するつもりです.

■ 2005年2月27日(日)

時代は変わるんだよ。

ハイ,仰せの通りです.舗爾威帝劉(ポニーテール)の頭(アタマ)のミコさん.

少なくとも我が国では,VENUSがリートベルト解析一辺倒だった粉末構造解析の世界を一変させました.VENUSのおかげでMPF解析が手軽に実行できるようになったのです.MPF法はとくに不規則構造や欠陥構造の精密化に威力を発揮します.たとえば固体イオニクスの分野では,MPF法は中性子回折による二次電池用正極材料,燃料電池,プロトン伝導体における可動化学種の移動経路の解明に広く応用されていくでしょう.

VENUSは電子密度可視化や重畳反射の積分強度改善のための必需品としても役立っています.まだ局所的ではあるものの,VICSとVENDが電子状態計算の世界でも旋風を巻き起こしているのは,坂根弦太氏のWebサイトを閲覧すれば明白です.

RIETAN-2000をリートベルト解析だけに使っていては,宝の持ち腐れです.MPF解析(VENUSとの連携)やLe Bail・MEP解析(EXPOとの連携)にもぜひご利用ください.

Googleの出現も革命的な出来事でした.最近,私はGoogleを国語辞典代わりに頻用しています.ある単語が種々の文章中でどのような単語と結びついているかを知るためです.文章を推敲するのに役立ちます.従来は知る由もなかった情報もGoogleを通じて入手できるようになりました.例をあげましょうか.VENUSの話が出てきたばかりなので,visualなことに話題を絞りましょう.

掲示板BNの2月7日に元気な高校生が主人公の映画を6つ列挙しました.これらの映画を観ていて,もっとも印象に残ったのは,なんといっても「さよなら、クロ」のラストシーンです.主人公たちが歩いている道の先に雪山の大パノラマが広がっていました.山好きの私には堪えられない絶景でした.バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」が聞こえるような気がしました.いったいどこで撮影したんだろうかと,興味が湧きました.これがGoogleで即座にわかるんです.伊那市あたりから南アルプス(甲斐駒ヶ岳,仙丈ヶ岳,etc.)を望む風景だとのことです.いつか現地を訪れてみたいものですね.

もう一つのお気に入りは「花とアリス」で,手塚高校に入学したハナ(鈴木 杏)とアリス(蒼井 優)が桜吹雪の中を戯れながら登校する,愛らしく微笑ましいシーンです.こちらには,あのチャーミングなピアノソナタK.330の第1・第3楽章が似合います.このシーンのロケ現場をGoogleってみたところ,東京都北区滝野川紅葉橋と音無もみじ緑地だそうです.そのほか,紙コップ製シューズを履いたアリスのバレエも圧巻でした.これらの映像美を創り出してくれた篠田 昇カメラマンは,昨年6月に癌のために死去されたこともGoogleは教えてくれました.謹んでご冥福をお祈りします.

桜と言えば,「Dolls」の冒頭で,赤い紐で互いに結ばれた男女が満開の桜の下をさまよう,哀切極まりないシーンを思い出します.これが埼玉県幸手市の権現堂堤で撮影されたということもGoogleで知りました.この狂おしい情景のBGには,ブラームスの弦楽六重奏曲第1番第2楽章がうってつけです.

これから時代がどう変わっていくのかは,想像もつきません.先の短い私は,せいぜい既に存在するものを活用するのが関の山です.

■ 2005年2月28日(月)

ヒロシです・・・ まめな男を目指していたら、ストーカーって言われたとです。

いやがる女にしつこくつきまとったら,そりゃストーカーですわな.ヒロシくん.

物言わぬコンピュータに30年近くつきまといまくっている私は,ストーカー呼ばわりされるどころか,多くの人々から感謝され,何度も表彰までされてますよ.

可愛らしい女子学生とお話ししていた最中に,Fortranコンパイラの新バージョンが机の隅に鎮座していることに気づきました.おっ,こりゃいいもの見つけた.女の子にクルっと背を向け,すぐさまインストール開始.引き続きRIETANのビルドです.まずは最適化抜きでコンパイル・エラーを解消.あれっ,最適化レベルを上げると,RIETANが動かない.それじゃー,試行錯誤でunitごとにレベルを下げていこうか.(中略).我に返って後ろを振り向いたら,女の子は姿を消していました.

自分の母親の葬儀が終わってから出勤し,しばらく中断していたプログラミングを再開したこともあります.

修士課程2年の学生(M君)から,VENDがうまく動かないという知らせが2月25日(金)の夜,届きました.VENDで等電子密度表面を可視化した後,VICSで作成した*.vcsを読み込み,両者を重ね合わせると,一部の原子(球)が表示されないというのです.ありゃ,またバグかいなと,軽いショックを受け,少々落ち込みました.それに大学院修了も間近だとすると,早急に解決しないとまずいな,とも思いました.何度かメールをやりとりして事情を聞いた後,翌日の午前中に職場まで出かけ,M君から送られてきたファイル(*.priと*.vcs)をチェックしてみました.すべての原子が半透明の等値曲面内に現れました!ああ,助かった ーーー 思わずほおが緩みました.M君のPCでうまく表示されない原因は不明です.

M君から「私のような一学生に、懇切丁寧にお返事を頂き、ありがとうございました。」とお礼を言われましたが,バグかどうかが気になって,何も手につかないから,やむを得ず休日出勤しただけのこと.大先生だろうが,一学生だろうが,なんの差もつけません.まあ,仮に将来,後輩に何か質問されたら,親切に教えてやってください.教え,教わりの世代間連鎖が途切れると,世の中はうまく回りませんから.

例を三つ挙げましたが,コンピュータ関係のことになると,私はとにかくマメです.それ以外はグータラそのもの.ファイトが湧きません.教育に熱心だったら,大学の教員になっていたかもしれませんし,会議や書類書きや雑用を厭わない性格だったら,もっとエラくなっていたことでしょう.

唖然とするような逸話(正真正銘の実話)はこれくらいで切り上げ,VENDに関する一口メモを二つ書き込んでおきましょう:

ご存じのように,VENDは単一あるいは複数の単位胞内の等値曲面を表示します.意外と知られていないようですが,単位胞の一部領域中の等値曲面を表示することもできます.詳しくはVICS_VEND_manual.pdfの4.2.2をお読みください.

Dialog Bar中の三つのチェックボックス"Show isosurfaces","Show sections","Show model"でそれぞれ等値曲面,単位胞のエッジにおける断面,構造モデル(*.vcsから読み込みます)を表示するか否かを指定します."Show model"はでフォールトでオフになっていることにご注意ください.等値曲面と棒・球棒模型を重ね合わせる際には,"Show section"をオフにすると,断面が透明になり,エッジ近辺の原子が見やすくなります.

■ 2005年3月1日(火)

私的「悪魔の辞典」より:

マニュアル: ユーザーからソフトの使い方について質問されたときや障害の可能性を指摘されたとき,「それについてはマニュアルの■■■ページに明記してあります」と指摘するための文書.不具合を仕様だと主張し,言い逃れるのにも使う.
■ 2005年3月2日(水)

話題の枯渇にあえいでいるため,今日は昨日の書き込みに対する蛇足で勘弁してください.とりとめもない話で,読むだけ時間の無駄,ということをあらかじめお断りしておきます.

「マニュアル」といえば,一般に日本人は英文マニュアルを毛嫌いする傾向が強いです.日本語じゃないと読む気がしないよ,という態度なんだな.各種ソフトのメニューやダイアログボックスも日本語化されていることを望みます.だからこそ,日本語版がよく売れるのです.そればかりか,種々の輸入品に日本語の説明書が入っていないと承知しない人が多いです.そのために余計なコストが必然的に発生するのですが,そんなことはお構いなし.そこで問題となるのが,拙劣な翻訳です.目を背けたくなるような代物さえあります.日本語と言えないような日本語に四苦八苦しなければならないのだったら,英語のままの方がよほどまし.日頃使っているVisual FortranとAbsoft Pro Fortranには日本語のマニュアルもありますが,私は一度も使ったことがありません.

VENUSに含まれる4つのプログラムのマニュアルは英語で執筆しましたが,これについても,どうして日本語で書いてくれないんだろう,と陰でブツブツ言っている声が幽かに聞こえるような気がします.こりゃいったい何語だい,と馬鹿にされるレベルの英文ではないと信じています.とすると,「日本人が払った税金でソフトを作ってるんだろ.ガイジンのことなんか,どうでもいいじゃねえか.」というような島国根性が露呈しているのかもしれません.それらのマニュアルを和訳するべきなのでしょうか.あー,あほくさ.

「英語」という言葉から思い出したことがあります.昔,●●先生が化学英語に関する本を出版しました.よほど,英語論文の執筆に自信がないと,そこまで踏み切れません.ところが,なにかの機会に■■先生(native speakerなみに英語が達者です)から伺った話では,●●先生が留学していた研究室のボス(アメリカ人)と四方山話をしていたら,「●●君はなかなか優秀な男でしたよ,英語は悲惨でしたけどね.」と仰っていたそうです.それじゃあ,その本の読者が浮かばれないではありませんか.当Webサイトに英語論文の書き方といった類の記述が一切ないのは,こういう零れ話が脳裏に刻み込まれているためです.

英語がどうのこうの以前の問題として,まともな日本語の文章が書けない日本人が氾濫しています.10年余り前の話ですが,とある学会の機関誌の編集委員として,2年間にわたって数多くの原稿を査読しました.若手研究者の投稿が多いせいか,日本語の文章として低レベルな原稿がやたらに多く,閉口しました.語彙が貧弱で,誤字脱字が多く,文と文がうまくつながっておらず,論理性に欠けているというのが一般的傾向でした.主語と述語が一致してない,なんてのは日常茶飯事.中には原稿が真っ黒になるほど添削したヤツもあり,知的レベルを疑いたくなりました.超伝導の研究で忙しい時期だったのに,毎月原稿の手直しに追いまくられ,まるで賽の河原に石を積んでいるかのような暗澹とした気分に陥りました.

嗚呼,こういう歯に衣着せぬ言葉を吐くのは,天に唾するようなもんです.「そういうお前のアホバカ丸出し掲示板はどうなんだ」と罵られかねません.この辺で止めておきます.

ところで2月28日に記したM君によるVENDの不具合報告ですが,その後,こちらでも当該障害を確認しました.どうも全原子が表示されていると,私が勘違いしていたようです.M君,申し訳ない.早急に修正いたします.

■ 2005年3月3日(木)

VEND v6.7をリリースしました.*.vcs中の結晶データから発生させた等価位置の一部が欠落することがあるという不具合を修正しました.対称操作や並進により等価位置を発生させる部分における2つのミスが原因でした.さらに,*.vcs中に記録されている最小原子間距離を読み込むようにしました.昨日,私が下らないことを書き散らしている間に,門馬綱一君があっさり解決してくれました.

v6.7でも一部の原子が欠落する恐れがあります.その場合は,実例(ファイル)を添付してご連絡ください.

これでM君の修士論文にMEM解析結果を含めることができ,VENDの安定度も高まりました.めでたし,めでたし.「情けは人の為ならず.」とは,まさにこのことです.

■ 2005年3月4日(金)

Windows用RIETAN-2000のGUIであるCRietan2000がv1.2にバージョンアップされました.

Paint Shop Pro(日本語版)がv9.01にバージョンアップされました.

秀丸エディタがv4.15にバージョンアップされました.

■ 2005年3月5日(土)

坂根弦太氏のWebサイト教科書に出てくる錯体の楽しい電子状態計算というページが追加されました.((1))をクリックすると,VCl4の電子状態計算・3D可視化に関する詳細な情報が入手できます.

上記のWebページに書かれているとおり,VENUSは錯体の教育に大いに貢献しうるはずです.創造的破壊行為としてのプログラミングにも明記したたように,VICSとVENDは教育に使ってもらうことも意識して設計しました.VRMLプラグイン/Chime+ブラウザによる中途半端な3D可視化には失望の念を禁じ得ませんでした.それに,ブラウザのような重量級ソフトで分子を眺めるなんて「鶏を割くにいずくんぞ牛刀を用いん」てなもんで,バランス感覚が欠如しています.そこで,professional qualityをもつ本格的ソフトの完成を目指しました.未だに発展途上ですが,次世代版ではその域に達したいと願っております.

無機化学の教科書として有名な

には多数のMDL Molfileファイルを収録したCD-ROMが添付されていて,種々の無機化合物の構造を三次元的に理解できるよう配慮しています.私のdynabookにはそのイメージファイルが保存されており,いつでもDAEMON Toolsでマウントできるようにしてあります.このCD-ROMが"Inorganic Chemistry"の訳本に付いていないのは,誠に残念です.

しばらく前に坂根氏からいただいたメールに

最近発行されたアメリカ化学会の無機化学関係の雑誌、Inorg. Chem.にも、ADFという商用の密度汎関数プログラムで無機化合物の電子状態を計算して、同じように等電子密度曲面を静電ポテンシャルに応じて彩色した図が派手に掲載されておりましたが、ぱっと見た目にDV-Xα+VENUSで作成した図の方が、ずっと美しいと思いました。

と書かれていました.その図は

中のFig. 2だそうです.MOLEKEL v4.3で作画したと記されていますが,確かにお世辞にも綺麗とは言い難いです.等電子密度曲面上で色が滑らかに変化していないのです.計算時あるいはイメージファイル出力時の分解能が低すぎたのかもしれません.

なお,等電子密度曲面を静電ポテンシャルの値に応じて彩色するためのノウハウについては,DV-Xα分子軌道計算をこれから始める方へ: とりあえず第一歩の利用マニュアル,[8] 等電子密度表面上の静電ポテンシャルの三次元可視化中の◎8と◎9に詳細に記述されています.要するに,両物理量のピクセルデータの点数をできるだけ増やすのが有効ということです.

■ 2005年3月6日(日)

Jedit Xのノウハウ: ツールバー上でエンコーディング,改行コード,ルーラ位置を表示させるには,表示 → ツールバーのカスタマイズ...で,直接ツールバー中の所望の位置にdrag & dropする.

■ 2005年3月7日(月)

日本セラミックス協会2005年年会での口頭発表の準備をしている段階で,非経験的構造解析システムEXPO,RIETAN-2000,VENUSの連携を支援する便利なユーティリティーを2本作成しました.それらをテストしている過程で,EXPOがいかに強力なソフトであるかを実感しました.EXPOはGiacovazzo教授らのグループが作成・配布しています.このような驚嘆すべきソフトが無償提供されている(非営利組織に限る)とはunbelievableです.昨年11月にリリースされた最新版(EXPO2004)では,指数づけのルーチンN-TREORが追加されました.モンテカルロ法で観測積分強度を改良することもできます.

2年前に開かれた国際会議XIX-CACで,Giacovazzo教授と私がそれぞれEXPOによるab initio構造解析とMPF法による構造精密化に関する基調講演を行ったことを思い出します(2003年9月10日の掲示板参照).直接法の世界的権威の直後に講演しなければならないのには,正直言ってビビリました.不遜の誹りを免れないかもしれませんが,今にして思えば,Giacovazzo → Izumiというのは絶妙なsequenceでした.EXPOとRIETAN-2000/VENUSは互いに補足的な役割を果たすからです.EXPOによるLe Bail解析におけるフィットの悪さ(old-fashioned profile functionに起因)と重畳反射の積分強度の低確度(equi-partitionのせい)はそれぞれRIETAN-2000とALBAが補ってくれます.EXPOが導き出した不完全な初期構造モデルの改善には,RIETAN-2000ーPRIMAによるMEM解析とVICSーVENDによる3D可視化が有効です.EXPOは通常のリートベルト解析しか実行できず,しかもプロファイルのフィットはLe Bail解析の場合と同じく,今一です.一方,RIETAN-2000ーPRIMAのペアを使えば,R因子が大幅に改善されるだけでなく,MPF解析により不規則構造を解析したり,電子密度分布を決定したりできるようになります.OpenGLを駆使した3D可視化はEXPOのユーザーにも喜ばれるでしょう.このようなEXPO/RIETAN-2000/VENUSの相補的性格は,2004年9月20日の掲示板で紹介した池田卓史氏の論文からも読み取れます.

ともあれ,ここしばらくEXPOを試用しているうちに,MPF解析と3D可視化に引き続き取り組むべき課題が次第に具体化してきました.パルス中性子関連の仕事を不採算事業としてリストラしたことが如何に先見の明があったかという事もはっきり認識しました.TOF中性子回折は磁気構造解析やMPF解析に本質的に向いていないだけでなく,今,私が多大な関心を寄せつつある重要な研究テーマ ― 非経験的構造解析 ― にはほとんど役立たずなのです.

ところで,来年に予定されているXX-CACの開催に向け,組織委員長を補佐し,かつ招待講演も行うよう要請されました.その講演では,上記の研究課題の成果を発表したいと願っています.残された期間は長くありませんが,あせることなく一歩ずつ前進していくつもりです.XX-CACでは,Giacovazzo教授に自作ソフトをぜひ披露したいものです.

■ 2005年3月8日(火)

昨日記した2本のファイル変換ユーティリティに磨きをかけているうちに,日が暮れてしまいました.しかし,RIETAN-2000とVENUSに新たな付加価値を追加したのですから,うれしくて仕方ありません.これでEXPOとの連携が,よりスムーズに進行するようになります.

■ 2005年3月9日(水)

2月5・7・11・15日に本掲示版で言及した解説「結晶構造と電子状態の三次元可視化システムVENUS」のゲラが届きました.帰宅後にそれを校正していたとき,ELENについて書き漏らしていたことに忽然と気づきました.しまった! それに,PRIMAの超高速MEM解析のアルゴリズムについても説明する(というよりは,自慢する)べきでしたが,今となっては後の祭りです.

PRIMAにしろALBAにしろELENにしろ,VICSとVENDの付録,という意識が強いです.事実,3D Visualization System VENUS中では,PRIMA,ALBA,ELENは「隠花植物」同然の冷たい扱いを受けています.要するに,解析ソフトには華がないのです.VICS・VENDに比べると,開発に費やした時間と手間がはるかに少なく,さして愛着が湧かないという内輪の事情もあります.とは言え,少なくとも我が国では,これらに匹敵する乃至は相当するソフトは皆無なのですから,もっとクローズアップしてやらないと可哀想ですね.

昨日,Microsoft Office 2004 for Macが11.1.1にアップグレードされました.ヘルプ → AutoUpdateで自動更新できます.

■ 2005年3月10日(木)

「風の丘を越えて ― 西便制」のDVDを観ていて,リバプールで開かれたIUCr国際会議の折りに韓国の,さる大学助教授と四方山話をしたときのことをふと思い出しました.その方はソウル大学の出身で,同窓の知人から私のことを色々聞いて好奇心を抱いたらしく,招待講演を無事終えたばかりの私に,話し相手になってもらえませんか,と申し入れてきたのです.会話の中身はほとんど忘れ去りましたが,鮮明に記憶していることが二つだけあります.

一つは,一般に韓国のサイエンスにはroot(根)が生えていない,という彼の言葉です.自らの土壌に根ざし,そこから養分を吸収したサイエンスでなく,余所の国から移植したものにすぎないという意味です.日本でも同じようなものだ,と私が言ったかどうかまでは覚えていません

もう一つは,"In Korea, you are reputed to be a solitary man."と彼が言っていたことです.大方,上記の知人から耳にした評判なのでしょう."Solitary"か.う〜ん,まあ,当たらずといえども遠からずかな.しかし,自作ソフトを介して,多くのユーザーと日夜接しているとみなせば,むしろ逆ではないでせうか.RIETAN-2000やVENUSが私の分身にほかならない以上,それらのユーザーがこの世に存在する限り,私は独りぼっちでない ― と言い張りたいです.

実際に私と対話したところで,チャラチャラした,軽薄で饒舌なオヂにしか見えないでせう.それよりは,私の作成したソフトとだけつき合う方がどれだけましか分かりません.自分で言うのもなんですが,ソフトの方は生真面目かつ堅実で,気配りが隅々まで行き届いているはずです.地に足が着いており,浮ついたところは微塵もありません.

映画に戻りませう.尾羽打ち枯らしたパンソリ芸人の一家三人が全羅道を旅して回るシーンからは,自分自身が北は板門店から南は釜山まで車で縦断したとき眺めた風景もいくつか思い浮かびました.あれから,もう十年ほど経ちました.それは講演旅行でしたが,当時は毎年のように外国の中性子源に実験しにでかけていました.我ながら,実にエネルギッシュでしたね.まさか,後年,プログラムつくりに専念することになるとは予想だにしていませんでした.

父親のユボンと彼が(毒を盛って)失明させた娘ソンファが互いの体を紐で結び,片田舎を蹌踉と歩む,もの悲しい光景は「Dolls」の同行二人を思い起こさせます. ひょっとしたら,「風の丘を越えて」から影響を受けたのかもしれません.ついでに指摘しておきますが,「Dolls」中の片目を失ったアイドル歌手と熱狂的な追っかけのサイドストーリーは,谷崎潤一郎の「春琴抄」の二番煎じとしか思えませんでした.

「冬のソナタ」に魅了された中年のオバさんたちには,「風の丘を越えて」もぜひ観てほしいです.韓流の原点といって過言でありません.

■ 2005年3月11日(金)

VICS v5.5.1とVEND v6.7.1をリリースしました.両プログラムに共通の改善は,管理者以外の一般ユーザーでもVICSとVENDが使えるようにしたことです(門馬綱一君による修正).これまでは一般ユーザーが両ソフトを使うと,ファイルを開こうとしたとたんにクラッシュするという深刻なバグを抱えていました.1台のPCを二人以上の人が使うときには致命傷ですね.この不具合を報告していただいた東京都立大学の山口素夫氏に感謝します.

さらにVICSでは,New/Editダイアログボックスにおいて,軸設定が二つ(b軸とc軸が主軸)しかない単斜晶系の空間群(たとえばP21,No. 4)で軸設定を変えた場合,原子座標が正しく変換されないという不具合を修正しました(大木 寛氏による修正).

門馬君が開発中の次世代版は別として,基本的に新機能を増やさないようにしているのですが,まだまだ枯れてくれません.

別件ですが,物材機構の高田和典氏から,RIETAN-2000の配布ファイルに含まれている雛形ファイルFapatiteJ.ins中の69行目

elelse if NBEAM = 1 then

else if NBEAM = 1 then

に修正すべきだ,という報告を受けました.確かにその通りでして,私の入力ミスです.次のバージョンアップまで間があるので,各自,修正していただくことになります.申し訳ありませんが,よろしくお願いいたします.

■ 2005年3月12日(土)

FruitMenu v3.3がリリースされました.

VICS v5.5.2を含むVENUS.tbzをアップロードしました.ICSDファイル*.icsを入力する際,VICSが異常終了することがあるというバグを門馬綱一君に退治してもらいました.この障害を報告していただいた物材機構の高田和典氏に感謝します.

Stockholm大学の室山知宏氏から,230番目の空間群に属する物質のデータをALBAで処理すると,"end-of-file during read, unit 16, …"というエラーメッセージが出るという報告がありました.spgra.datの最終行(空行)を削除すると正常に動くとのことです.そこでspgra.datとspgri.datの最終行を取り除きました.VICSとも関係のある修正ですので,v5.5.2における変更点に含めておきます.

室山氏はさらに,RIETAN-2000用日本語雛形ファイルCimetidineJ.ins中の589〜604行(英文)が不要だということも教えてくださいました.英文雛形ファイルから当該行をコピー・ペーストして,そのファイルを編集した後,削除するのを忘れてしまったようです.昨日書き込んだことの繰り返しとなりますが,次のバージョンアップはかなり先なので,各自,削除するようお願いいたします.

■ 2005年3月13日(日)

有機化合物や錯体などの分子の結晶データをデカルト座標でなく分率座標として記録しているファイル(たとえば通常のCIF,RIETAN-2000の*.ins,CrystalMakerテキストファイル)をVICSで読み込むと,複数の分子(の一部)が表示されます.VICSは非対称単位内の原子から対称操作と並進操作により単位胞内の残りの原子を自動的に発生させるためです.単一分子全体を表示させるためのノウハウをお教えしましょう.

Dialog Bar中の[Plot range]をクリックし,Plot Range Dialog Box中で一つの分子に属する原子(複数も可)だけを含むようにx, y, z範囲を指定します.次に,Menu Bar中の[Bonds]をクリックし,Search Bonds Dialog Box中で"Search molecules"モードの原子探索を行います.指定領域内の原子から芋づる式に分子内のすべての原子を探索してくれます.詳しくはVICS_VEND_manual.pdf(VICS編)の11節をお読みください.

"Seach molecules"モードは熱振動楕円体の表示と同様に,分子グラフィックスの偉大な先達であるCarroll K. Johnsonに対するオマージュとして実装しました.ORTEP-IIIのreiterative convoluting sphereに相当します.門馬綱一君が製作中の次世代バージョンではマウスのドラッグでスクリーン内の領域を指定して,一挙に複数の原子を削除できるようにしますが,それまではこのモードで必要な原子だけ探索するのが最も効率的です.

私は分子探索,境界を越えた探索(Search beyond the boudary.ORTEP-IIIのiterative convoluting sphereに相当),熱振動楕円体の表示,マウスドラッグによるオブジェクトの回転・拡大・縮小・並進を結晶構造表示ソフトの必須機能とみなしています.無償ソフトならともかく,商用ソフトなのにそれらが備わっていないとしたら,商品価値を疑われても仕方ありません.購入する前に十分調べるようお奨めします.

■ 2005年3月14日(月)

Firefox 1.0.1日本語版がリリースされました.Firefox 1.0 で見つかったセキュリティ問題の修正が含まれています.

■ 2005年3月15日(火)

Windows用RIETAN-2000 Rev. 2.0.2をリリースしました.RIETAN-2000は,*.ins,*.int,*.vcs(VICSフォーマット)が同一フォルダに含まれていると,リートベルト解析後に*.vcs中の構造パラメーターを精密化値に更新します.v1.6以降のバージョンでは構造パラメーターが更新されないということを産総研の乾 昌路氏から通知されたため,その不具合を修正しました.さらに,VICS v5.5.2の場合と同様に,spgraとspgri中の最終空白行を削除しました.

■ 2005年3月16日(水)

Congratulations, F Izumi

と印刷された大型葉書がTHOMSONから届きました.RIETAN-2000を利用して得た成果を発表する際,引用するよう要請している論文

の被引用回数が243(現時点では272)に達し,材料科学の分野でEssential Science Indicatorsに基づくランキングのトップ1%に入ったことを祝う通知だそうです.さらに,

Your work is highly influential, and is making a significant impact among your colleagues in your field of study.
(中略)
Conguratulations on your extraordinary career accomplishment!

と書かれていましたが,トップ1%入りがそれほど名誉極まりない快挙なのでしょうか.Essential Science Indicatorsなる指標について無知な私はキョトンとしただけで,さして喜びもしませんでした.

ともあれ,今年の秋ごろまでには,確実に被引用回数300に達します.大台到達の暁には,祝杯でもあげましょうか.いや,その前に例の新機能と付録2本を追加しなければ…

■ 2005年3月17日(木)

物材機構の国際広報誌NIMS NOW International, Vol. 3, No. 2の巻頭にVENUSの紹介記事が掲載されました.

■ 2005年3月18日(金)

VICS v5.5.3をリリースしました.Dialog Bar中の[Plot range]を[Boundary]に,Plot range Dialog BoxをBoundary Dialog Boxに,同Dialog Box内の'Range of fractional coordinates'を'Ranges of fractional coordinates'に変更しました.3Dグラフィックソフトで'Plot'という古風な用語を使うのは不適切と判断したためです.さらに三つのマニュアルVICS_VEND_manual.pdf,PRIMA_manual.pdf,ALBA_manual.pdfも更新しました.

本日からボケ防止を兼ねて,時折,短歌(あるいは狂歌)を詠むことにしました.第一弾は当掲示板にツッコミを入れ,こんなところで:

書くネタに枯渇したとてなんのその
ビーナスさわって埋草を得る

生まれて初めて詠んだ歌だという点を考慮したとしても,あまりにも不本意な出来映えです.落胆しました.

■ 2005年3月19日(土)

SIRとEXPOの開発者であるGiacovazzo教授が編集した結晶学の入門書

が届きました.前にも書いたことですが,VENUS開発中は,終始一貫して本書,第1版のお世話になりました.結晶学を学ぼうとする方々にぜひお奨めしたい名著です.今回からCD-ROMが付録に付いています.

3月7日にも書きましたが,ここしばらくEXPO2004について詳しく調べてきました.驚異的なab initio構造解析システムです.その高性能ぶりに圧倒されました.これほど凄いと,逆空間からのアプローチに関する限り,他の研究グループがいくら頑張っても追いつけないでしょう.

ただ,EXPOはRIETAN-2000およびVENUSで補完すべきシステムだという信念は,微塵も揺らいでいません.部分プロファイル緩和,MPF解析,MEP解析,3D可視化がRIETAN-2000―VENUSの強みです.私はEXPOを競争相手でなく,強力な連携先と位置づけています.EXPO―RIETAN-2000―VENUSの徹底活用を我が国における粉末回折の最新トレンドかつ一大潮流とするべく,地道に努力していくつもりです.その先にVICS/VENDを通じた電子状態計算ソフトとの連携が控えているのは言うまでもありません.

■ 2005年3月20日(日)

RIETAN-2000やVENUSがらみのことでメールをやりとりしたり,実際にお会いしたり,中にはWebページの作成に協力したりしてきた学生が次々に社会へ巣立っていきます.昨年暮れには,東工大の中山将伸君が脇原研の助手に採用されました.最近,彼から電子状態の計算結果をVENUSで可視化した図が含まれている論文のPDFが送られてきました.やはり,華やかなカラーの図面は論文を引き立てますね.今年は東北大の村田浩一君と日大の古谷龍也君が修士課程を修了し,会社に就職します.活躍を祈っております.

なお,今日から3月24日まで松江と岡山に出張します.当掲示板への書き込みは,その間,停止します.

今回は,行き帰りとも飛行機に乗ります.万一,飛行機が墜落したならば,一昨日のサイテー短歌が辞世となってしまいます.いくらなんでも,そりゃーまずい,と危惧し,自分の苗字を埋め込んだ歌をひねり出しました:

K.543 交響曲第39番のメヌエットを聴きて詠める

やはらかき木管の音(ね)に聴き入りて
永遠(とわ)に尽きざる泉を思ふ

ついでにもう一首,

梅園公園を通り過ぎつつ詠める

澄みわたる青空のもと咲く梅の
香りをよそに先急ぐ我

よし.これで安心して,あの世に逝ける(笑).

■ 2005年3月24日(木)

先ほど無事,帰宅しました.旅先でのことを書くのはスキップし,とりあえず松江で詠んだ一首を披露しておきます:

古墳公園より宍道湖を一望しつつ詠める

宍道湖の水面(みなも)に映へる陽光も
我が心には届かざりけり

岡山でも一首詠もうと努めたのですが,今のところ完成途上品です.

■ 2005年3月25日(金)

昨日は,岡山理科大学の錯体化学研究室を訪問させていただきました.その際,坂根弦太氏から全元素(!)の代表的なs軌道、p軌道、d軌道、f軌道の波動関数の3Dデータファイル*.scaをダウンロードできるようにしたと伺いました.これらのデータがVENDで視覚化できるのは言うまでもありません.労作です.教育に大いに役立つので,ぜひ活用してください.

最も本質的なVENUSの「機能」は無料だということです.大学教育には,これが必須条件となります.学生自身のPCにソフトをインストールし,いつでもどこでも3D可視化できるということが何にも増して重要なのです.たとえば,無機化学の授業で,結晶構造を収めた*.vcsや波動関数などを収めた*.scaを配布すれば,種々の物質の結晶・電子構造を三次元的に理解するのに,すこぶる役立ちます.VENUSはこれからの大学教育に貢献する強力な道具になると確信しています.

■ 2005年3月26日(土)

3月20日から今日まで,私としては異例なほど多くの方々にお会いしました.一々,お名前を挙げたり,お会いしたときの模様を述べたりするのは控えておきますが,ほぼ全員が私のソフトの(元)ユーザーです.本当に明るく楽しく過ごした一週間でした.大学や企業で活躍している方々ばかりだったので,なんとなく私も元気になりました.

今晩は,岡山で詠んだ拙い短歌(3月24日参照)を,とある方に献呈しました.その方のために詠んだものなので,ここでは公開しません.悪しからず.

といっても,私は歌人に必要な才に欠けています.暇人と言われるのが関の山.やはり自作ソフトあっての私です.ソフトを作らなければただのオヂ.嗚呼,その辺に掃いて捨てるほどいる,実質的に存在意義ゼロのオヂにだけは成り果てたくありません.今後も自作ソフトに磨きをかけるとともに,広く普及させるべく努める ― それだけが生き残る術(すべ)です.

■ 2005年3月27日(日)

Drag'n Drop CD+DVD5を特別先行アップグレード期間限定の特別価格で購入しました.仕事(バックアップ)に使うのですが,年度末につき自己負担.さして進歩はしていないものの,対応ドライブが増えています.

■ 2005年3月28日(月)

う〜ん,「マッハ!!!!!!!!」は文句なしにスッゲー.CG・ワイヤー・スタントマン・早回し抜きの古式ムエタイ・アクション映画.これに比べれば,1月8日の掲示板で不満を漏らした「カンフーハッスル」は児戯に等しい.トニー・ジャーは超人だ!!!!!!!!

ところで,撮影中に怪我人はどれくらい出たのでしょうか?

■ 2005年3月29日(火)

「マッハ!!!!!!!!」とは違う意味でスゲーのが,吾妻ひでおの「失踪日記」です.吾妻ひでおは美少女キャラの登場するコミックや「萌え」文化の先駆的存在だそうです.「失踪日記」は過酷なマンガ稼業,突然の失踪,自殺未遂,ホームレス,配管工,アルコール依存症,強制入院などの壮絶な体験を描写したマンガで,「全部実話です(笑)」という副題が付いています.もっとも,ギャグマンガ調でコミカルに表現されているので,鬱陶しく悲惨な雰囲気には少しも落ち込んでいません.

このマンガを読んでいるうちに,映画「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」のイングマル少年のように,これに比べたら自分の人生の方がマシ,と思えてくることでしょう.なお,最後にカバー裏を見忘れると,もったいない(マータイさん推奨語).くれぐれもご注意ください.

■ 2005年3月30日(水)

三日連続でスゴすぎるものを紹介します.予想よりずっと早く,東北大の門馬綱一君から次世代VICSのWindows用開発途上版が送られてきました.若くして,すでに手練れのプログラマーに成長しているとは ― まだ修士課程1年の学生なんですが.

これまでGLUTGLUIの時代遅れコンビで構築してきたGUI用コードは,すべてオブジェクト指向ライブラリーwxWidgetsで書き換えました.すでに

  1. マルチウィンドウ(プロセスは一つ)
  2. VICSのアイコンあるいはVICSのウィンドウへの複数ファイルのドラッグ&ドロップによる同時入力
  3. 複数の構造(ファイル)のタブ切り換え
  4. プルダウン・メニュー
  5. タブ切り換え可能なProperties (General, Atoms, Bonds, Polyhedra, Lattice plane) Dialog Box
  6. マウスのドラッグによる複数原子の選択(+削除)
  7. ビデオカードの最大ピクセル数を超えた分解能をもつラスターデータの出力
  8. Text Window(旧Output Windowに相当)の保存と消去
  9. 従来版におけるBarとWindowを統合した新デザインのWindow
  10. 事実上無制限の原子・結合・配位多面体の総数,非対称単位内の原子の総数,ユーザーが指定する結合の総数,削除するオブジェクトの総数
  11. 非標準的な軸設定の空間群における等価位置の変換
  12. 原子生成の高速化(2〜5倍)
  13. 半透明な配位多面体の描画順序の改善

を実現しています.マルチウィンドウとタブ切り換えが可能な点はFirefoxSafariと似ています.

従来はすべてOpenGLに頼っていたGUIの一部がWindows固有のGUIに置き換えられ,メモリー管理が徹底的に改良された結果,より軽快に動くようになりました.

本次世代版に比べれば,現バージョンは基本設計がprimitiveな「おもちゃ」に過ぎません.門馬君の手で根本的に書き換えられた次世代版は,実質的には新作ソフトです.しかし,現バージョンがなければ,これだけのものを作るのは無理だったでしょう.

これから長期間を費やして,この次世代VICSに磨きをかけていきます.完成の暁には,同一のソースコードからWindows,Linux,Mac OS Xに特有なGUIを備えた3バージョンをビルドできるようになるはずです.十分満足のいくレベルにまで熟成したら,次はVENDのフルモデルチェンジに取りかかります.ご期待ください.

■ 2005年3月31日(木)

VICS v5.5.4をリリースしました.結合角の誤差が特定の範囲に入ると,結合角の計算結果が表示されないというバグを修正しました.門馬綱一君によるデバッグです.

■ 2005年4月1日(金)

坂根弦太氏から,彼のWebページを閲覧した方が「たとえば 2s軌道は内部に節面を持ちますが、そのことが示せればより素晴らしい.」とコメントしてきたというメールをいただきました.等値曲面を半透明にすれば,節面が見えると指摘されたそうです.

そこで,私が,「貴Webページで,実際に等値曲面を半透明にし,2s軌道の節面を表示されたらいかがでしょうか.」とけしかけたところ,坂根氏は3D Visualization System VENUSで眺めるDV-Xα法で計算した周期表元素の単原子のs軌道,p軌道,d軌道,f軌道にCの2s軌道,Sの3s軌道,Sの3p軌道,Uの7s軌道の波動関数の等値表面を半透明化した画像とGIFアニメーションを追加してくださいました.後者は等値曲面のレベルを変えながら回転させるという凝ったものです(good idea!).教育上の意義はきわめて大きいと思われます.

■ 2005年4月2日(土)

VICS v5.5.5をリリースしました.v5.5.4ではCPU時間を測定し,Output Windowに出力するコードが入ったソースプログラムをコンパイルしてしまいました.その部分を削除し,再コンパイルしたのがV5.5.5です.要するにミスを修正しただけの三連バージョンです.

■ 2005年4月3日(日)

あめーこと言ってんじゃねーよ、コラ。世の中ってのはな、マジ、食うか食われるかなんだぞ!
某映画(匿名希望)より
映画などのセリフをエピグラフに使って,冗長な文を書き散らすという安直なスタイルが定着しそうです.短歌はどうしたのでしょうか.「才能ねー」のをようやく悟ったのでしょうか.今のところ,「短歌の数え方は一句じゃなくて一首ですよ.」というレスポンスが一件あっただけです(赤っ恥).いずれ,へたな歌を詠むより,RIETAN-2000を早くバージョンアップしろよ,という声が高まるにちがいありません.

研究に限った話ではありませんが,みくびられたり無視されたり落ちこぼれたりリストラの憂き目にあったりしないようにするには,他の追随を許さないonly oneの先端技術(知的所有権)の一つや二つは保持している必要があります.世界でただ一人なら文句なしですが,ドメスティックなレベルでも構いません.唯一の日本人なら大したもの.国内市場は相当大きいのですから,

とにかく大切なのが希少価値です.同じ技術をもっている人が増えるほど,その価値は希釈されてしまい,差別化を図れなくなります.挙げ句の果ては存在感が薄れ,消えゆくのみ.第三者の参入が事実上不可能なほど敷居を高くするのが理想です.

もちろん独りよがりな技術では駄目ですよ.多くの人々が実際に使う,活きた技術でないと,無意味です.売れない特許や自画自賛だけに終わる政治的プレス発表が多すぎます(間違いなく9割以上).虚仮威しの文句を並べたてて,空しくないのでしょうか.

たとえ話で説明しましょう.英語がnative speakerなみにペラペラだったとしても,それくらいの人はごまんといるのですから,絶対的な強みにはなりません.他の誰かとのreplacementは容易です.英語がペラペラで,しかも●●●のエキスパート(実務経験・人脈豊富な即戦力)というのでないと,相手にされません.

音楽の世界では,楽器の演奏で国内コンクールに優勝した程度では,プロとして飯を食っていけないらしいです.実際に当人から伺いました.その程度のレベルの人は毎年のように現れるのですから,当然の帰結です.

上に述べたのは個人のことですが,会社でも同じことが言えます.陳腐化した技術にしがみついていたら,激しい競争の波にさらされ,利益は激減してしまいます.おいしい商売ができないどころか,過当競争に巻き込まれ,うかうかしていると,会社が傾きかねません.ソニーやGMの惨状をとくとご覧あれ.

私はonly oneの技術の開発を常に心がけてきたつもりです.他人がほとんど上がれないような土俵を築き上げる ―― 食うか食われるかのサバイバル・レースで独り勝ちするには,これしかありません.言うは易く行うは難し.成功を収め得たかどうかの評価は人にゆだねることにします.

実のところ,私が自作ソフトのソースコードを非公開にし,その利用に一部制限を加え,不採算事業をリストラしたのは,一つには,生存競争での生き残りを図るためです.自らは価値あるものを何も提供しないのに,情報やソフトを取り込むのにだけは熱心な,ブラックホールの如き輩(組織)が圧倒的に多いのに嫌気がさしたという面も,もちろんあります.私だけがすべての知的活動の成果をさらけ出し,丸裸にならなければならぬ理由などありません.私はマザー・テレサではないのです.

それでもなお,個人レベルの科学情報・ソフトの公開にかけては当Webサイトの右に出るものがほとんど見当たらないのですから,胸を張っていてよろしいのではないでしょうか.

■ 2005年4月4日(月)

真夜中の弥次さん喜多さん」を観に行くべきか,行かざるべきか,悩んでいます.こんな奇妙きてれつで素っ頓狂なものを観たら,今以上にたががはずれるような気がしてなりません.

■ 2005年4月5日(火)

ローマ教皇(「法王」ではないそうです)ヨハネ・パウロ2世逝去の報に接しました.クラクフ滞在中に,ヨハネ・パウロ2世の卒業した大学のあたりも散策したことを思い出しました.ポーランドの人々は古くはコペルニクス,ショパン,キュリー夫人(生家を見学しました),近年ではヨハネ・パウロ2世をたいへん誇りにしています.

そういえば,来年またポーランドを訪れることになりそうです.その前後には,ぜひプラハにまで足を伸ばしたいと願っています.プラハには「ドン・ジョヴァンニ」が初演されたオペラハウスがあります.ヨーロッパに出張した際には,できるだけ2ヶ国を回り,見聞を広めるよう心がけています.

■ 2005年4月6日(水)

講演と講習のお知らせに,日本結晶学会主催の講習会「粉末X線解析の実際」(2005年7月5日・6日,東京理科大学)の開催通知を掲示しました.「化学と工業」4月号の530ページにも短縮版が載っています.およそ3年ぶりの開催です.粉末X線回折のユーザーは,ぜひご参加ください.

私は「VENUSを活用した三次元可視化とパターン分解」というタイトルのもと,1時間40分(!)にわたり熱弁を振います.

粉末X線解析の実際」(本講習会のメインテキストとして配布)を上梓した時点ではVENUSは未完成だったため,MEM,MPF法,3D可視化,MEP法についてはほとんど触れませんでした.本講習会の開催にあたっては,その書籍を補完し,RIETAN-2000―VENUSの徹底活用に資するべく,ボリューム満点の補助テキストを別途作成する予定です.本講習会では,非経験的構造解析に関する講義(池田卓史氏による)も大幅に補強されています.とくに今後,VENUSやEXPO2004を積極的に利用されたい方には貴重な情報源になるはずです.ご期待ください.

■ 2005年4月7日(木)

他人に知られたら絶対にまずいユーザー名やパスワードなどをテキストファイルに保存してきましたが,その危険性は十分認識していました.NewNOTEPAD Pro v2.2ではBlowfishというアルゴリズムによる128 bitの鍵を用いた暗号化が可能となったので,さっそく利用してみました.もちろん元のファイルは削除しました.

NewNOTEPAD Proは暗号化機能つきのテキストエディタとして使えます.文字のフォント,サイズ,色を一文字ごとに指定でき,便利です.ますます手放せなくなりました.

そういえば,Jedit X Rev.1.1.1がついにリリースされました.AppleScriptに対応したのがもっとも重要な改良点です.

ついでにもう一つ.Lhaplus v1.50が4月1日(エイプリルフール?)に公開されました.

■ 2005年4月8日(金)

RIETAN-2000 Rev. 2.1をリリースしました.*.ins編集時の利便性を向上させるために,各行の最大長を150に増やしました.つまり改行せずに150の半角文字まで入力できます.ただし,81〜150桁までの間に書けるのは注釈だけで,注釈行であることを示すシンボル'#','!','{'(各行の最終文字)は従来通り,1〜80桁の間に置かねばなりません.

本改良により,やむを得ず2行に分けていた注釈を1行にまとめたり,全角のピリオドを使ったり,半角カタカナを全角に変換したりすることが,余裕をもってできるようになりました.そこでJedit Xで雛形ファイル*J.ins中の半角カタカナをすべて全角カタカナに変換しました(ツールメニューで半角→全角....を選択).さらに,これまでご指摘いただいた雛形ファイル中の誤りも修正しました.

互換性の低い半角カナを*.ins中に含めていた理由は,注釈部分が80桁を越さないようにするためでした.今回のバージョンアップにより,その必要性はまったくなくなりました.

Windows版では,SUBROUTINE GETARGの最初の引数が一部,2バイト整数と宣言されていなかったのを修正しました.

Mac OS X用の配布ファイルでは,ログイン・シェルとしてbashを使用することを前提に,三つのシェルスクリプト(x,ffe,cif)とReadme_Darwinを書き直しました.

このターミナル・アプリケーションは,今のところ,一部のコアユーザーだけが使っていると推定しています.Carbonアプリケーションと比べ計算時間が約半分ですみ,*.pat(UNIX形式)はIgor Proで直接入力できるので,Macユーザーにはターミナル・アプリケーションの使用をお奨めします.Carbonアプリケーションはいずれ配布しなくなるということを念頭に置き,乗り換えを急いでいただきたいです.ただしUNIXに関する基礎知識が必要不可欠となります.

なお,大木 寛氏はこのたび信州大学理学部に転出されました.Linux用のRIETAN-2000とVENUSの更新は当分のあいだ滞るかもしれません.

■ 2005年4月9日(土)

旧仮名遣い,文語調の短歌が続いたので,口語調の狂歌を詠んでみました:

たとえ今 若返ったとしてみても
先の長さに嫌気さすだけ

ダメだ,こりゃ!

実は,この歌は当初,

たとえ今 若返ったとしてみても
暗い未来が待っているだけ
だったのですが,あまりにペシミスティックなので,結局,オブラートにくるむことにしたのです.

もちろん未来が「暗い」のは一個人だけでなく,その他もろもろ(たとえば日本の社会全体)も指しています.バブルのつけは未だに精算されておらず,地価は下げ止まらず,銀行預金はいつまでたっても事実上無利息状態が続き,少子化に伴い,社会全般の活力がじわじわ低下中です.関東から東海にかけて大震災が起こる可能性は次第に高まっていきますし,日本国が破産するかもしれません.世の中には長時間・過重労働にあえいでいる人々(かつての自分がまさにそうでした)とリストラされた人々が満ち溢れています.今の若者が受け取れる年金は雀の涙でしょう.中国・韓国との関係は将来,さらに悪化する可能性があります.本音をそのまま吐き出すべきでした.

■ 2005年4月10日(日)

IUCr,Commission on Powder Diffraction (CPD) NewsletterにVENUSの記事を執筆するよう依頼されました.ところが,昨年暮れに発行しなければならない号がまだ出ていないのだそうです.次号の原稿締切が過ぎても原稿が届かなかったら,催促するぞ,と申し渡されました.そうなる可能性大です.VENUSについては2ヶ月ほど前に刷り上がり10ページ(A4)の解説を書き上げたばかりなので,ほとぼりをさましたいのです.

■ 2005年4月11日(月)

講習会「粉末X線解析の実際」(4月6日参照)のお知らせが日本結晶学会(主催)と日本分析化学会X線分析研究懇談会(共催)のWebページにも掲示されました.定員は100名です.受講申し込みはお早めに.

■ 2005年4月12日(火)

無謀にも,世界空手選手権大会の優勝者ボブ・カーマンに挑戦状を叩きつけた中年悪役プロレスラー下田牛之助のマイク・パフォーマンスより:

おれがここで勝っても負けても、あんたたちはすぐに、おれのことなんかわすれるだろう。

昨年秋,映画代わりに読んだ中島らも作「お父さんのバックドロップ」中のクライマックスです.

プロレスに限りません.研究の世界とて同じこと.人はいつまでも他人のことなど覚えていてはくれません.下は泣かず飛ばずの無能力者から,上は時を得顔の大物まで,例外なし.短時日の内に忘れ去られるのが常です.まさに諸行無常.しかし,空しさに堪えつつ行動する人間の姿が凛として美しいのも事実です.

きょう、おれがここで戦うのは、たった三人の人間のためだ。
その三人さえおれのことをわすれずにいてくれたら、それでいい。そのために戦う。

そう,三人もいたら御の字ではありませんか.己のことを覚えていてくれそうな人(自分自身も可)を勝手に思い浮かべ,そうして研究に励む.こういうB級妄想戦術が,ひょっとしたら功を奏するかもしれません.

「そういうあんたも,すぐ忘れられるクチかい.」と皮肉られるかもしれませんが,私の場合はソフトウェア作者という特殊事情から,そういう羽目には陥らないでしょう.現役を退いた後でも,RIETAN-2000やVENUSが使われている限り大丈夫です.といっても,知名度がローレンツ関数のように長く裾を引いたところで,別に何の足しにもなりません.実利抜きの名誉 ―― 自己満足にひたれるだけのことです.

■ 2005年4月13日(水)

RIETAN-2000 Rev. 2.1における*.insの仕様変更に対応するため,「粉末X線解析の実際」サポートページ12. 訂正・修正において,*.ins中の各行の最大長に関する記述(p. 124)を書き改めました.

■ 2005年4月14日(木)

RIETAN-2000 Rev. 2.1.1をリリースしました.Rev. 2.1で新たに発生した不具合の修正版です.NUPDT = 1としたとき,*.ins中の更新行の末尾に余計かつ無意味な文字がぶら下がるというバグを取り除きました.本障害を迅速に指摘してくださったストックホルム大学の室山知宏氏に感謝します.

■ 2005年4月15日(金)

Gimp for Mac OS X v2.2.6がリリースされました.

Windows用のMozilla Firefoxで当Webサイトの一部のページ(たとえばホームページ,RIETAN-2000のページ,掲示板BN)を閲覧しようとすると,"Firefoxがこれをどのように処理するか選んでください。"というメッセージが現れるという障害が起きています.原因は不明です.他のhomepage.mac.com内のWebサイトでも,同様な障害が多数発生している模様です.今月末にリリースされるTigerに対応するため.Macに手を加えているせいではないかと推測している人もいます.いずれにせよ,重大な失態です.

.MacのWebサーバーの不安定さには,大分前から悩まされ続けてきました.自作ソフトの配布ファイル*.tbzを別なLinuxサーバー(もちろん超安定!)上に置かせてもらっているのはそのためです.レンタルサーバーを乗り換えれば解決するのですが,URLが変わるのが嫌なのです.

いずれ自然治癒するでしょうが,とりあえず対症療法として,Internet Explorerで閲覧するようお願いします.

■ 2005年4月16日(土)

VEND v6.7.2をリリースしました.*.vcsから入力した球棒模型中の結合が表示されないことがあるという不具合を取り去りました(門馬綱一君による改訂).東工大の中山将伸氏のご指摘を感謝します.

これは原子名を保持する文字配列のサイズ不足が引き起こした不具合です.v6.7での変更が以前からのバグを顕在化させました.

VICSとVENDの全面的リニューアル(3月30日参照)を前にして,glut+gluiベースのバージョンへの新機能追加は控えていますが,それでもなかなか枯れてくれません.開発開始から4年近く経つんですけどね.根気よくバグをつぶしていくしかありません.

■ 2005年4月17日(日)

過去を顧みるに,人の期待を裏切ったことは枚挙にいとまがありません.しかし,まったく期待されぬ(あるいは,自分でも予期せぬ)ことをやってのけたことも結構多く,両者のバランスはそれなりにとれているように見えます.

人生に浮き沈みはつきもの.帳尻がほぼ合っていれば,良しとして構いません.今後,総決算の予想値を上方修正するべく,精一杯努めていく所存です.

■ 2005年4月18日(月)

Multi-Purpose Pattern-Fitting System RIETAN-20003D Visualization System VENUSを少しずつ再編成しました.

■ 2005年4月19日(火)

久しぶりに購入したMacPowerの5月号をパラパラめくりながら,こんな平均的Macユーザーの関心から逸脱した内容で売れるんかいな,と首を傾げました.スタイリッシュであることは認めますが,これでMacの雑誌と言えるのでしょうか.

10年余り前,RIETAN-94にTinkを導入したときのことを思い出します.Tinkのような斬新(破天荒?)なCharacter User Interfaceに一般ユーザーがついて来られるかどうか,本気で心配しました.Ifブロックや変数名を含む,ソースコードの如き入力ファイル(*.ins)は敬遠されるのでないかと危惧したのです.しかし,己のアイデアに酔っていた私は,敢えてRIETAN-94にTinkを組み込みました.

幸い,心配は杞憂でした.要するに,この程度の難易度の入力ファイル記述ルールが理解できないようでは,リートベルト法を活用する能力などない,ということだったようです.

MacPowerの冒険は,Macユーザーの趣味志向を十分考慮した上でのことだと推察します.しかし,見栄えを良くしただけで,肝心の中身は希薄と感じてしまうのは私だけでしょうか.

■ 2005年4月20日(水)

Default Folder X 2.0がリリースされました.出荷目前のMac OS X 10.4(Tiger)に対応しました.

もちろんTigerは発注済みです.しかし,いつごろインストールすべきなのか,そのタイミングがむずかしい.先走って飛びつくと,痛い目に遭います.門馬綱一君からMac OS X用のVICS v5.5.5とVEND v6.7.2が送られてきましたが,これらがTigerで無事,動くことを祈っています.

■ 2005年4月21日(木)

Mac OS X用VENDで某化合物の分子軌道を可視化しつつ詠んだ歌:

不粋にも 輪切りにしてたオブジェクト
原型のまま描く喜び

やはり正負の値をとりうる物理量の複雑な空間分布は,時代遅れの等高線図などでなく,非破壊の3Dイメージとして可視化するに限ります.EIZOのFlexScan L885で表示させていますが,ため息が出るほどファンタスティックです.

■ 2005年4月22日(金)

私たちは、生きていさえすればいいのよ。

と,さっちゃんは言い放っていましたが,ただ生きていくだけでも,相当大変なんですよ.4月3日に大書した通り,食うか食われるかという,情け容赦ない世の中ですから.私は生まれつき気弱な意気地なしです.のみならず,努力も苦労も貧乏も(意に適わぬ)労働も大嫌い.上昇志向はほとんどありませんが,世の荒波に揉まれるのは,能う限り避けたい方です.

この世は、やりたくないこと、楽しくないこと、汚いこと、見たくもないことで満ち溢れている。
エセキエロ書第26章より

まさに同感.だから,嫌なこと,面倒なことには,極力,関わり合わないようにしてきました.

そのための処世術として,キャラクターを作っている面が多分にあります.当掲示板でも実践しているのは言うまでもありません.天然キャラでなく偽装キャラにすぎず,パブリックイメージみたいなものが実像とかけ離れていますから,ときどき綻びが生じます.それを手際よく取り繕うのも芸の内.長年の鍛錬でキャラつくりに磨きがかかっています.

苦役は避け,腐れ縁は絶ちきり,自分のやりたいことだけマイペースでやれるような状況に自分を強引に引っ張ってきました.人生の第4コーナーを回り,すでに逃げ切り態勢入りしています.言ってみれば,究極の世間知らず,というより世間を嘗めきっている自由人 ―― ある意味,贅沢な生き方です.

ここまでオレ流を貫き通すのはまずいかなあ,と躊躇うこともあります.しかしまあ,よろしいんじゃないですか,ちゃんと結果を出しているのだから.いまさら軌道修正しうる年でもなし.このまま惰性で突き進んでいく以外の選択肢はありません.

■ 2005年4月23日(土)

多相試料におけるmicroabsorptionの補正について,セメント会社の方からも情報を収集し,調査を進めてきました.最近,RIETAN-2000で採用するアルゴリズムがほぼ固まりました.連休中にはプログラミングを終えるでしょう(つまり連休中も働くということ).

同時に,セメント・クリンカーや工業材料の定量分析などの業務に使えるよう,モデル関数に含まれるパラメータの数と相の数の最大値を大幅に増やします.そう,産業界に貢献するのも私の使命と心得ています.掛け声だけでなく,実際にね.

■ 2005年4月24日(日)

VICS v5.5.6をリリースしました.今回の改良点は,すべてCIF出力に関係しています.誤った等価位置が出力されるバグ(関西学院大学の吉田尚史氏のご指摘)を取り去り,格子定数に標準偏差を付け加え,カッコ内に2桁の標準偏差が与えられている構造パラメーターの出力を修正し,構造パラメーター行の後ろにブランクがぶらさがらないようにしました.門馬綱一君による改訂です.

吉田氏によれば,DVSCATにより,CIFから直接,電子状態を計算できるようにしつつあるそうです.今や,ほとんどの結晶解析ソフトはCIFを出力する機能をもっており,CIFの重要性が高まっています.面倒なファイル変換が不要になるのは歓迎すべきことです.

■ 2005年4月25日(月)

この週末は溜まった仕事を片づけつつ,DVDで「お父さんのバックドロップ」(1月24日・4月12日参照),シネプレックスで「真夜中の弥次さん喜多さん」(4月4日参照)を観ました.なお,「あゝ! 一軒家プロレス」のDVDは6月24日発売とのこと.待ち遠しい.

「真夜中の弥次さん喜多さん」は,様式をぶち壊したナンセンス喜劇です.木村笑之新も浪速ホットも女子高生喜び組もひげの花魁もアーサー王も奪衣婆も魂も,真剣に意味を考えたところで仕方ありません.延々と続く悪夢のようなものです.単純に,おバカ映画として楽しめばよい.狂気と幻想が渦巻く,奇想天外で騒々しい世界 ―― まず一般受けしないでしょう.私の採点は★★★★です.

■ 2005年4月26日(火) たった2ページではありますが…

本日から,緑の帯の上にタイトルを付けることにしました.

日本セラミックス協会編,「これだけは知っておきたいファインセラミックスのすべて」第2版が日刊工業新聞社から発行されました.私は「X線・中性子回折」について執筆しました.

■ 2005年4月27日(水) やった! 全ページカラー!

VENUSに関するレビューが活字になりました:

なんと,光沢上質紙に7つの図がすべてカラーで印刷されていました!

リガクのWebサイトの最上部で"会員サイト"をクリックし,必要なら新規登録し,リガク e-ジャーナルにログインすれば,PDF(1.9 MB)を閲覧・ダウンロードできます.キーワードとして"泉富士夫"と入力すれば,私が過去に理学電機ジャーナル(リガクジャーナルの前身)のために執筆した記事5つも手に入ります.

3D Visualization System VENUS中のAnnouncementsに本解説に関する項目(14.2)を追加しておきました.

結言中の一節を引用します:

VICSとVENDを駆使した3D可視化は結晶学と電子状態の研究に役立つばかりでなく,一種の娯楽としても楽しめる.両プログラムの醍醐味は,実際にマウスを握ってPC上で種々のオブジェクトを加工し,操ってみなければ味わえない.ぜひご自分のPCにVENUSをインストールし,OpenGLを駆使した3D可視化の世界を体験していただきたい.ここに書き漏らした多彩な機能を満載しているので,あたかも宝探しに興じているかのような高揚感を与えてくれるだろう.物質・材料の構造や化学結合を研究している方々にVENUSを愛用していただき,彼らの創造力をかき立てることができたなら,これに過ぎる喜びはない.VICSとVENDは大学教育にも貢献しうると確信している.退屈かつ平板になりがちな授業や実習の活性化に利用されたらいかがだろうか.

VICSとVENDは実際に大学の講義で使われ始めています.これこそ私が意図した通りの用途です.いずれも,研究だけでなく教育にも活用してほしいという願いを込めて創り上げ,無償配布しているのですから.無料でなければ,学生にまでは浸透しません.

3月25日の書き込みや創造的破壊行為としてのプログラミングをご覧ください.ここでも,大学教育への貢献が謳われています.逆に言えば,VICSとVENDを教育の場で活躍させたいと切望していなかったならば,これほど知力・体力・経済力を消耗し尽くすプロジェクトには取り組まなかったでしょう.

実際に授業でお使いになった方から,教育効果満点だったと伺いました.普段の授業では絶対お目にかかれない躍動感に溢れた映像を楽しめますからね.お役に立てて光栄です.

VENUSの開発を通じ,粉末回折という狭小な世界から広大な世界へと飛び出した ―― と感じています.波及効果の大きな科学技術ソフトを産み出したことを誇りに思います.

■ 2005年4月28日(木) セピア色の尼崎

尼崎での悲惨な鉄道事故のニュースに接し,1987年に大阪市内で開かれた高温超伝導セミナーで講演した後,あの辺りに一泊し,塚口駅近くの三菱電機で講演したのを,ふと思い出しました.当時,私はまだ30代でしたが,過密スケジュールに疲弊し切っており,早くも高温超伝導体の研究に萎えていました.あれから,もう18年も経ったのですね.あっという間に過ぎ去ってしまいました.

■ 2005年4月29日(金) 思いも寄らぬ蹉跌

今週は,microabsorptionを補正したX線定量分析をRIETAN-2000で行えるようにするべく,奮闘しました.ところが,意外なところで躓いてしまいました.Brindleyの論文に記載されているparticle absorption factorの表を2次元配列に収め,既成ライブラリーをCALLして多項式補間するコードを書いたのですが,なぜか正しい解が求まらないのです.丸2日費やしたものの,原因不明のまま.結局,補間ルーチンを自作する羽目になりました.

このようにデッドロックに乗りあげたときは,思わず"Help!"と叫びたくなります.知恵を貸してもらいたい.でも,助っ人なんぞおりません.切ないです.

なお最近知ったのですが,Brindleyのmicroabsorption補正法は

にも記載されています.TABLE 3.2.4Cが上記の表に相当します.

なんとしてでも連休中にRev. 2.2をリリースしたいです.休み明けには,別な仕事が待ち構えていますから.

■ 2005年4月30日(土) 元素の質量吸収係数

昨日は休日出勤し,RIETAN-2000のソースコード中に

に収録されているCu Kα特性X線に対する全元素の質量吸収係数(mass attenuation coefficient)μ/ρをDATA文として打ち込みました.ほとんどの粉末X線回折データはCu Kα特性X線で測定されますから,これらの値を入力せずに済めば,利便性が高まります.

他の特性X線や放射光の場合は,ユーザーが入力しなければなりません.任意の波長におけるμ/ρは,たとえば東工大応セラ研,佐々木研究室のWebサイト中のX-ray absorption coefficients of the elementsで知ることができます.波長が0.01 Åおきなので,μ/ρ(M/R)の値を補間する必要があります.K吸収端の波長もこの表でわかります.

NISTを10年ほど前に訪問したとき,上述の書籍のエディターPrince先生にお目に掛かりました.すでにリタイアされていましたが,研究室には来られているようでした.マルチカウンターで測定したデータは云々,というお話しを伺ったのですが,うろ覚えです.その2, 3年後にNISTに1ヶ月間滞在することになろうとは,想像だにしませんでした.

■ 2005年5月1日(日) 吸収端近傍におけるX線の吸収

当然のように今日も出勤.業務用を意識した改良を続行しました.鉄鋼関連の研究・開発や工程管理でよく使われるCo Kα特性X線に対する全元素の質量吸収係数μ/ρをRIETAN-2000のソースコードに入力しました.

一般に,X線の波長が試料の主成分の吸収端波長よりわずかに短いと,X線が試料に吸収されやすくなり,かつ,試料から放出される蛍光X線の量が増えます.Feの吸収端波長は約1.74 Åですから,Cu Kα特性X線(λ = 1.5418 Å)に対するμ/ρは302.0 cm2/gと,PbやUのような重金属の場合より大きくなります.Feを主成分とする物質のX線回折実験にCu Kα特性X線が適していないのは,このためです.Co Kα特性X線はλ = 1.7905 Åですから,Fe化合物のX線回折実験にうってつけです.

なお吸収端の波長は,昨日記した佐々木の表の他,次の文献にも記載されています:

さらにセメント会社の方からの要望に応え,NT(パラメーターの数の最大値)を2000に,NPH(相の数の最大値)を16に増やしました.

Windows用アーカイバLhaplus v1.51とTigerに対応したFruitMenu v3.4がリリースされました.

今,一番楽しみにしているのがPath Finder 4です.一年くらい前から,Finder代わりに愛用しています.

■ 2005年5月2日(月) Carbonアプリケーション不要論

「連休」でなく「連働」を続行中.ほとんど無人の職場で一人黙々と働き続けたところ,鬱々としてきました.以前と比べると,耐久力がめっきり落ちています.

休日出勤の理由は,もちろんRIETAN-2000 Rev. 2.1のリリースに向けての準備です.

ところで,くどいくらい何度も予告してきたことですが,RIETAN-2000(Carbonアプリケーション)の配布はそろそろ停止したいです.理由は次の通り:

  1. Carbonアプリケーション(OS 9とOS Xの両方で動く)はTerminalアプリケーション(OS XのTerminalウィンドウ上で動く)に比べ,計算時間が約2倍かかる.
  2. 自分自身は,もっぱらTerminalアプリケーションを使っている.
  3. Windows版に比べ,ユーザー数がはるかに少ないMac版を2種類作成する手間を省きたい.
  4. CarbonアプリケーションはOS 9上での動作が不安定である(RIETAN-2000: Carbon Applicationを参照のこと).
  5. Tiger用64bitネーティブコンパイラAbsoft Pro Fortran for Mac OS X v9.2により高速化を図りたい.
  6. Absoft Pro Fortran for OS 9 v8.0をインストールしてある満5才のPower Mac G4を早く廃棄したい.
  7. 日本の将来を担うべき学生にはMacユーザーが少なく,OS 9のユーザーはさらに少ない.
  8. *.insなどのテキストファイルはMac OS X用のエディター(テキストエディット,Jedit Xなど)でそのまま編集できる.
  9. Igor Proは*.patの行末がCR(UNIX形式)でも読み込める.

要するに,過剰サービスの無償提供は控えたいということです.64bit版をビルドするようになったら,Carbonアプリケーションに見切りをつけない限り,三つのバージョンを配布することになってしまいます.あまり意義が感じられない,後ろ向きなことに労力と時間を費やしても仕方ありません.ことコンピュータに関する限り,私は前向きで,新しもの好きな性格です.

64ビットコードのRIETAN-2000 ―― ワクワクするではありませんか.Windows XP Professional x64 Editionも登場しました.無料のFortran 95コンパイラがほしければ,Mac OS X用gfortranが安定になるのを待てばよい.

ミコさんのセリフ(2月27日参照)を再び借りれば,

時代は変わるんだよ。
今時、Carbonアプリなんて、やってられねー。

とはいえ,Terminalアプリケーション(言い換えればUNIX版)だけ配布すると,GUIしか知らないコンピュータ音痴が恐慌を来す恐れが多分にあります.コマンドやシェルに不慣れな人にとって,Character User Interface(CUI)は拷問めいた苦行でしょう.

あれこれ思案した末,とりあえずWindows版だけ先行リリースし,Mac版は塩漬けにしておくことにしました.「おれ(あたい)はCUIなんて真っ平だよ.」という方は,私にCarbonアプリケーションの助命を嘆願するメールを私にお送りください.ただし,返事は期待しないこと.Carbonアプリケーションを切り捨てるか否かは,レスポンスの数と中身次第です.ジョークではありませんよ,100%,マジですから.

■ 2005年5月3日(火) Microabsorptionを補正したX線定量分析の実現

ついにWindows用RIETAN-2000 Rev. 2.2をリリースしました.Brindleyの方法によるmicroabsorption(absorption contrast)の補正を多相試料のX線定量分析に導入しました.

すでに当掲示板に書き込んだ通り,Brindleyの補正法の詳細については,

を参照してください.この方法は,Sietronics社の販売している商用X線定量分析ソフトウェアSiroquantにも採用されています.その実装は,産業界におけるRIETAN-2000の存在感と利用価値をますます高めるにちがいありません.

Cu KαとCo Kα特性X線の場合,構成元素の質量吸収係数μ/ρ(cm2/g)はRIETAN-2000に内蔵された値が自動的に使われます.他の特性X線や放射光の場合は,ユーザーがμ/ρを入力しなければなりません(4月30日参照).

Brindleyの補正法では,実効半径R(μm)の球状粒子を仮定するため,各相のRを与える必要があります.SEMなどの手段で調べた半径を入力します.複数の単相試料を秤量して混合・粉砕し,粉末X線回折データを測定した後,リートベルト法で解析し,どの程度のRが真の質量分率に近い値を与えるかを調べるのもよいでしょう.全相のRをゼロとすれば,microabsorptionの効果を無視した質量分率が求まります.

混合物の平均線吸収係数は,microabsorptionの補正なしに求めた各相の質量分率から近似的に計算します.このような近似は,各相の線吸収係数の差が極端に大きい試料では粗すぎるかもしれません.今後,microabsorptionを補正して決定した質量分率をフィードバックした再補正計算を行うよう改訂する可能性があります(注: Rev. 2.2.1で,そのように改良しました).

Cu3Fe4P6E.insが多相解析の雛形です.この入力ファイルでは,*.ins中だけで有効な(RIETAN-2000が読み込まない)局所整数変数NPHASE@の値を参照して,IF … then文における判定を行っています.局所整数変数はRIETAN-2000に組み込まれたNew Tinkにおける売り物でした.少々わかりにくいかもしれないので,多目的パターン・フィッティングシステムRIETAN-2000ユーザーガイドにおける局所整数変数に関する記述を引用しておきましょう:

変数名は大文字のアルファベット,数字,'@'(末尾のみ)からなり,その長さは10文字以下である.整数の変数名はI, J, K, L, M, Nで始まり,実数や文字列の変数名はこれら以外の大文字で始まる.名前の末尾に'@'がついている局所整数変数は後述のブロックIfなどにおける条件式内で参照されるだけで,その値は中間ファイルには出力されない.つまりIf,else,end if,else ifブロックの入力/スキップの制御に関与する役割のみを担う.

言い換えれば,ユーザーが必要に応じて勝手に定義し,If … then文で引用できる整数変数ということです.我ながら,よくもまあ,こんな珍妙なアイデアを思いついたものです.

さらに,セメント業界からの要望に応え,NT(モデル関数に含まれるパラメーターの最大値)を999から2000に,NPH(相の数の最大値)を8から16に増やしました.これらの値に設定すれば,まず業務に差し支えないそうです.NTが3桁になったことから,*.lstにおける精密化後のパラメーターの番号に4桁を割り当てました.

昨日記した理由から,今回はMac版のリリースを見送ります.

もうぐったりです.連休の後半は,今回のバージョンアップの疲れを癒すうちに,空しく過ぎ去ることでしょう.

■ 2005年5月4日(水) 完成に向けて突き進む次世代VICS

門馬綱一君から,開発途上の次世代VICS,第2弾が送られてきました.彼も連休そっちのけで頑張っているようです.プログラマーにとって,まとまった時間が手に入る年末年始や連休はかき入れ時なのです.因果な商売です.

新たにVRMLファイルの出力とレンダリングの大幅な高速化が実現しました.順調に完成に近づきつつあります.

■ 2005年5月5日(木) まあ,MEM/リートベルト法をMPF法にアップグレードするようなもんです

連休後半は休めるかと思いきや,昨日も休日出勤することに…

「お前は人生を楽しむために,この世に送り込んだのではない.馬車馬のように働け.」と,神様に命じられたような気分です.「はあ,左様でございますか.」と答えるしかありません.

人生は楽しむためのものでなし
汝の義務を果たせと聞けり

RIETAN-2000 Rev. 2.2.1をリリースしました.平均の線吸収係数μ(mean)の相対変化が規定値未満に減少するまで,μ(mean)の更新値から質量分率を繰り返し計算するよう,定量分析のアルゴリズムを改良しました.現在は,相対変化 < 0.01 %となったら収束したと見なしています.最大繰り返し数は20です.

TaylorとMatulisの論文では,質量分率の更新値をフィードバックした繰り返し計算について,まったく触れていません.企業秘密として隠蔽している節があります(TaylorはSiroquantの作者).隠し立てするほど高度な技術じゃありませんよ ―― と,ツッコミを入れたくなります.

さらに,NAP(非対称単位内の最大原子数)を150から300に増やしました.これまた,セメント業界からの要望です.

Rev. 2.0以降のRIETAN-2000の機能向上には目を瞠るものがあります.完成度が一段と高まったと感じるのは,私だけでしょうか.

■ 2005年5月6日(金) これまでの連休,全滅

といっても,昨日,仕事したのは4時間程度です.あとは家でゴロゴロ.

RIETAN-2000 Rev. 2.2.2をアップロードしました.Microabsorptionを補正して求めた質量分率の表に各相の質量吸収係数μ/ρ(cm2/g)を追加しました.

今回はWindows版とMac版の両方をリリースしました.ただし,Mac用のCarbonアプリケーションはRev. 2.1.1のままです.

結局,Carbonアプリケーションの配布について私が下した結論は,「当面は,時間に余裕があり,しかも私の気が向いたときに限り,渋々,最新版にアップグレードする.」ということです.ただし,いつまた気が変わるか,自分でもわかりません.最新版を使えないことに嫌気が指して,Terminalアプリケーションを渋々使い出す人が増えるよう切に望みます.

そもそも,microabsorptionの補正をRIETAN-2000に組み込むことになったきっかけは,古谷龍也君RIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析: Q & Aの掉尾をmicroabsorptionに関する問答で飾ったためでした.そのQ & Aを始めるきっかけは,当掲示板2004年8月27日の「Tommy heavenly6の最後の"6"にはどんな意味があるのですか.そして,上付きになっているのはなぜですか.」という問いに,古谷君が回答を寄せてくれたためでした.そんな素っ頓狂な質問をしたのは … (中略) … のきっかけは,たまたま夕方のTVニュースで●●●●●●●●●●の■■■■を見たためでした.「風が吹くと桶屋が儲かる」というのよりも,ずっと連想しにくい因果関係の連鎖.伏せ字の部分を当てたら,大したものです(本件に関する問い合わせには応じかねます).

これでmicroabsorption関連のバージョンアップは終了しました.自慢の種は,本掲示板と上記Q & Aで当該改良点について懇切丁寧に説明したことです.プログラミングばかりに時間を費やした訳ではありません.

■ 2005年5月7日(土) 4度目の正直

Windows・Mac OS用のRIETAN-2000 Rev. 2.2.3をリリースしました.後者はCarbonアプリケーションを含んでいます(そうせざるを得なかった事情は,下を読めばわかります).

特性X線(Cr, Fe, Co, Cu, Mo, Ag; Cu Kβも含む)の波長を

のTable 4.2.2.4に記載されている最新値に更新しました.

asfdc中の原子量を"Standard Atomic Weights 2004"(「化学と工業」4月号に収録)中の値に一致させました.Znのように,原子量がかなり変わった元素もあります.

Mac版ユーザーの大半はリートベルト解析パターンやシミュレーション・パターンのプロットにIgor Proを使っていると推定されます.そこで,Mac OS版に限り,拡張子patをitxに変えました.

には,Igor text fileの拡張子はitxだと明記されています.このように拡張子を変更すると,*.itxをダブルクリックしたとき,Igor Proがファイルの種類を尋ねなくなるという御利益があります.Windowでは,*.patのファイルの種類を"Igor Text File"と指定できるので,Windows版では拡張子をpatのままに留めました.

■ 2005年5月8日(日) 斬新! 5g軌道

坂根弦太氏は坂根弦太のDV-Xα&VENUS日誌というBlogでSCATによる電子状態計算とVENUSによる3D可視化に関するコラムを発表しておられます.4月30日と5月4・5・7日には,111番目の元素,レントゲニウム(Rg)の5g軌道のGIFアニメーションが公開されました.f軌道はともかく,g軌道のイメージはまず公開されませんから,拝んでおく値打ちは十分あります.

このように,等値曲面のレベルを変化させながらぐるぐる回すというのは, 意表を突いた,素晴らしいアイデアです.デモンストレーション効果抜群.思わず見とれてしまいました.坂根氏によれば,「思いついてからblogに載せるまで30分間もかかっていない」そうです.なんたる早業!ステップをより細かくすれば,さらに魅力的なアニメーションとなるでしょう.

GIFアニメーションはPowerPointやWordなどのファイルにもそのまま貼り付けることができます.なお,GIFアニメーション化のテクニックは4月7日の記事DV-Xαの便利な周辺プログラム集:JCONに記されています.

■ 2005年5月9日(月) 浅草寺詣で

タイガー&ドラゴン」は面白すぎます.毎週金曜夜の楽しみはこれ.昨年から今年にかけて私が観た映画の出演者が次々に出てくるのが,堪えられません.長瀬智也,阿部サダヲ,荒川良々,尾美としのりはもとより,あの蒼井優までも… 猫背椿や銀粉蝶という芸名も愉快です.

今や「ヤバい」と「イッてる」が褒め言葉と化したことを,このドラマで初めて知りました.

浅草寺前の屋台で虎児と竜二が酒を飲むシーンが毎週あります.今年の晩夏に開通予定のつくばエキスプレスは浅草で止まります.それに初乗りする際には,真っ先に浅草寺に参拝するつもりです.なにしろ,私が研究の(泥)道に足を踏み入れるきっかけを与えてくれたのは,浅草寺のご本尊様なのですから(なんのこっちゃ?!).

嗚呼,これほどの傑作がTVで放映されるとは.週末にレンタルDVDで観た「式日」と「茶の味」が霞んで見えました.

■ 2005年5月10日(火) 綾波レイが泣いてるぞ

昨日書き込んだ「式日」ですが,あまりのショぼさとアホらしさに呆れ果て,途中でDVDをejectしてしまいました.「式日」といい「キューティーハニー」といい,庵野秀明は逝っちゃった(悪い意味の方)人としか思えません.「新世紀エヴァンゲリオン」の栄光はいまいずこ.

一発屋はいけませんよ.あるレベル以上の力が持続しなければ駄目.そして,不出来な作品は抹殺すること.RIETAN-2001Tのようにね.自戒(いや,自壊か?)の意味も込め,即興で一首:

最後まで光を発し続けたし
限りある身の力 尽くとも

「光」がソフトウェアと科学情報であるのは言うまでもありません.光を発しなくなったら,研究者としては臨終です.

私が有言実行の人であることを示すため,今日はVICS v5.5.7を,明日はRIETAN-2000 Rev. 2.2.4をアップロードします.最近の当掲示板(おバカ短歌≒狂歌を除く)の充実ぶりも評価していただければ嬉しいです.

VICS v5.5.7では,BondsおよびPreferencesダイアログボックス中の結合半径の部分で,構造モデルの表現を統一しました.さらに,VICS_VEND_manual.pdf(VICS編)の11.1節の末尾に,無機クラスターと有機分子からなる複合体の構造を可視化するときの結合探索法を追記しました.東京工業大学資源化学研究所の成毛治朗氏からの問い合わせで判明したtipです.

なお,開発が終盤を迎えつつある次世代VICSには,このような探索結合・原子の経路依存性はありません.安定・確実に原子と結合を見つけてくれます.

■ 2005年5月11日(水) なんと,今月5度目のバージョンアップ!!!

昨日の予告通り,RIETAN-2000をRev. 2.2.4にアップグレードしました.Cu Kβ特性X線で測定したデータの解析において,異常分散の補正項が読み込まれていないことが判明しました.そこで,試料に含まれる全元素に対して波長1.392234 Åでの補正項をユーザーが入力するように改訂しました.この修正に伴い,*.insの全雛形を更新しました.局所整数変数KBETA@をCu Kβ特性X線の使用・不使用のフラッグとして用いていることに注目してください.

リートベルト解析や非経験的構造解析では,厳密な単色ビームを用いることが望ましいのは言うまでもありません.特性X線を使う場合,入射ビーム側にヨハンソン型の結晶モノクロメーターを装着してCu Kα1ビームだけ取り出せば申し分ないのですが,試料―検出器間に置いた湾曲グラファイトのモノクロメーターで回折したCu Kβビームを計数するという手もあります(Cu Kαの場合に比べ,カウントが1/5程度に落ちてしまうのは痛いですが).

今回の改訂で,Cu Kβ特性X線で測定した強度データがようやくまともに解析できるようになったことを覚えておいてください.

このほか,*.lstにおける異常分散の補正項の出力を一桁増やしました.

■ 2005年5月12日(木) せわしない日常

「光を発し続けたし」と大見得を切ったとたんに,単行本の分担執筆を依頼されました.ひょっとしたら,昨日のクサい狂歌を目にされたのでは… いや,まさか.ともあれ,絶妙なタイミングに背中を押され,即座に執筆を承諾しました.

訳あって,RIETAN-94のソースコードがぜひほしいと申し出てきた学生がいて,必死に捜索.1時間以上かけて,1996年ころのMac用バックアップMOにしけ込んでいるのを発見しました.ちなみに,1989年時点のRIETANはLe Bail博物館に保存されております.

門馬網一君と相談して,次世代可視化プログラムをVICS-IIおよびVEND-II(こちらはいつ完成するか,定かでありません)と命名しました.VENUSにはPRIMAとALBAも含まれているので,VENUS-IIとは呼びません.次世代版の出現後も現行バージョンの配布は続行します.

講習会「粉末X線解析の実際」のテキスト(単行本を補完する内容)をそろそろ作成し始めました.手始めに,microabsorptionを補正した定量分析について執筆しました.なお,本講習会の受講申込者は順調に増えつつあるとのことです.

「粉末X線解析の実際」サポートページ,12. 訂正・修正に,p. 99の一部削除とp. 187への文献23の追加を書き加えました.

NextFTP v4.47がリリースされました.即,インストール.

古谷龍也君絶賛のsaku saku Ver.1.0を発注しました.

上野樹里アレルギー(2004年10月28日参照)が雲散霧消しているのに気づいたため,早速「スウィングガールズ」のDVDを借りました.

■ 2005年5月13日(金) これで一丁上がりとしたいです ← 単なる願望

ここ数年,私は教育・研究・産業の3分野で広く活用されるフリーソフトウェアと有用な情報の提供に専念しています.3分野にわたる活動を展開しているのは,そこまで実践している人はほとんどいないという希少価値があり,自己の能力を最高限度まで社会のために活用したという満足感が得られるからです.その活動がいかに大きな波及効果を及ぼしているかは,個人Webサイトとしては異例なほど多い粉末回折情報館へのアクセス数から明らかです.

自分の研究しか眼中にないのだったら,放射光や中性子散乱の利用を重視するでしょうし,VICSやVENDのような3D可視化ソフトには絶対手を出さず,商用ソフトを購入するでしょう.いや,不断のプログラミング・デバッグと情報の発信で消耗するのを避け,ひたすら論文を書きまくり,紙の束の厚みを増やすのに精を出すに違いありません.しかし,そういう研究者は掃いて捨てるほどいるではありませんか.その一員に加わって勝ち残ろうとするよりは,「個人的趣味」に走っていると後ろ指を指され,ほとんど研究資金を得られないのを覚悟の上,己の創造性を遺憾なく発揮する方が,やり甲斐と社会的意義があると達観しています.私に残された時間は,もうあまり長くないのです.

特性X線を用いた粉末X線回折を重視するのも,大学や企業で広く利用され,役立っていることを十分認識しているからです.近年,研究開発のスピードがぐんぐん加速していることを考慮すると,実際に多結晶材料を扱っている現場では,放射光・中性子回折データが取れるのをひたすら待つなどという悠長なことをやっておれないという現実があります.第一,提案が認められるとは限りませんし,機密が保てません(お金を払うか,■■を使えば別ですが).放射光源・中性子源まで出張して慣れない実験と解析に取り組むのも大変です.まずは自分の実験室で粉末X線回折データを測定し,大急ぎで解析した後,さっさと論文を書き,特許を出願する(放射光・中性子回折実験は二の次,三の次,あるいは人任せ) ―― これが研究・開発の典型的スタイルでしょう.

粉末X線解析の実際」の売れ行きがよく,それをテキストに使った講習会が人気を集めているのも,「粉末X線」と銘打っているからです.放射光や中性子を使った粉末回折では,絶対そうはいきません.所詮,ユーザー数(とそれらに対する関心)は限られています.産業界への貢献など,微々たるもの(誤差の範囲内)です.

RIETAN-2000 Rev. 2.2以降の頻繁すぎるアップグレードを取り繕うための前口上は,以上でお終いです.

今日はRev. 2.2.Xシリーズの第6弾として,Rev. 2.2.5をリリースしました.入力ファイル*.ins中で,特性X線の種類として文字('Ag', 'Mo', 'Kb', 'Cu', 'Co', 'Fe', 'Cr')でなく整数NTARG(1〜7)を入力するよう変更しました.その結果,局所整数変数KBETA@が不要となり,すっきりしました.本改良に伴い,*.insの雛形ファイルをすべて更新しました.このため,Carbonアプリケーションも更新せざるを得ませんでした.

■ 2005年5月14日(土) やはりボロが出ました

RIETAN-2000 Rev. 2.2.5のテスト不足が露呈し,翌日にRev. 2.2.6をリリースする羽目に陥りました(陳謝).NPRINT = 2としたとき,"Symmetry conditions in"の後ろに相の名前が出力されないというバグを修正しました.また,雛形ファイル*.ins中のIfブロックの記述が不十分で,中性子回折データを扱う際,起動直後に停止することが判明したため,雛形ファイルをすべて修正しました.今回もCarbonアプリケーションを配布ファイルに含めました.両障害を迅速にご指摘いただいたストックホルム大学の室山知宏氏に深謝します.

テスト要員がいないので,結局,ユーザーにテストを委ねているのも同然です.心苦しいですが,致し方ありません.

雛形ファイルの変更部分ですが,具体的には

If NBEAM = 2 or NTARG = 3 then

If NBEAM = 0 then
 # Skip
else if NBEAM = 2 or NTARG = 3 then

と書き換えました.要するに中性子回折(NBEAM = 2)の場合は,このIfブロックをスキップするように修正しただけです.あらためて,「なんともプログラマー向きの入力法だなあ」と感じました.

なお,microabsorptionに関係する入力部分が不格好なので,近日中にCu3Fe4P6E.insを改訂するつもりです.

■ 2005年5月15日(日) RIETAN-2000 Rev. 2.2.Xに対する反響

Microabsorptionを補正して最大16相の混合物を定量分析することを可能にしたRIETAN-2000 Rev. 2.2.Xに対するコメントが民間企業の方から届きました.差出人の許可を得た上,その一部を以下に引用します:

先生のご活躍、常に関心を持って拝見させて戴いております。先日、■■■の知人よりRIETANの改良について聞いたとき、私たちの望みがようやく日本でかなうと感慨深いものがありました。Microabsorptionの補正がかない、内部パラメーターも増え、世界的にみても強力な内容であり、感動しました。おまけに、最近、結晶構造プレゼン用にATOMSを買いなおしたのに、先生のソフトは無償で大変きれいな画像が得られ、正直、ここ数年、輸入ソフトに頼っていた自分を恥ずかしくさえ思います。(中略) 今後もこのような高尚な成果を期待しております。

あまりの感動に、ついメールさせていただきました・・・・・。

お役に立てて光栄です.最上級の賛辞を送っていただき,プログラマー冥利に尽きます.今後も,同種商用ソフトの価格破壊を引き起こすべく奮闘し続けます.

Microabsorptionの補正ですが,産業界でこれほど切望されているのを知っていたなら,もっと早くRIETAN-2000に組み込んでいたでしょう.人が大勢,集まる場を避けている私には,ユーザーの声が届きにくいのです.

表にはまず出てきませんが,工程管理にRIETAN-2000を活用している会社はかなり多いようです.中には,他社の追随し得ないような製品(意外なものです)を製造するための切り札にしている会社があると聞きました.一般に多結晶材料は混合物であることが多く,リートベルト法による質量分率の決定が大いに役立ちます.今後,さらに多くの企業が定量分析用の強力なツールとしてRIETAN-2000が活躍するよう願っています.

■ 2005年5月16日(月) お粗末、.Mac

案の定,いつのまにやら,FirefoxとOperaで当Webサイトにアクセスできるようになっていました.

この障害(4月15日参照)を詳しく調査してくれたA氏によれば,AppleのWebサーバーが"Content-Type: application/octet-stream"という誤ったデータをブラウザーに送ってきており,それを真に受けたFirefoxとOperaがユーザーに判断を委ねてしまうため起きた障害だそうです.Internet ExplorerやSafariは「こいつ,何をトンチンカンなことを言ってるんだ.」という態度で,そのデータを無視するため,homepage.mac.comの各Webページを問題なく表示していたとのことです.Apple社は.Macの当該不具合を秘密裏に修復したものと思われます.

■ 2005年5月17日(火) Minor updates, links, SWING GIRLS, and two chickens

VICS v5.5.8をリリースしました.斜交座標を含むXCrySDen XSFフォーマットのファイル*.xsfを読み込むと,結晶構造が正常に表示されないという不具合を門馬網一君に解決していただきました.ABINITのユーザーには朗報でしょう.NEC生産技術研究所の高橋尚武氏のバグ報告に感謝します.なお,高橋氏は東大在学中にXCrySDen XSFフォーマットのファイル入力を私に要請した張本人です.

RIETAN-2000の配布ファイルrietan2000m.tbzとrietan2000w.tbzを更新しました.多相試料用雛形ファイルCu3Fe4P6E.ins中のmicroabsorption補正に関連する部分を手直ししました.多相試料に対する*.insには,'# Begin lines for multiphase samples.'から'# End lines for multiphse samples.'までの行を挿入する必要があることにご注意ください.RIETAN-2000自体は不変です.また,Terminalアプリケーション用のReadme_Darwinを加筆・修正しました.

大木 寛氏がLinux用RIETAN-2000とVENUSのWebページを信州大学理学部のサーバーに移転されたので,リンクを張り直しました.いずれ,配布ファイルを更新していただけるでしょう.

スウィングガールズ」はハズレ(★★がいいところ).ビッグバンドとして急成長していき,最後に成功を収めるまでの流れが異様に不自然で,強引な展開が目立ちます.

(以下,ヤンキー調で)っつーか,これじゃまるでプロジェクトX女子高生バージョンじゃねーの.そんなクセーのが今時ウケるわけねーだろ.やっぱ,上野樹里はいまいち気に入らねー.本仮屋ユイカはいるのかいねーのか,わからねー.竹中直人はショボすぎ.あ〜,あほくさ.

さて,今や当掲示板の埋め草用定番となった昔話で締めくくることにしましょう.米沢市内の8箇所が「スウィングガールズ」のロケ地点となりました.私の本箱には,笹野一刀彫の鶏が二羽飾られています.1990年11月に山形大学工学部で講演するよう依頼され米沢を訪れたとき,製作の実演を見物した後,おみやげとしていただいた素朴な郷土玩具です.鶏の姿と顔つきが不羈独立の気概に溢れていて,とても気に入っています.落ち込んだときや懈怠の心が生じたときは,この質実剛健な鶏を眺めて自らを鼓舞するのが常となっております.いわば,魯迅における藤野先生の写真の如きものですね.

■ 2005年5月18日(水) ついに四捨五入(2.2.6 → 2.3)

RIETAN-2000 Rev. 2.3をリリースしました.リートベルト解析において単相試料あるいは中性子回折データを扱う場合,各相ごとの結晶データが*.lstに出力されないというバグを退治しました.Microabsorptionを補正した定量分析の機能を追加した際,犯したミスです.当該不具合を報告していただいた島根大学の永嶌真理子さんと赤坂正秀先生,ありがとうございました.

さらに,RIETAN-2000の実行形式ファイルを収めたディレクトリーの絶対パスの最大長を50から256に変更しました.東北大学金研の大山研司氏は先週末以来,Terminalアプリケーションを動かすのに悪戦苦闘しておられましたが,その原因は実行形式ファイルを置いた階層が深すぎたためでした(I am not what I am.における大山氏と私のやり取りをご覧ください).そこで,フェール-セーフを図るため,絶対パスの最大長を大幅に増やしました.

なお,AppleScriptで書かれたMac OS 9用スクリプトExrietは削除しました.Mac OS XではTerminalアプリケーションを使うことを推奨している以上,Exrietはもはや不要と判断したためです.

■ 2005年5月19日(木) 果てしなきバグフィックスへの倦怠

五千円札を手に取り,すまし顔の樋口一葉を見るたびに思い起こすのは,一葉の日記において著しいコントラストをなす二つの文言です.

我れは人の世に痛苦と失望とをなぐさめんためにうまれ来つる詩のかみの子なり
をごれるものをおさへ、なやめるものをすくふべきは我がつとめなり
この世ほろびざる限り、わが詩はひとのいのちとなりぬべきなり(塵の中日記補遺)

我が一生は破れ破れて道端にふす乞食かたゐの末こそは終生の願ひ成けれ
さもあらばあれ、その乞食にいたるまでの道中をつくらんとて朝夕もだゆる也
つひに破るべき一生を月に成てかけ花に成て散らばやの願ひ(明治27年2月23日)

乞食になりたいといっても,ただ書いただけに終わりましたが,月となり花となって死ぬという願望の方はすんなりかないました.そして今は,紙幣に肖像が印刷されるという,日本女性初の栄誉に輝いています.「詩のかみの子」として崇められているといってよいでしょう.

漫画家,吾妻ひでおの場合,現実にホームレスにまで転落し,アル中で精神病院送りになったのですから,半端でありません.70年代末ころからの吾妻ひでおの華々しい活躍については,一年前に刊行されたササキバラ・ゴウ著「<美少女>の現代史」に詳述されています.萌えカルチャー草創期の創造神としてブームを巻き起こしたのです.その後の失踪,自殺未遂,ホームレス,肉体労働,アルコール依存症,強制入院という凄惨な地獄絵図は,「失踪日記」という漫画として表現されました(3月29日参照).「足の丸い四等身で描かれた現代の新約聖書」というのが,菊地成孔の評です.

このたび,「失踪日記」は日本漫画家協会賞の大賞に決まりました.授賞式は6月17日です.

「失踪日記」中の圧巻は,なんといっても,吾妻ひでおが不審な浮浪者として警察署に連行されたときの不条理エピソードです.身元が判明し,ロリコン漫画ファンの警官が呼ばれます.その警官は「先生ほどの人がなぜこんな…」と絶句した後,すぐさま色紙を買いに走り,「一筆お願いします.」と拝み倒します.「わたし,小さい子供がいるもので,ここにひとつお言葉を書いていただければ」という注文に応え,吾妻ひでおはセーラー服を着た美少女の絵の傍らに

と大書します.嗚呼,なんという皮肉な言葉でしょうか.

漫画家は己の芸を即座に見せつけることができるから,うらやましい.仮に,絶え間ないバグフィックスに倦み疲れた私が失踪し,ホームレスに成り果てたとします.RIETANのユーザーがダンボールハウスに住む私を見つけたら,どういう展開になるでしょうか.「先生ほどの人がなぜこんな… そうだ,ちょうどよかった.このバグをなんとかしてください.」と頼まれ,パソコンの前に座らされるのが落ちではないでしょうか.しかし,コンパイラーがインストールされていなければ,いくら私でも手も足も出ません.そういう事態に備え,コンパイラーのCDは肌身離さず携帯しておくべきかもしれません.

いや,デモンストレーション用裏ワザの一つや二つをVICSかVENDに忍ばせておく方が面白い.「実は,こういうこともできるんですよ.」と何気なく見せびらかし,アッと驚かすための派手なヤツです.そして,しばらく時間が経つと,画面に大きく

完璧

という文字がジワーと浮き出てくるという寸法.今はソースコードを公開していないので,こういう仕掛けがバレる恐れはまったくありません.じっくり,計画を練りましょう.

■ 2005年5月20日(金) Terminalアプリケーションへの移行キャンペーン

RIETAN-2000 Rev. 2.3.1をリリースしました.Mo KαとCu Kβ特性X線に対する全元素の質量吸収係数をDATA文として追加しました.それに伴い,Cu3Fe4P6E.ins中のmicroabsorptionの補正に関係する部分を修正しました.

「Carbonアプリケーションなんか,くそ食らえ!」と息巻いたにもかかわらず,またアップデートしてしまいました.この調子だと,なかなかTerminalアプリケーションに移行してもらえませんね.古いG4機にOS Xをインストールしている貧乏人(物持ちのいい人?)ほど,高速化の恩恵を被るのですが.現在,Terminalアプリケーションを修得中の大山研司氏(東北大金研)が,いずれHERMESのWebサイトで,その使用法を述べて下さるとのことなので,大いに期待しています.I am not what I am.における私の徹底的サポートは,その下心も大分入っています.

5月19日の記事によれば,大山氏のPowerBook G4(400 MHz)でCu3Fe4P6E.*を処理したときのCPU時間は,Carbonアプリケーションで2 min 30 s,Terminalアプリケーションで55 sだそうです.ちなみに,私のPower Mac G5(デュアル 2.5 GHz)で同じファイルを処理すると,Carbonアプリケーションで20 s,Terminalアプリケーションで9 sでした.Terminalアプリケーションを使うと,あまりに速すぎて,休む暇もありません.

Carbonアプリケーションのユーザーへの質問(というよりプレシャー): あなたはそれでも時代遅れなCarbonアプリケーションを使い続けますか?

■ 2005年5月21日(土) タイガータイガー,じれったいがー

ということで,Mac OS X 10.4.1アップデートが公開されたのを機に,Power Mac(デュアル 2.5 GHz G5)にMac OS X Tigerをインストールしました.「アーカイブしてからインストール: ユーザとネットワークの設定をそのまま残す」というオプションを選びました.

次の二つのソフトは再インストールを余儀なくされました:

Spotlight用のキーボードショートカットがCommand+スペースバーに割り当てられたため,インストール直後には同ショートカットで英数・かな入力を切り換えられませんでした.そこで,言語環境 → 入力メニュー → キーボードショートカット...でSpotlightのチェックを外し,入力メニューの方をチェックしました.基本的には,以上の処置でTigerへの移行は終了.

問題は,Macの利用者に提供されているVirexのTiger対応版が利用できないことです.rietan2000m.tbzはWindows用Norton AntiVirusで検査しています.rietan2000m.tbzをダウンロードされた方は,念のため,必ずご自分でウィルスをチェックしてください.

Tigerは安定に稼働しています.もっとも感銘した新機能はSpotlightで,スマートフォルダは大いに活用することになりそうです.また,Dashboardにおける追加ウィジェットが水面に浮かび上がってくるような効果は,凝りに凝っています.いくら厚化粧で塗り固めたところで,素性と人相の悪さが透けて見えるWindows XPとの見かけの差がいっそう広がりました.

なんといってもMac OS Xの素晴らしいところは,再起動することなく,Mac OS XとUNIXが同時に使えることです.強力なシェルを備えたUNIXと非力なコマンド プロンプトとでは,所詮,勝負になりません.

Mac OS Xに慣れ親しむにつれ,エンタメ度が低く,GUIのデザインが泥臭いLinuxにはすっかり興味を失いました.

これで,RIETAN-2000とPRIMAの64ビットバージョンをビルドするための下準備が整いました.後は,発売まもないPro Fortran 9.2 64-bit Fortran Compiler for Mac OS X Tigerを入手するのみ.

これらの64ビット版はRIETAN ProおよびPRIMA Proと命名するつもりです.

もちろん遅かれ早かれ,Windows用アプリケーションも64ビット化しますが,Mac OS X版を優先します.理由は単純明快 ―― すでにデュアル64ビットCPU機を所有しているからです.

Microsoftの技術力にも不安を感じます.Windows XP Professional x64 Editionに飛びつくのは控えておくのが賢明ということを,経験則から学んでいます.

当面,RIETAN-2000 ProとPRIMA Proは自分だけで使います.64ビット版を配布すべきか否かを検討するためです.32ビット版とのパフォーマンスの差をじっくり検証してから決断します.将来の開発資金を調達するために有償とする可能性もあります(ご意見歓迎).

■ 2005年5月22日(日) 結局,全部入力しちゃいました

またしても休日出勤し,RIETAN-2000をRev. 2.3.2にアップグレードしました.大型連休以降,10回目の小刻みバージョンアップです.「いい加減にしろ!」と,叱られかねません(ソフトを作成・配布する方がはるかに負担が多いのですが…).

Ag Kα,Fe Kα,Cr Kα特性X線に対する全元素の質量吸収係数をRIETAN-2000にDATA文として追加入力しました.これでAg, Mo, Cu, Co, Fe, Cr Kα特性X線およびCu Kβ特性X線に対する全元素の質量吸収係数をプログラム中に実装したことになります.さらに,各相の有効半径がゼロに初期化されていなかったのを修正しました.今回の改善に対応するため,Cu3Fe4P6E.insも更新しました.

Siroquantの打倒を目指し,ユーザーの負担をできるだけ省くよう努力する ―― という決意の表れがRev. 2.3.2です.これで,Cu3Fe4P6E.insのmicroabsorption関連部分が非常にすっきりし,ようやく自己満足の境地にひたれました.

最近,2,3回の改訂の過程で,Readme_Darwinをかなり書き直しました.多少,わかりやすくなったはずです.

明日からは,「粉末X線解析の実際」講習会のテキスト執筆に全力投球します.現時点では,そのテキストからしか手に入らない情報を,できるだけ盛り込むよう努めます.受講料を頂戴する以上,当然のことですが…

■ 2005年5月23日(月) 過当競争の果て

自作ソフトの全バージョンをバックアップするために常用しているCD/DVDライティングソフトDrag's Drop CD/DVD5 Power Editionは,昨年夏に購入したI・O DATAのDVR-iUN16Wが搭載しているNEC ND-3500ドライブには公式対応していません.イージーシステムズジャパンに問い合わせたところ,Zulu2とND-3500の組み合わせでトラブルが生じたため,同一エンジンを実装したDrag'n Dropの対応ドライブにND-3500を含めなかったとのことでした.別に問題なく記録できているようですが,経時変化というのもあるだろうし,後で泣きを見るのはいやだな,と思うようになりました.バックアップ用に使っている以上,安全第一を心がけるべきです.

そこで,販売終了間近のプレクスターPX-716UFを購入しました.このドライブにはDrag'n Drop CD/DVD4が付属しているくらいですから,相性は最高でしょう.

Made in Chana,TLA # 0203という少々古め(本年1月製造)のドライブが届きました.ハズレ品でないことを祈ります.

USB2.0/IEEE1394インターフェース装備,データバッファ 8 MB,付属ソフト4本(かの有名なPlexTools Professionalを含む)で1万数千円也 ―― これで採算が取れるのでしょうか? ソフトを買ったら,おまけにCD/DVDドライブが付いてきたという感じすらします.

■ 2005年5月24日(火) やれやれ,またか

「粉末X線解析の実際」講習会のテキストを執筆中に,RIETAN-2000 Rev. 2.3.2のちょっとした不具合に気づきました.とり急ぎ,デバッグを終えた後,帰宅.Microabsorptionの補正関係のプログラミングはこれにて一件落着 ―― となるよう祈るばかりです.

■ 2005年5月25日(水) ダブルアップデート

RIETAN-2000 Rev. 2.3.3をリリースしました.定量分析においてmicroabsorptionを補正する機能を追加したまではよかったのですが,混合物の粉末X線回折パターンのシミュレーションに対応させるのを忘れていました.そこで,実行形式ファイルと雛形ファイルCu3Fe4P6E.insを両方とも更新しました.これでシミュレーションでも,質量分率(microabsorptionの補正あり・なし)が出力されるようになりました.さらにmicroabsorptionを補正する際,混合物の平均線吸収係数を質量分率最適化のサイクルごとに出力するよう改良しました.

Rev. 2.3.3を使って,「粉末X線解析の実際」講習会のテキスト用のネタ(もちろんmicroabsorption関係)を拵えました.文献記載の秤量値とドンピシャリの解を与えてくれたことから,自分なりに工夫した繰り返し計算のアルゴリズムがねらい通りに作動していることがわかり,大いに気をよくしました.

今後,ストックホルム大学の室山知宏氏がプログラムの改良に協力してくださることになりました.手始めにALBAの不具合を修正していただいたので, v1.3.2をビルドし,VENUS.tbzを更新しました.230番目の空間群がPatterson対称のリストから漏れているというバグを除去しました.誤った空間群が指定されたときの対策を追加しました.あるエラーメッセージに関する不具合を修正しました.

VENUSの最大の強みは,RIETAN-2000との密接な連携と強力な超高速MEM解析ソフトPRIMAとALBAの包含です.商用3D可視化ソフトにMEM解析ソフトが付属することはありえません.したがって,PRIMAとALBAは商用ソフトを打ち負かすための立役者(killer application)なのです.今後,両プログラムを少しずつブラッシュアップしていく方針です.

■ 2005年5月26日(木) RMA-3のab initio構造解析

ALBAを用いた最大エントロピー・パターソン(MEP)解析の結果が初めて報告されました.IkedaとItabashiはゼオライトRMA-3(Rubidium Microporous Aluminosilicate-3)の粉末X線回折データをLe Bail法(RIETAN-2000),MEP法(ALBA),直接法(EXPO),リートベルト法(RIETAN-2000),MPF法(RIETAN-2000,PRIMA)の組み合わせで解析し,その複雑な未知構造を解くことに成功しました:

RMA-3は空間群Pmmaに属し,格子定数はa = 0.9965 nm, b = 0.7572 nm, c = 0.9303 nmです.RMA-3の細孔を形づくるフレームワークは,8員環と0.49 × 0.37 nm,0.34 × 0.38 nmの大きさのポア開口部を有しています.

PRIMAで計算し,VENDで3D可視化した電子密度の等値曲面とVICSで描いた構造モデルも図示されています.

これは我が国における2番目のゼオライトの未知構造解析です.最初の解析も同一人物の手柄,いずれもCu Kα1特性X線で測定した粉末回折データの名人芸的解析 ―― 感服しました.

Le Bail法で求めた積分強度のMEP法による改善が直接法による構造モデルの構築に有効なことが,本研究により見事に実証されました.画期的な成果といって過言でありません.ALBAの開発者として嬉しい限りです.

■ 2005年5月27日(金) カナダからの朗報?

Canadian Neutron Beam CentreのL. M. D. Cranswick氏はIUCrCommission on Powder Diffraction(CPD)編のモノグラフ中の"Available software"に関する章を執筆中ですが,そこでRIETAN-2000とVENUSについて紹介していただけるそうです.さらに,彼は"International Tables for Crystallography," Vol. B, 3rd ed.のために新たなセクション3.3.4 "Graphics software for displaying small and medium-sized molecules"を執筆しましたが,そこにVENUSに関する記述を急遽,追加してくださるとのことです.

ご厚意を感謝します.彼とはオークリッジとブダペストで1回ずつお目にかかったことがあります.

といっても,VICS-IIへの世代交代が進行中なので,少なくともVICSについては,出版後まもなく古ぼけた話題と化すでしょう.VICSからVICS-IIへの変化は飛躍的かつ不連続ですから.

■ 2005年5月28日(土) tee.exeとless.exeを更新

Windows用RIETAN-2000 Rev. 2.3.4をリリースしました.計算結果の出力*.lst中のスペルミスを一箇所(exclusing → excluding)修正しただけです.さらに,RIETAN-2000実行時に使うGnuユーティリティを最新版と交換しました.具体的には,GnuWin32から入手したtee.exe(CoreUtils v5.3.0に含まれています)とless.exe(v382)に更新するとともに,両コマンドの実行に必要な三つのDLL(libiconv2.dll,libintl3.dll,pcre.dll)をprogramsフォルダに追加しました.

今回から,rietan2000w.tbzは,やはりGnuWin32でダウンロードしたbzip2 v1.0.3とtar v1.13の組み合わせで作成することにしました.bzip2がv1.0.3にバージョンアップしていたとは知りませんでした.

今月はRIETAN-2000の小刻みな改訂(計12回)だけで過ぎ去ったという感が否めません.まあ,仕方ないか…

■ 2005年5月29日(日) G5用RIETAN-2000のパフォーマンス

G4とG5に最適化したMac OS X用RIETAN-2000(Terminalアプリケーション)をビルドし,TigerをインストールしたPower Mac G5(デュアル 2.5 GHz)上でベンチマークテストを行ってみました.G5用といっても64ビット・ネーティブコードではありません.あくまで32ビットコードです.

Cu3Fe4P6E.ins中のNAUTOを3に変え,共役方向法のサイクルを2に設定して,テスト用データとしました.G4用が3 min 38 s,G5用が3 min 1 sというCPU時間を与え,G5用最適化により17 %スピードアップすることがわかりました.Panther時代には両者のパフォーマンスはほとんど同じでしたから,OSの一部64ビット化が高速化に貢献したのは明らかです.

当面,G5用RIETAN-2000を公開するつもりはありません.3つの実行形式プログラム(Carbon application,Terminal application for G4,Terminal application for G5)を配布するのは面倒です.いっそ,足手まといのCarbon applicationはリストラして,G5版を公開しましょうか.いや,「リストラ」などという脅し文句を発したところで,人は付いてきません.むしろ,弱者を支援し,水先案内人として未知の世界へと導く姿勢が大切です.

Terminalアプリケーションを使うには,UNIXに関する基礎知識が不可欠です.Macユーザーで,なおかつUNIXも詳しいという人は,ほんの一部でしょう."For the rest of us"というMacの出自からして,当然のことです.落ちこぼれ用パソコンなのです.そこで,UNIXのコマンドとシェルについて,手軽に楽しく学ぶための初心者向き良書を紹介しておきます:

シェルとしてbashを採用しているので,RIETAN-2000を動かすための基礎知識を仕入れるのに好都合です.これを読み終わったら,次に,より本格的な書籍に移行するとよいでしょう.PantherのUNIX的活用に関する本が何冊か出版されていますが,Tiger用の本が出るまで待つのが賢明です.

アドバイスをもう一つ.Reame_Darwinにも書きましたが,地獄から来たエディターemacs(信者に罵倒されるかもしれませんが)と今や化石と成り果てたviは使わない方が身のためです.なんのメリットもありません.行末文字をツールバー上で表示・変更できるmiJedit Xをお奨めします.先頭にピリオドがついた設定ファイル(たとえば.bashrc)は,「開く」ダイアログボックスで"隠しファイル/フォルダも表示する"をチェックすれば開けます.

■ 2005年5月30日(月) 既視感

3チャンネルで紹介していた映画「リリイ・シュシュのすべて」の印象的なシーンに刺激を受け,DVDで全部観ました.いじめ,窃盗,万引き,恐喝,援助交際,オヤジ狩り,レイプ,自殺 ―― 中学生による悪行のオンパレードです.陰惨にして,スタイリッシュな描写.ドビュッシーのピアノ曲が流れ,リリイ・シュシュというカリスマ・シンガーのファンサイト(リリフィリア)におけるチャットが頻繁に表示されます.締めくくりは,衝撃的な事実と非情な仕打ちに突き動かされた完全犯罪(=殺人)です.なぜか後味は悪くありません.私の採点は★★★★です.

最後まで姿を現さないリリイ・シュシュの曲は,Salyuが歌っています.SPACE SHOWER TVの5月のPower Push!として,繰り返し「彗星」のミュージカル風PVが放映されていました.Salyuがオレンジ色のダサい制服を着たOLに扮し,オフィスや路上などで同僚たちとダンスを踊りながら歌っているのを見た方も多いでしょう.

「リリイ・シュシュのすべて」を観ながら,ずっとデジャ‐ビュを感じていました.以前どこかで見たような光景なのに,どうしても思い出せません.一日経ってから唐突に気づいたのは,韓国の独立記念館だったということです.拷問,虐殺,焼き討ち,慰安婦,強制連行 ―― 国家レベルの蛮行がこれでもか,これでもかという感じで展示されていました.拷問シーンは音声付きです.高宗の王妃である閔妃や女官たちを日本人が斬殺するシーンなどは,ろう人形で再現されており,強烈な印象を受けました.

一番,鮮明に覚えているのは江戸時代の日本地図(日本人が作成した地図)です.その地図では,竹島がはっきり朝鮮の領土だというように色分けされていました.これを見た韓国人は誰でも,日本をずるい国だと思うでしょう.お断りしておきますが,別に私は竹島が韓国領だと主張しているのでなく,ただ私が過去に見たことを見た通りに述べているだけです.私は竹島がどちらの領土かを判断するだけの情報を持ち合わせていません.

冬ソナファンの聖地である春川(チュンチョン)に中年のオバさんたちが殺到する時代になっても,交通の不便な独立記念館を訪れる日本人はめったにいないでしょう.しかし,大半の韓国人は修学旅行などで,そこを見学するようです.多かれ少なかれ反日感情が頭に刻み込まれるに違いありません.戦後60年を経ても,日韓両国の間にはそういう厳しい現実が横たわっています.

■ 2005年5月31日(火) DAEMON Tools PRO

最強CD/DVDエミュレーション・ユーティリティの誉れが高いDAEMON Toolsの新版(V 4)はなかなか出現しませんが,最近,DAEMON Tools PROというアプリケーション(おそらく有料)も平行して開発しているというニュースが流されました.実行中のスクリーンショットから,イメージファイル作成機能(Read Disc to Image)をもつことが窺えます.DAEMON Tools V 4がなかなか登場しない理由がこれでわかりました.

■ 2005年6月1日(水) 古谷君からの近況報告

RIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析の管理人,古谷龍也君はこの4月に,ある会社に就職したばかりですが,勤務先で結晶構造解析を担当することになったと知らせてきました.修士課程修了直後に希望通りの職種につけたのは,幸運というしかありません.たとえ博士号を所持していたとしても,なかなか難しいはずです.古谷君の周りを見渡しても,学生時代に研究していたことをそのまま仕事に活かしている人はほとんど見当たらないそうです.

「がんばれば会社で思い通りの仕事が出来ると感じました。」 これが当掲示板に書き込むよう古谷君から依頼された言葉です.健闘を祈っています.

古谷君は私とのQ & Aを再開したいそうです.思い返せば,そのQ & Aは中性子回折におけるμRの入力と多相試料の定量分析におけるmicrabsorptionの補正をRIETAN-2000に組み込む契機となったわけで,私にやる気を起こさせる不思議な力を秘めているようです.

そうですね.いずれ何か質問を考えますよ.RIETAN-2000の新機能と関連したものにしましょうか.

ところで,古谷君のcrystal blog昨年10月10日をご覧ください.構造解析について私に教わっているのは,「大塚 愛に作詞作曲、歌を習っている」みたいだと記されています.その当時は,大塚 愛なんて,名前も顔も知りませんでした.勉強になりました.いいですね,SMILY ―― 天真爛漫かつ脳天気で.日頃,こういうハッピーな曲を聴いていれば,ヘタレ中高年といえども鬱病に絶対罹らないのではないでしょうか.

■ 2005年6月2日(木) 特性X線の強度比

RIETAN-2000の雛形入力ファイル*J.ins中で,

R12 = 0.497: 強度(Kα2)/強度(Kα1). Cu Kβ特性X線の場合, R12 = 0.0.

という行がわかりにくいと古谷君から指摘されたので,補足的に説明しておきます.確かに,Cu Kβ特性X線がCu Kα1とCu Kα2から成っている訳でもないのに,R12を0.0に設定すると言われても,理解に苦しみますね.

中のTable 4.2.2.1では,Cu Kβ特性X線はCu Kβ1とCu Kβ3から成っており,実測波長はいずれも1.3922340(60) Åとされています.そこで便宜上,R12 = 0.0と設定し,実質的に単一波長のビームとして扱うことにしたということです.いずれ,雛形ファイル中の上記の行を

*J.ins → R12 = 0.5: Kα特性X線の場合R12 = 強度(Kα2)/強度(Kα1),Cu Kβ特性X線の場合R12 = 0.0.
*E.ins → R12 = 0.5: R12 = Intensity(K_alpha2)/Intensity(K_alpha1) for K_alpha radiation, and R12 = 0.0 for Cu K_beta radiation.

というように修正することにしましょう.

Cu Kβ特性X線は,グラファイトの結晶モノクロメーターをセットし直すだけで,手軽に使えます.未知構造解析でとくに有用です.

なお,IUPACが推奨している由緒正しい表記法では,Kα1はK-L3,Kα2はK-L2,KαはK-L2,3と表します.厳密には,'K'や'L'はイタリックです.

■ 2005年6月3日(金) MEMのノウハウとテクニック

MEMのパワーユーザー2名(もちろんPRIMAのユーザー)に支援していただき,講習会「粉末X線解析の実際」のサブテキスト中にMEM解析に関するノウハウを洗いざらい注入しました.目新しい情報を文書の形で残す ―― これが目的です.どさくさまぎれに単結晶X線回折データのMEM解析や裏技めいたテクニックまで詰め込みました.この類の情報が表に出たことはないはずですから,貴重かつ魅力的な文書となることでしょう.自分自身が重宝するに違いありません.

Mac用FTP/SFTPクライアントソフトFetch 5を旧バージョンのユーザーに10ドルで販売する(6月30日まで)というメールが届いたので,忘れないうちに購入しました.最近はosXigenというソフトを使っていましたが,Finderへファイルをdrag & dropする際,Optionキーを押さなければならないのが難点でした.今後はFetchに切り換えます.

■ 2005年6月4日(土) RIETAN-2000 Rev. 2.3.5

Windows・Mac OS用のRIETAN-2000をRev. 2.3.5に更新しました.NTARG = 7(Cr Kα特性X線)と設定すると,異常終了するというバグを修正しました.さらに全雛形ファイル*.ins中のR12の入力行を一昨日,記したように修正しました.

これまで,くどいほど繰り返し書いてきたことですが,RIETAN-2000,VICS,VEND,PRIMA,ALBAは常に最新版同士を組み合わせてお使いください.新旧バージョンの混用は不可解なトラブルを引き起こすかもしれません.また,雛形ファイル,バッチファイル,シェルスクリプトも最新の配布ファイル中のものを使わないと,プログラムが正常に動作しない可能性があります.

バグに関する情報提供は大歓迎ですが,必ず最新版で確認の上,ご報告ください.

■ 2005年6月5日(日) ひっそりと終焉を迎えたRIETAN-2000

Rev. 2.2でMicroabsorptionの補正を実現して以来,特性X線の波長,質量吸収係数,異常分散の補正などを小刻みに修正してきましたが,やっと一段落したので,RIETAN-2000をメンテナンスモードに移行させることにしました.今後は,64ビットOSの進歩と普及を念頭に置き,RIETAN Pro(5月21日参照)の開発に切り替えます.ネーティブ64ビットコード化するとともに,プロフェッショナルな新機能を少しずつ投入していく予定です.

機能を追加すると,*.ins中の入力データも当然増えます.そこで,局所整数変数NPRO@を使ってRIETAN-2000とRIETAN Proの雛形入力ファイルを共通化するつもりです.*.insの先頭近くに

NPRO@ = 0! RIETAN-2000を使う.
NPRO@ = 1: RIETAN Proを使う.

という行を追加し,RIETAN Pro用の入力データのところには

If NPRO@ = 1 then
 ……
end if

というような行を置くだけのことです.

思い起こせば,「今後はソフトつくりに専念する.」と言い放ち,RIETAN-2000の前身を作成し始めたのは1997年春でした.ここまで到達するのに8年もかけたことになります.すでにVICS,VEND,PRIMA,ALBAもメンテナンスモード入りしました(内,VICSとVENDは門馬綱一君が根本的に作り直す予定).これら5本のソフトがこの8年間に形成した資産のすべてです.正直なところ,私のcapacityでは,それで一杯一杯でした.しかし,8年前には想像だにしていなかった地点にたどり着くとともに,大きな波及効果も及ぼすこともでき,心から満足しています.

おっと,忘れるところでした.本Webサイトも重要な資産です.これほど規模が大きく,継続的かつ頻繁に更新されている科学技術関連個人サイトは,ほとんどお目にかかったことがありません.他のいくつかのWebサイトにも多大な影響を及ぼしています.

■ 2005年6月6日(月) 64ビット化のコスト

現時点でMac OS X用Fortran 95プログラムを作成するには,64ビットコードがビルドでき,最適化レベルの高いAbsoft Pro Fortran for Mac OS Xに頼らざるを得ません.v9.0 → v9.2のバージョンアップ料金は59,115円也です.毎年,これ位の金額を支払ってアップグレードし続けています.自作ソフトの64ビット化にあたっては,コンパイラーを始めとするソフトウェアだけでなくハードウェアも新たに取りそろえる必要があります.Windows機も同様です

開発体制の持続性を重んじるとなると,少なくとも64ビット化したソフトについては無償配布は無理かもしれません.個人で負担しうる限度を超えています.

■ 2005年6月7日(火) 暗澹たる結末

ミリオンダラー・ベイビー」は結末を知ってしまったので,観るのを躊躇しています.「ジョゼと虎と魚たち」同様,私にとっては後味が悪いはずです.現実と切り離し,純粋に映画として楽しむことができないでしょう.今回は,師匠のフランキー(クリント・イーストウッド)が弟子のマギー(ヒラリー・スワンク)を●●●させるというストーリーですから,なおさらです.

こぼれ話を一つ.マギーが最後に対戦するのは現役ボクサーのルシア・ライカです.ルシア・ライカは7月30日にラスベガスでクリスティ・マーチンとの最強女性ボクサー決定戦に臨みます.そのキャッチフレーズはMillion Dollar Ladyだそうです.

■ 2005年6月8日(水) Bad and good news

AppleIntelのCPUを搭載したMacを2006年から提供し始め,2007年内に移行を完了すると発表しました.

これまでに取り揃えたソフトは新バージョンへすんなり移行するのかどうかが心配です.開発用マシンの新規購入は必至です.今後,64ビット版Windowsにも対応する予定のRIETANやVENUSの開発コストは大幅に増加するに違いありません.厄介なことになりました.かなり気落ちしています.

マルチプラットホームのソフト開発は色々な面で,とにかく消耗します.Mac OS 9.X,Mac OS 10.X(PowerPC), Mac OS 10.X(Intel),Windows(32ビット),Windows(64ビット),Linux(32ビット),Linux(64ビット) ―― これらに対応するには膨大なコストがかかります.一昨日も書いた通り,そのコストすべてをわれわれ開発者が負担する気は失せつつあります.

悪い知らせばかりではありません.予想外に早く,門馬綱一君がMac OS X用VICS-IIのα版v0.9.1(v1.0α2)を作成してくれました.Aquaインターフェースを備えた,X11不要のアプリケーションです.数個のファイルがパッケージ化されています.wxWidgetsの全面的採用によりファイル入出力ダイアログが実現し,Output Windowに相当する部分に意味不明なエラーメッセージが表示される不具合は消え失せました.ただし,ベクトル(矢印)表示機能がまだ実装されていません.

VICS-IIのβ版は門馬君のWebサイト,JP-Mineralで公開する予定です.楽しみにしていてください.

講習会「粉末X線解析の実際」で,私はPowerBook G4と液晶ディスプレイを使って講義します.α版の完成によりVICS-IIの実演が可能となったのは,願ってもないことでした.門馬君の努力のおかげです.

なお,VEND-IIについては,これから仕様を決める段階です.当分の間,VENDを使ってもらう必要があります.

VICS-IIに引き続きVEND-IIが完成した暁には,3D結晶・分子グラフィックスの世界にそびえ立つような傑作ソフトとなるでしょう.

■ 2005年6月9日(木) 訪問者からのレスポンス

本Webサイトは,Mac OS X標準添付のテキストエディットでタグを手書きするという古典的手法で制作しています.LaTeXで文書を作成するのに似ています(ずっとやさしいですが).テキストエディットを使うのは,iDiskへの保存が高速なためです.不特定多数の人がハンドルネームで書き込み,型にはまったスタイルを強制されるBlogは性に合わないので,結局止めてしまいました.どこの誰だかわからぬ匿名氏とコミュニケートする愚は避けたいです.

現状で十分とはみなしていないのですが,外見より中身が大事,というスタンスを貫く所存です.双方向性に欠けていることは認めます.しかしごあいさつにも記した通り,私が書いたことに対する意見,批判,コメント,質問,配布ソフトの不具合などは私に直接,メールしていただけばいいだけのことで,聞く耳を持たないというほど頑固ではありません.むしろ非常にフレキシビリティーに富んでいると自負しております.本Webサイトの訪問者が異例なほど多いのは,堅苦しくアカデミックな姿勢が感じられないからではないでしょうか.自作ソフトが進化し続けているのも,人の意見に十分耳を傾けているからに相違ありません.

届いたメールには必ず目を通しています.すべてに返答する余裕は到底ありませんが…

(ほぼ)毎日の更新は大変そうに見えるかもしれませんが,実のところ,さほど負担になってはいません.筆の速さ(後天的)の賜です.

■ 2005年6月10日(金) VICS v5.6

VICS v5.6をアップロードしました.SCATのMAKEF05用入力ファイルF01を入力したとき,load_dataという関数が実行されるたびにスケールが狂っていくというバグを門馬網一君に修正していただきました.関西学院大学の吉田尚史氏から,F01を読み込んだ後,Search Bondsダイアログボックスを使って各原子を結合させると,結合を発生させる前と異なったスケールの図が現れると指摘された結果,このバグに気づきました.

さらに,RIETAN-2000用入力ファイル*.ins中の注釈行の長さが最大160文字(半角として)に増えたことに対応するとともに,Programsフォルダ中のtemplate.insを更新しました.これで,RIETAN-2000 Rev. 2.3.5用の*.insが正常に出力されるはずです.VICSが最大80文字/行までの*.insしか出力できないことを教えてくれた古谷龍也君に感謝します.また,VICS_VEND_manual.pdfとPRIMA_manual.pdfを少しずつ修正しました.

VICSとVENDにはもはや新機能を追加していませんが,不具合は可能な限り修正するよう心がけています.このような「急がば回れ」的姿勢がVICS-IIの完成度を高めているのは言うまでもありません.

門馬君の話では,VICS-IIでは,ボタンをクリックするといったイベントが発生したときの処理は,イベントハンドラー内で完結するように改善したそうです.手抜き的拡張が幾度となく繰り返されたVICSやVENDでは,イベント処理以外の箇所でも類似コードが数多く使われていたため,門馬君はそれらをことごとく統一的なコードに置き換えました.膨大な作業を要しましたが,拡張性は大幅に高まりました.門馬君の奮闘努力には頭が下がりっぱなしです.

■ 2005年6月11日(土) 解析ユーティリティーズ

RIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析解析ユーティリティーズが追加されました.

学生時代に色々教えた人が社会人になってからも,このように有用な情報を発信し続けてくれるのは,とても嬉しいです.

■ 2005年6月12日(日) 技術援助

ここのところ,東北大金研の大山研司氏のBlog,I am not what I am.で,Mac OS X専用RIETAN-2000(Terminalアプリケーション)について継続的なヘルプを実施しています.ここで彼を助けておけば,後でHERMESのWebページでMac OS X版について詳述してくれるだろうと期待した上でのことです.大勢の人に役立つ情報を発信している人を最優先で援助するのは当然のこと.同程度に優先順位が高いのが,バグフィックスです.

UNIXを新たに覚え,色々苦労してTerminalアプリケーションを動かした方の方が,初心者向きの解説を書くのに適しているのは明らかです.私は不適格者です.昔はSun Microsystemsのワークステーションを使いまくっていた口ですから.

I am not what I amの6月10日の記事に「Cu3Fe4P6E.insなら909行目」と書かれていたのには,びっくりしました.そんなに長大な入力ファイルがあるとは思えなかったのです.ところが当該ファイル(古谷龍也君が作成してくれた日本語ファイルもあります)を参照したところ,964行もありました.機能が増えるたびに長くなっているのですね.RIETAN PROでは1000行を越すと予想されます.

■ 2005年6月13日(月) 両刀遣い

インテル製CPUを積んだMacへの既成ソフトの移植は,すでに開発環境をXcodeに移していれば,楽なものらしいです.まず,Xcode 2.1をダウンロードし,Macにインストールします.CPUを指定するには,必要に応じてコードを少々手直しした後,

Architectures to build for:
□ PowerPC
□ Intel

というコンパイル・オプションにチェックを入れるだけです.両方をチェックすれば,いわゆるUniversal Binaryがビルドされます.

Mac OS Xを開発し始めた頃から,着々とIntelのCPUへの乗り換えを準備していたようです.

とはいえ,Intel機を購入しなければ,次世代機用ソフトの開発などできないことに変わりはありません.本Webサイトの維持管理に使っている自宅のiMac(満4才)もそろそろ買い換えたいのですが,今更,iMac G5を買う気にはなりません.1年待つことにいたしましょう.

■ 2005年6月14日(火) mi v2.1.6

Mac OS用テキストエディターmi v2.1.6が正式リリースされました.行末コードが常に表示されるため,RIETAN-2000(Terminalアプリケーション)のファイル編集に便利です.

最近,短歌を詠まなくなったのは,ネタに不自由していないためです.あまり深い意味はありません.

■ 2005年6月15日(水) テキストは書き終えましたが,文字間隔が…

講習会「粉末X線解析の実際」の補助テキストのために「VENUSを活用した3次元可視化とパターン分解」という章を執筆していましたが,締切間際にようやく脱稿しました.Microabsorptionを補正した定量分析も潜り込ませました.

あまりにも長くなったので,VENUSパッケージ関係の図表は,リガクジャーナルのために執筆した解説(4月27日参照)を眺めていただくということにし,図表を計3つに減らしました.その解説は誰でもダウンロードできるのですから,差し支えないでしょう.22ページに達する力作です.本掲示板からは想像もつかないような,アカデミックで無愛想な文章がぎっしり詰まっており,堅苦しいこと,おびただしいです.

6月4日にも書き込んだ通り,三つのエレガントな構造解析技術(MEM・MPF・MEP解析)に関する貴重な文書となると確信しております.

今回の原稿は,諸般の事情からMicrosoft Wordで執筆しました.ところが,EPSやPDF形式の図がどうしてもきれいに貼り込めません.二目と見られないほどに劣化してしまうのです.仕方なしに,糊とはさみ(!)で急場をしのぎました.原稿を郵送した後に知ったのですが,PNG形式のファイルだと問題なく挿入できるのですね.LaTeXを偏愛していると,こういうときに苦労します.

英数字と仮名漢字との間隔の自動調節機能だけ取り上げても,Wordのおバカ加減は相当なものです.一体,仮名漢字―文献番号(半角,上付),(ギリシャ文字 or 半角カッコ)―仮名漢字の間のスペースはどうやって局所的に調節するのでしょうか.前者はぴったりくっついてほしいのに対し,後者は適当な長さのスペースが入ってほしいのです.仮にそんな初歩的なことすらサボっているのだとしたら,Microsoftに「■■」と言ってやりたい.

いや,ポジティブ思考で行きましょう.まさか天下のMicrosoftともあろうものが,そんなタコな製品を売りまくる訳はないでしょう.ウマシカなのは私の方に相違ありません.ご存じの方は,ぜひご一報ください.

■ 2005年6月16日(木) Self-help

セカチュー同様,「助けてください!」と叫びたくなったWordの文字間隔自動調節の欠点(昨日の記事参照)ですが,レスポンスは「僕もわかりません。」というメール1通でした.

お助けマンが現れないのは,予想通り.たとえ知っていたとしても,面倒くさがって,なかなか教えてくれないものですし,そんな些細なことにこだわるのは,私一人なのかもしれません.そこで,人を当てにするのはやめ,自らノウハウの会得に乗り出しました.

結局,さほど時間をかけることもなく,すべての問題を完璧に解決しました.仮名漢字―文献番号(半角,上付)間はあまり空白を空けずに詰めることができました.半角カッコ,すなわち"("あるいは")"と仮名漢字間も広げられました.ギリシャ文字―仮名漢字間の間隔は,悪知恵的裏技を使えば,きちんと自動調節されることを突き止めました(少なくともMac用のWord 2004ではOK).

しかし,この程度のことを手動で処理しなければならないのでは,あまりに面倒です.Microsoftは要らざる機能を追加したり,Officeライセンス認証を行ったりする前にやるべきことがあるのではないでしょうか.

■ 2005年6月17日(金) Carbonアプリケーションにとどめを刺す必殺技

rietan2000m.tbz,rietan2000w.tbz,VENUS.tbzを一斉に更新しました.RIETAN-2000本体は変わっていません.一方,VICSはv5.6.1にバージョンアップしました.

Mac OS X用RIETAN-2000の配布ファイルにシェルスクリプトの雛形x.command,ffe.command,cif.commandを追加しました.*.commandのアイコンをDockにドラッグ&ドロップして登録すると,以後,そのアイコンをシングルクリックするだけで,Terminalウィンドウが自動的に開かれ,シェルスクリプトの中身を順次実行してくれます.lessでRIETAN-2000の標準出力を閲覧し終わったら,Command-Qを押してTerminalウィンドウを閉じます.

*.commandの動作の仕組みについては,Readme_Darwin中の"You may prefer ....."以降,二つの段落をお読みください.要するに,シェルスクリプトのファイル名に拡張子"command"を付加し,当該ファイルを選択した状態でファイル → 情報を見る(あるいはCommand-I)を選択し,ターミナルで開くよう指定すれば,Finder上で起動できるようになるのです.

この技については,たとえばあさおかホームページの勉強部屋 → Macintosh関連 → シェルスクリプトとアップルスクリプトで,浅岡浩子さんが明快に説明されています.

*.commandさえあれば,Terminalウィンドウ中でコマンドを打ち込んでシェルスクリプトを起動する必要がなくなる訳で,Macユーザーにとっては朗報です.GUIしか知らない(あるいは使いたがらない)Macユーザーは狂喜することでしょう.鈍重で時代遅れなCarbonアプリケーションに引退してもらう時が,いよいよ近づいてきました.大体,RIETAN-2000を実行するたびにファイルOpenダイアログボックスで*.insを指定するなんて,面倒くさくて,やってられねー.Mac OS 9.XユーザーやUNIXアレルギー患者といった弱者を切り捨てたら,まずいでしょうか?

Windows用RIETAN-2000では,Windows 98/Me用バッチファイルRIETAN-2000.batにおいてラベル":NPAT0"が欠落していたのを修正しました.リガクの新井和良氏のご報告を感謝します.

VICS v5.6.1では,2つの不具合を門馬網一君に修正していただきました.

第1はNew Dataダイアログボックスで各サイトの元素記号を入力するとき,3文字以上の文字列の入力を受け付けてしまい,以後,3文字目以降が文字化けするという不具合です(東芝,井野恒洋氏のご指摘).最長2文字まで入力できるとマニュアルに明記してあるにもかかわらず,3文字目以降も読み込んでしまうため発生した障害です.そこで,3文字目以降は無視するよう修正しました.

第2は,新ICSD形式のファイル*.icsにおいて,キーワードと同じ単語(たとえば"Atom")がデータ部分に含まれていると,データが正常に読み込まれないという不具合です(宇部興産,藤井一宏氏のご指摘).同様な障害は他のフォーマットでも起こる可能性がありますが,今回は新ICSD形式だけの修正に留めました.少しずつ,地道にバグをつぶしていくしかありません.

最後に,今日アップデートしたばかりのVICSを除き,LINUX用のRIETAN-2000とVENUSがすべて最新版にアップデートされたことを申し添えておきます.信州大学,大木寛氏のWebページ,トピックスからダウンロードできます.

■ 2005年6月18日(土) 予想だにしなかった展開

傍目には,目出度いことなのでしょうが… 己が背負い続けているものの重さをあらためて思い知らされました.

■ 2005年6月19日(日) やっぱり桃子やアリスの方が性に合ってます

昨年度の日本映画は女子高生パワーが炸裂した感が強く,当掲示板でも随時,紹介してきました.

チルソクの夏」を観ての感想は,一言にしていえば「古典的=古くせー」.なにしろヒロインの郁子(水谷妃里)は下関のうらぶれた長屋に住む憂い顔の美少女で,父親は1977年当時,すでにすたれつつあったギター流しなのですから,筋金入りの古くささです.郁子は苦しい家計を助けようと新聞配達でお金を稼ぎ,淡い恋心を抱いた釜山の高校生のためにマフラーを編み,商売道具のギターを壊された父には中古品をプレゼントし,走り高跳びの選手として奨学金を得て体育大学への進学を果たし,中年の体育教師になった今は日韓親善のために全力投球というのですから,ご立派と評するしかありません.生まれてこの方,「努力」の二字と無縁のまま馬齢を重ねてきた自分と引き比べ,恥じ入るばかりです.「性に合わねー」って感じ.しかし,佐々部 清監督の下関に対する愛着が過不足なく表現されていたことと,観終わった後の清々しさを評価し,★★★★を与えておきます.

当世は絶滅したでしょうね,こういう健気な「キューポラのある街」的少女は.

下関や尾道には,一度ぜひ行ってみたいものです.

小さな店が軒を連ねた釜山の市場は懐かしかったです.RIETAN-94を作成していたころ,韓国人研究者の金 容日氏を10ヶ月間,技術指導しました.後に彼の母校である釜山大学で講演するため釜山を訪れた折りに,彼が連れて行ってくれたのです.ロケ地の一部が,なにやら釜山大学のキャンパスに似ているように見えたのは気のせいでしょうか.

残る高校生映画でめぼしいのは「パッチギ!」くらいです.これは7月末にDVDがリリースされ次第,観るつもりです.

■ 2005年6月20日(月) RIETAN-2000用GUIプログラム

CRietan2000(Windows版)がv1.3にアップグレードされました.

■ 2005年6月21日(火) 三つのなぜ?

Microsoft Wordで文字間隔を局所的に調節する方法(6月15・16日参照)を古谷龍也君のメモ帳に書き込んでもらいました.興味のある方は参照してください.それにしても,Microsoftが文字間隔の完全自動化を未だにサボっている理由がわかりません.AdobeやQuarkへの思いやりでしょうか.そんな馬鹿な.

昨日,VICS-II v0.9.2をあれこれチェックしていたとき,プルダウンメニューの項目名の末尾に"..."が付いているのと付いていないのがあるのはなぜだろうか,という疑問を抱きました.たとえば秀丸エディタのファイルメニューには

新規作成
開く...
閉じて開く...
上書き保存
名前を付けて保存...

などの項目があります.調査した結果,プラットホームと無関係に,プルダウンメニューの項目名に関する明確なルールがあることを知りました.そこで,早速,門馬綱一君にこのルールを教え,メニュー項目名を修正するよう指示しました.

長年,ソフトを開発してきたにもかかわらず,こういうイロハを知らなかったとは.そこで,久方ぶりに自虐ネタを一発:

ヒロシです。「開く」にドットが三つ付く理由がわかりません。

私は茨城県に住んでいます.毎日新聞の調べによれば,茨城を「いばらぎ」と読む人が53 %,「いばらき」と読む人が47 %だそうです.正しいのは後者です.半数を超える人々が「き」に濁点を付ける理由がわかりません.「宮城」という県名から連想するのでしょうか.

■ 2005年6月22日(水) コマンドを一行入力するだけで…

Mac OS X Tigerで画面スクロールなどの2D画面描画をGPUに担当させるには,Terminalで

sudo defaults write /Library/Preferences/com.apple.windowserver Quartz2DExtremeEnabled -boolean YES

というコマンドを打ち込み,Quartz 2D Extremeを有効にした後,再起動します.ただし,Core Image対応のGPUを搭載していないマシンでは,この機能は使えません.Core Image,ひいてはQuartz 2D Extremeに対応しているか否かについては,システムプロファイラのグラフィックス/ディスプレイで確認できます.その際,最上部にGPU名が表示されます.

Quartz 2D Extremeがどの程度御利益があるかについては,Xbenchで計測できます.ちなみに私のPower Mac G5(デュアル2.5 GHz,ビデオカード: RADEON 9600 XT)でのXbenchベンチマークテスト結果は次の通り:

  1. Quartz 2D Extreme OFF
    1. Quartz Graphics Test: 276.29
    2. OpenGL Graphics Test: 259.43
    3. User Interface Test: 422.55

  2. Quartz 2D Extreme ON
    1. Quartz Graphics Test: 387.90(+40 %)
    2. OpenGL Graphics Test: 290.51(+12 %)
    3. User Interface Test: 505.69(+20 %)

Quartz 2D Extremeの威力が数値データで確認されました.これだけ高速化すれば,もう十分.昨年度,9600 XTをNVIDIA GeForce 6800 Ultra DDLに換装しなかった(入手困難)のは,結果オーライでした.発熱量が増え,ファンの回転音がうるさくなるのはご免です.

■ 2005年6月23日(木) DIY: rietan2000m.tbzのウィルスチェック

Appleは.Macユーザー向けに提供していたウィルススキャンソフトウェアVirexの提供を終了しました.私はすでに.Macユーザー向けVirexに見切りを付け,Mac用配布ファイルrietan2000m.tbzをWindows機に転送した後,Norton AntiVirus 2005でスキャンしています.しかし,こんな検査法で大丈夫なのかどうか,自信ありません.Mac OS用RIETAN-2000のユーザーは安全のために,必ずご自分でウィルスをチェックするようお願いします.

まあウィルス作者にしてみれば,Mac用ウィルスは作り甲斐がないでしょうね.波及効果が小さいですから.今,大騒ぎになっているカード情報漏洩ですが,ウィルスの侵略を許したOSはなんだったのでしょうか.

■ 2005年6月24日(金) The most impressive scene in "All about Lily Chou-Chou"

「5月30日に書き込まれていたリリイ・シュシュのすべての印象的なシーンって,どこだったんですか。」という質問メールがうら若き女性から届いたので,ここでお答えしましょう.蒼井 優が田舎道で市原隼人に怒りをぶつけた末,水の中に入っていく悽愴なシーンです.しかし,なんでそんなことに興味があるんだろ?

そのTV番組は「トップランナー」です.インタビューで,「岩井俊二監督はどんな方ですか。」と聞かれたときの蒼井 優の答えが傑作でした.曰く「聖徳太子の物真似とかやってくれる。すごく面白い方。」 はぁ,聖徳太子ですか?! それでは,私もなにかの機会に須佐之男命(すさのおのみこと)の物真似に挑戦しましょうか.八岐大蛇(やまたのおろち)の前に立ちふさがって啖呵を切るという場面.セリフはあれしかないな.

■ 2005年6月25日(土) ドドーンと満員御礼

講習会「粉末X線解析の実際」(7月5・6日)の受講申し込みの受付は,6月13日で打ち切ったそうです.今回は受講希望者が非常に多いだろうという予想は的中しました.

講習会が人気なかったら気落ちするくせに,超満員の会場で講義する自分を想像したとたんに萎縮するんだよな.このシャイな性格はなんとかバージョンアップできないものでしょうか.

■ 2005年6月26日(日) 文献番号付けの自動化

6月15・16日にブツブツ文句を言った文字間隔調整に関するMicrosoft Wordの問題点ですが,仮名漢字―文献番号間に余計な空白が入るというトラブルは完全に解決しました.文末脚注(各ページの最下部に文献リストを置くときは脚注)という機能を使って,本文中と文書末尾の文献番号を自動的に付ければ,仮名漢字―文献番号間にスペースは挿入されません.

Microsoft Word 2004 for Macの場合,ヘルプ → Word ヘルプで"文末脚注"を検索し,「脚注または文末脚注を挿入する」と「同じ脚注や文末脚注を繰り返し参照する」という項目を読めば,参照番号付けを自動化する方法がよく理解できます.

挿入メニューの下の"脚注..."(新文献参照)および"クロス リファランス..."(入力済み文献参照)により本文中に文献番号を書き入れます.文献番号に付随する")"や"[ ]"は自分で付け加え,必要ならフォント(サイズ,上付き,下付きなど)を変更します."脚注..."を選ぶと,文書の末尾の文献リストにジャンプし,著者名,雑誌名などの入力を促してきます.引用文献を追加,移動,削除すると,本文と文献リスト中の文献番号が自動的に変わるのは言うまでもありません.

LaTeXの強力な引用文献関連機能に比べるとさすがに見劣りしますが,Wordで投稿・修士・博士論文などを執筆する際には便利な機能です.「そんなことくらい知ってるよ.」という人が多いのでしょうが,自分のためのメモを兼ねて,ここに書き込みました.

過去に何度も繰り返し述べてきたことですが,こんな一般大衆向けの,「大男,総身に知恵が回りかね」的ソフトは敬遠したいんですよ.Wordで書くことを強制されるから,渋々使っているにすぎません.

■ 2005年6月27日(月) Amazing achievement

門馬網一君からWindows・Mac OS X用のVICS-IIのアルファ版v0.9.3が送られてきました.私がv0.9.2をチェックし,多くの改善すべき点を指摘し,ほとんどすべてを彼に修正してもらいました.講習会「粉末X線解析の実際」における私の講義で,Mac OS X版の実演を行う予定です.

VICS-IIは見かけこそ初代に似ていますが,ソースコード(とくにGUIの部分)は門馬君の手で根本的に書き直されました.追加機能のうち最も目立つのは,マルチウィンドウおよびタブにより複数のグラフィック画面を切り替えられることです.Firefoxですでにおなじみの機能ですが,事実上一人でここまで実現した門馬君の技量と努力には感服しました.

■ 2005年6月28日(火) 大台突破

RIETAN-2000で得た解析結果を報告する際,必ず引用するようお願いしているMater. Sci. Forum掲載の論文(Izumi & Ikeda, 2000)を引用した論文の数が301にまで増えていました.今年の2月初めに250報でしたから,約10報/月の引用頻度に相当します.年末までに350報に達しそうな勢いです.大きな波及効果を及ぼしているのは,誰もが認めてくれるでしょう.

■ 2005年6月29日(水) 致命傷

Absoft Pro Fortran for Mac OS X v9.2が届きました.さっそく64ビット・ネーティブコードのRIETAN-2000をビルドしてみたところ,線形制約条件をdecodeする箇所で異常終了してしまいました.2ビットコードを指定すれば問題なし.この原因がわかるまで,64ビットコード生成のコンパイル・オプションは封印しましょう.

ところで,IBM XL Fortran Compiler for Mac OS Xを購入した方は,お気の毒というしかありません.来年からMacのCPUはすべてIntel製に変わってしまうのですから,このコンパイラの将来性は,はっきり言ってゼロです.Absoftは骨を拾ってくれるのでしょうか。

■ 2005年6月30日(木) 当面,静観の構え

EM64Tに対応したIntel Visual Fortran Compilers for Windows v9.0を入手しました.64ビットCPU機をもっていませんし,当分そのコンパイラを使う暇もありません.たとえ64ビットコードを配布したところで,現時点で飛びつく人はほとんどいないでしょう.Mac OS X同様,64ビットコードの開発は時期尚早と思われます.

■ 2005年7月1日(金) VICS-II coming soon

VICS-IIの完成度が大分高まってきました.門馬綱一君と相談し,講習会「粉末X線解析の実際」でMac OS X版をお披露目した後,JP-MineralでWindows,Mac OS X,Linux用のベータ版を公開することにしました.マニュアルはまだありませんが,見かけがVICSと似ているので,操作に戸惑うことはないでしょう.

■ 2005年7月2日(土) セメント関連物質の構造と性質

NISTのelectronic monograph,"Modeling and Measuring the Structure and Properties of Cement-Based Materials"はセメント・クリンカー関係の仕事に従事している方々にとって,非常に参考になるでしょう.Part IのChapter 3は,セメントの原料であるクリンカーの標準物質(NIST RMs 8486,8487,8488)の定量分析を扱っており,リートベルト法による組成分析とクリンカーに含まれている8つの鉱物の結晶データが記載されています.

■ 2005年7月3日(日) 松たか子,ああ松たか子,松たか子

「リリイ・シュシュのすべて」がかなり気に入ったので,岩井俊二の他の作品を物色しました.貸しビデオ屋には「四月物語」くらいしかなかったので,致し方なくそれを観ました.全編これ,松たか子のプロモーションビデオ同然で,

引っ越し → 大学入学 → 「私、先輩の後輩です。」→ 愛の奇跡

という,タイトル(日付の次)通りの他愛ない映画でした.終始一貫,純情可憐な乙女が可愛らしく優雅に振る舞う ―― そして,ほとんど何事も起こらぬまま4月が過ぎ,The End.松たか子ファン以外には奨められません.

一種異様なのが,松たか子が映画館で痴漢にあうシーンで上映されていた黒澤明ばりの白黒映画「信長は生きていた」でした.本能寺の変で自害したのは家康で,以後,信長が家康に成りすまし,徳川15代の始祖となるという破天荒な想定です.約7分間の映画では,山崎の合戦で秀吉に敗れ,落ち武者となった光秀と家来を信長が討ち果たします.

信長は最後にうまそうに煙草を吸うのですが,このシーンを観たとたんに,松たか子がヘビースモーカーだということを思い出してしまいました.以後,いかに彼女が自ら演奏したピアノをバックにお嬢様然と演技しても,撮影の合間に煙草をスパスパ吸う姿ばかりが脳裏に浮かび,映画に没入できなくなりました.ひょっとしたら,ピアノはくわえ煙草で弾いた…?

信長が一服するシーンは,岩井監督が皮肉たっぷりに松たか子を揶揄するために挿入したのかもしれません.

■ 2005年7月4日(月) 当分,プログラミングどころではありません

ここ数年,割とマイペースで仕事してきたのですが,今後しばらくはパニック状態が続きます.明日からの「粉末X線解析の実際」講習会に始まり,集中講義2回,依頼原稿(書籍,newsletter),招待講演,論文審査,書類作成,将来計画の策定などで身動きとれません.本掲示版の間引きは必至です.

まあ,未だにあちこちから声が掛かるのをよしとすべきじゃないかな.今のところ,レイムダック状態に陥る気配は微塵もありません.

■ 2005年7月5日(火) A new version of a Cocoa-based editor

Mac OS X専用エディタJedit X Rev.1.20がリリースされました。

■ 2005年7月6日(水) RIETAN-2000(Terminal版)のWebページ

金研中性子粉末回折装置HERMESMac OS X Terminal版への道というWebページが追加されました.CarbonアプリケーションのRIETAN-2000から乗り換えようとしておられる方は,ぜひお読みください.

当Webサイトを訪問するMacユーザーのうち,Mac OS 9.Xを使っているのは1割程度にすぎません.6月17日に記したように,Mac OS X上でコマンドを打ち込まずにRIETAN-2000が実行できるようになったからには,Carbonアプリケーションの命脈が今年度中に切れるのは覚悟しておいた方がいいでしょう.助命嘆願には耳を傾けますが,ご希望に添えるとは限りません.

■ 2005年7月7日(木) やっと一つ片づきました.

「粉末X線解析の実際」講習会,無事終わりました.受講者の延べ人数159名の大盛況でした.VICS-IIのお披露目は無事終わりました.

これほど受講者が多いと,空調がちゃんと効くかどうかが心配だったのですが,杞憂でした.

受講しに来ていたStockholm大学の室山知宏氏から,ノーベル賞の金メダル(のチョコレート)を3枚授与されました.

1時間40分にわたる講義も大変でしたが,22ページに及ぶテキストの執筆と,リュックサックに鞄ごと詰め込んだPowerBook G4(電源アダプタ,マウス,DVI-VGAアダプタを含む)の運搬に疲れ果てました.

■ 2005年7月8日(金) Viva EXPO2004

昨日は,これまでの最高記録ではないかというくらい当ホームページの訪問者が多かったのですが,なぜでしょうか.別に,とりたてて注目に値する更新はないのですが…

「粉末X線解析の実際」講習会における私の講義(7月6日)では,指数づけ,Le Bail解析,直接法による構造モデルの導出などのためEXPO2004(3月7日参照)を利用するよう強く薦めました.

EXPO2004は民間企業を除けば,無償で手に入ります.RIETAN-2000およびVENUSとの連携により,強力な粉末構造解析システムを構築できます.興味のある方はThe web site of the Institute of Crystallographyをご覧ください.

■ 2005年7月9日(土) VENUSの奇跡

愛の奇跡を謳う「四月物語」(7月3日参照),一生に一度の恋に殉じる少女の物語「ミシン」(嶽本野ばら),薄幸の女の一途な思いが娘に乗り移る「押絵の奇跡」(夢野久作)に描かれたように,並はずれた執念は時として奇跡を引き起こします.

私はRubenがNIMSを去れば,VENUSプロジェクトは御陀仏になると思い込んでいました.お金もなければ,人材もいません.最大の受益者である放射光や中性子の研究施設は装置の建設・運転・維持しか眼中にありません.自分に残された年月はわずかです.彼がいなくなったら,フィレンチェのウフィッツィ美術館で「ビーナスの誕生」を拝み,VENUSプロジェクトの幕を下ろすつもりでした.時代遅れのGLUT―GLUIに基づくGUIしか備えていないVICSとVENDは,早晩,忘れ去られるものと覚悟を決めました.

救世主の出現がお先真っ暗な状況を一変させました.門馬綱一君が次世代3D可視化プログラムの製作に乗り出したのです.彼は1年以上,VICSのリニューアル,とくにGUIの一新に黙々と取り組みました.並大抵の労力でなかったと推察します.こうして完成した次世代版VICS-IIのベータ版が,ついに7月8日の午後2時に門馬君のWebサイト,JP-Mineralで公開されました.マルチウィンドウ,複数の構造(ファイル)とPropertiesのタブ切り換え,プルダウン・メニュー,BarとWindowの一体化,Mac OS X版の追加がVICS-IIの売り物です.各ウィンドウの右上のCloseポタン(これをクリックするや否やVICSが落ちてしまいます)を追放したことも,見逃せない進歩です.もちろん,「無料」というVICSの最重要な特長は,そのまま残っています.

高度なオブジェクト指向プログラミング技術を駆使したVICS-IIを修士課程2年の学生がほぼ独力で作り上げたという事実は,私には奇跡としか思えません.その出来映えには,ただただ感嘆するばかりです.商用結晶構造作画ソフトを圧倒するパワーを備えています.講習会「粉末X線解析の実際」で受講者に最もアピールしたのは,PowerBookを使ったVICS-IIの実演でした.

門馬君は今後,VEND-IIの開発に着手します.完成するのは,早くて1年後でしょう.気長にお待ちください.

東工大で開かれる第18回DV-Xα研究会で,8月4日の夕方に「VENUSによる結晶・電子構造の三次元可視化」と題する招待講演を行うことになりました.SCATはおろか,他の電子状態計算プログラムすら実行した経験がない私がDV-Xα法のエキスパートの方々の前で講演するよう依頼されたのは,奇跡以外の何物でもありません.電子状態の研究・教育における3D可視化の重要性を専門家レベルで認知してもらえたということでしょう.

粉末構造解析にせよ,電子状態計算にせよ,優れた3D可視化プログラムが必需品だという認識が今後,急速に広まっていくことでしょう.

過去を顧みれば,PRIMAにおいて,MEED比で数10倍の高速化を短期間のうちに達成したのも,まさしく奇跡的な技術革新でした.MEEDの致命的な(隠蔽された)バグを察知するという,信じがたいほどの幸運にも恵まれました.さらに,ALBAは原始的なLe Bail解析では到底実現できないレベルの驚異的な積分強度推定能力を誇っています.両MEM解析プログラムの独自開発を果敢に進めた戦略は大成功でした.私はこれらすべてをまとめて,VENUSの奇跡と呼びたいです.

■ 2005年7月10日(日) French piano pieces

ここのところ,ややオーバーワーク気味なので,ドビュッシーのピアノ曲集を聴いて疲れを癒しています.「月の光」は映画音楽に何度も使われ手垢にまみれた感がありますが,それ以外にも「水の反映」.「亜麻色の髪の乙女」,「アラベスク」のようなリリカルな名曲があります.

「水の戯れ」,「ソナチネ」など,ラヴェルのピアノ曲もお奨めです.

■ 2005年7月11日(月) What is MOE?

「わび,さび,萌え」と称せられるほど人口に膾炙してきた「萌え」ですが,しばしば拡大解釈され,「オタク」と混同されているように見受けられます.私は

萌え: 架空のキャラクターにときめきを感じる(恋心を抱く)こと
オタク: 報われないこと,役に立たないことに金と時間を惜しみなくつぎ込む人

とみなしています.この定義に従えば,"萌え系企業"が2030年に70兆円産業にまで膨張する(政府試算)などということはありえないはずです.

私がオタクでないのは明らかです.ゲームマシンやPC用ゲームで遊んだことは,ほぼ皆無です.私はコンピュータを「役に立つ」ことだけに使ってきました.RIETAN-2000やVENUSの開発はオタクの所為ではありません.アニメにもまったく興味なし.

萌えという心情は今に始まったことでないことも指摘しておきます.美の女神アプロディテをモデルとする女性像を恋慕したのはキュプロスの王ピグマリオンでした。江戸川乱歩の「人でなしの恋」などはタイトル自体が萌えを表現しています.人でないもの(人形)を偏愛し,破滅していく男の物語です.同じく乱歩の「押絵と旅する男」は押絵に飾られた八百屋お七に恋い焦がれた挙げ句,その押絵に入り込み,そこで老けていく男が主人公でした.ヴィリエ・ド・リラダンの「未来のイヴ」におけるエワルド卿と人造美女ハダリーの交情も萌えの範疇に入れて構わないでしょう.

上には人形・ロポットを例に挙げましたが,萌えの対象は多種多様でして,ここに書くのをはばかるようなことも多いです.詳しくは,「萌え萌えジャパン」をお読みください.

■ 2005年7月12日(火) Award-winning studies using RIETAN

関西学院大学の吉田尚史氏から「YAl3-xScx(BO3)4紫外蛍光体の励起発光特性」と題した講演が第18回応用物理学会講演奨励賞に選ばれたとの知らせが届きました.受賞,おめでとうございます.その研究で,吉田氏はYAl3(BO3)4:Gd蛍光体の粉末X線回折データをRIETAN-2000で解析して得た構造パラメーターから,その電子状態を相対論DV-Xα法により計算し,蛍光特性の起源について考察しました.

相対論版SCATを使えば,蛍光体のように希土類などの重元素を含む物質でも,高精度の分子軌道計算が可能だそうです.このプログラムはいずれDV-Xα研究協会の会員に無償で公開するとのことです.

2004年4月5日の本掲示板に書き込んだように,吉田氏と同じ小笠原研究室で研究員をつとめておられる森分博紀氏(パナソニック エレクトロニックデバイス)もRIETANの解析結果を報告した論文で日本セラミックス協会のJCerSJ優秀論文賞を受賞されました.DV-Xα法のユーザーにリートベルト法が広まりつつあるようで,嬉しい限りです.

また,NIMSの高田和典氏と櫻井裕也氏は「水和コバルト酸化物超伝導体の発見」が高く評価され,第9回超伝導科学技術賞を6月23日に授与されました.おめでとうございます.本掲示版に何度か書き込んだように,PRIMAを初めて適用したのが,この新超伝導体でした.その構造をRIETAN-2000で精密化し,さらにMPF法で電子密度分布を決定したのは言うまでもありません.これほど画期的な研究にRIETAN-2000とVENUSが貢献したのは光栄の至りです.

元来,RIETAN-2000は縁起のいいソフトなんです.その開発中に,机の上に山積みになっていた紙の裏をメモ用紙に使ったことがありました.プログラム中で使う複雑な式を導いたのだと記憶してます.そのメモを自宅に持ち帰ってソースコードと照らし合わせている最中に,たまたま裏面(本来は表)を眺め,某賞の推薦依頼書だということに気づきました.本来の目的とまったく関係ないことに使われた紙っぺらに哀れみを感じ,きまぐれにも某氏(もちろんRIETANのユーザー)を当該賞の候補者として推薦したところ,某氏は見事,その賞を獲得したのです.私はそういう七面倒くさい雑事にはそっぽを向くのが常ですから,某氏は何重にもラッキーだったということになります(RIETANの奇跡?).

かくの如く,RIETAN-2000は幸せをもたらしてくれる青い鳥となる可能性があります.幸運を期待しつつ,どんどん活用していただきたいものです.宝くじと違って,お金がかかりません.

おっと,我がことを忘れていました.2年前,第57回日本セラミックス協会賞学術賞を授与されたのは,明らかにRIETAN-2000(とくに部分プロファイル緩和とMPF法)の開発が評価されたためです.RIETAN-2000が世に出なかったら,VENUSは影も形もなかったに違いありません.今頃は,私の名前など忘れ去られていたことでしょう.

■ 2005年7月13日(水) えっ,まさか

あゝ! 一軒家プロレス」のDVD,7泊8日ステージに入ってから借りるつもりでいたところ,主役の橋本真也があの世に逝ってしまいました.

■ 2005年7月14日(木) 究極のDVD-Rメディア

高品質にこだわったDVD-R,森メディアが7月7日に発売になりました.1〜8倍速対応で,10枚組が4800円です.製造元は,かの有名な森 康裕氏.CD-R実験室で検証中です.

残念ながら,DVD-RW(悲しいことに2倍速)の在庫を抱えているという個人的事情から,購入に踏み切れません.

■ 2005年7月15日(金) ゴレンジャー?!

7月15〜18日,京都工芸繊維大学工芸学部での集中講義のため,PowerBookをかついで出張します.3年続けて7月に講義してきましたが,ついに今回で終了です.

講演形式のものも含めて,10数回の集中講義を過去に行いましたが,それぞれ,学生(+教官)にとってどれだけ意義があったのかは,自分ではわかりかねます.大学での講義よりはるかに回数が多い講習会での講義についても,同様です.

数ヶ月前にお会いした,とある会社員から,学生時代に私の講義を聴いたことがある,と言われました.私が授業中に脱線し,事もあろうにゴレンジャーについて語ったことを,今でも鮮明に覚えているそうです.ゴレンジャーの野外ショーは悪漢のボスが子分や子供(もちろん観客)を叱咤しながら訓練するところ(これが大半の時間を占有)だけ滅法面白くて,ゴレンジャー対悪漢のバトルなんて付け足しみたいなもんだよ,という内容だったとのことです.この与太話が結晶学や粉末回折とどういう関係があるのか,首を傾げてしまいました.まあ,よほど時間が余っていたんでしょうね.

先日,ミュージシャンの菊地成孔が東大で講義している光景をテレビで見ました.もぐりの受講者がやたらに多いですね.黒板の全面をびっしり使って次から次にチョークで書き殴ってはしゃべりまくるという感じでした.こういう形式の授業は,声がやたらにデカく,饒舌な私にぴったりなような気がします.そこで,今回の講義の冒頭(回折法の基礎)は,この古典的スタイルに挑戦してみるつもりです.

■ 2005年7月16日(土) どちらの「ヤバい」?

若者の大半は「ヤバい」を「素晴らしい」という意味にも使うのだそうな(5月9日参照).しかし,良い意味なのか,悪い意味なのかを,どうやって判断したらいいのでしょうか.「下衆ヤバ夫」のように苗字がすべてを物語っているなら,話が簡単ですが…

■ 2005年7月17日(日) またしても奇跡!

持って回った言い方ですが,今回の京都滞在中に,絶対「ありえねー」シチュエーションが現出し,面食らいました.まるで狐につままれたような気分.語るに落ちるとまずいので,ここでストップしておきます.

ところで,昨日の橋本真也の葬儀・告別式には1万5千人が参列したそうです.う〜ん,やはり桁が違う.アントニオ猪木の別れの言葉,「元気ですか〜!!」には仰天しました.

■ 2005年7月18日(月) こういう授業もいいもんだ

京都工芸繊維大学での集中講義,無事,終了しました.講義全体にわたって板書の量を大幅に増やしたところ,授業に活気が出たような気がします.その代償として,相当疲れました.暑い盛りに,喋りながら黒板に書きまくり,しかも力一杯消さなければなりませんから.ちょうど祇園祭の期間と重なっていましたが,授業終了後に見物に行く気力は些かも残っていませんでした.

8月初旬の愛媛大学工学部における集中講義でも,同じスタイルを採用するつもりです.

■ 2005年7月19日(火) VICS-IIベータ版のアップデート #2

VICS-II v0.90.3がリリースされました.Mac OS X版で,日本語名のファイルと日本語名のフォルダーに入ったファイルを扱えるようにしました.Mac OS X版とLinux版において,拡張子をつけずに保存した場合,自動的に拡張子を追加するよう変更しました. 不正なファイルを読み込ませたとき,無限ループに入る危険性があるのを解決しました.その他,マイナーな修正も含まれています.

なお,VICS-IIで格子面を移動するには,ManipulationsをTranslateモードに設定した後,格子面上にマウスポインタを置き,ドラッグしてください.格子面以外をドラッグすると,結晶模型全体が平行移動します.

なお,Windows用RIETAN-2000のためのGUI,CRietan2000 v1.3がリリースされていました.

■ 2005年7月20日(水) RIETAN-2000 Rev. 2.3.6

RIETAN-2000をRev. 2.3.6にバージョンアップしました.Le Bail解析の結果を記録したファイル*.ffo中の最初の行を次のように変更しました:

|F|^2 → |Fo|^2
Area → I
I/I0 → I/I1

さらに,英文雛形ファイル*E.ins中の不注意なミス"RIETAN will determined"を"RIETAN will determine"に修正しました.

Mac OS X用のRIETAN-2000,ORFFE,lst2cifは初めてAbsoft Pro Fortran for Mac OS Xの最新版v9.2でビルドしました.G5用に最適化した実行形式ファイルrietan_g5.outも配布ファイルに追加しました.スクリプトファイルxおよびx.command中の'$RIETAN/rietan.out'を'$RIETAN/rietan_g5.out'で置き換えれば,G5用コードが走ります.G5機を使ったベンチマークテストでは,G5用コードはG4用コードより2割弱速いという結果が出ました.G5マシンでCarbonアプリケーションのRIETAN-2000を走らせるなんて,愚の骨頂.ぜひTerminalアプリケーションに乗り換えてください.

■ 2005年7月21日(木) ソニン主演作?

ついに昨晩,「あゝ! 一軒家プロレス」を観ました.一軒家プロレスは,2003年夏に後楽園ホールで実際に行われたことがあります.「シベリア超特急」を思わせるような荒唐無稽かつ支離滅裂なストーリーをでっち上げ,翌年,映画化したという訳です.

まさかソニンが女子プロレスを披露するとは思いませんでした.それが見所.事実,DVDのジャケットとメニュー画面はソニン一人で飾っています.ソニンは後藤真希の弟の不祥事で,EE JUMPというユニットを解消したんですよね.音楽以外に活路を開きたいという意気込みが伝わってくるような気がしました.

橋本真也は,演技力ゼロです.プロレス以外はまるでダメ.台本をろくに読まず,撮影に遅刻する悪癖は,最後まで直らなかったそうです.もうこの頃から,心身ともに蝕まれていたのでしょうか.

■ 2005年7月22日(金) PRIMAのマイナーアップデート

PRIMA v3.5.3を含むVENUS.tbzとExamples.tbzをアップロードしました.PRIMAの不適切な画面・ファイル出力を数カ所修正するとともに,PRIMA用バッチファイル*.batをExamples\PRIMAフォルダ内に追加しました.*.batを使えば,*.prf中でファイル名に絶対パスを含める必要がなくなります.それらのアイコンをダブルクリックするだけでPRIMAが立ち上がり,*.prfを入力してくれます.*.batの中身はたった一行に過ぎません.*.prfと*.batが同一フォルダに含まれているならば,*.prfのベースネームを変更するだけで他の解析にも使えます.

やはり,クリック一発で即実行というのが一番快適です.キーボードを使ったコマンド入力やDrag & Dropによる起動は面倒ですし,RIETAN-2000(Carbonアプリケーション)のようにファイル入力ダイアログが毎度出てくるのでは,なんのためにコンピュータを使っているのかわからなくなります.Dock上のアイコンをクリックするだけでTerminalアプリケーションが走るようになったからには,そろそろリストラしましょうか.助命嘆願も届かないことですしね.

さらに,VICS_VEND_manual.pdf,PRIMA_manual.pdf,ALBA_manual.pdfも改訂しました.

■ 2005年7月23日(土) 長くベータ版に留まっていましたが,

Igor Pro v5.04がようやくリリースされました.

■ 2005年7月24日(日) クロマティ大学は如何

元巨人のクロマティが「魁!!クロマティ高校/THE★MOVIE」のタイトルに無断で名前が使われたのはけしからんと,公開の差し止めを求める仮処分を東京地裁に申請するそうです.450万部の大ベストセラーとなった漫画を映画化したんでしょう.なぜ今頃,映画だけ訴えるのか,意図不明です.

むしろ私は「あゝ! 一軒家プロレス」同様,そのタイトルが気に入りました.DVDが発売されたら,ぜひ観ることにいたしましょう.

■ 2005年7月25日(月) 消えたジゴロウ

sakusakuから増田ジゴロウ(サイコロの形をした人形)が降板したそうです.主な原因はキャラクターグッズなどのロイヤリティーをめぐるゴタゴタらしい.

きちんとした契約も交わさず,口約束で一緒に仕事を始めて,後でトラブル発生 ―― 世間に掃いて捨てるほどある話です.そういうときは,何らかの意味で「力」がある方が勝つものと相場が決まっています.今回の場合,テレビ神奈川は増田ジゴロウを切り捨て,別なキャラクター(白井ヴィンセント)に切り替えたところで大きな打撃は受けないと判断したのでしょう.かくして,ローカルなキャラクターはあっさりお払い箱になりました.増田ジゴロウの名前が全国区だったら,こうはならなかったでしょう.所詮,消耗品にすぎなかったということです.

4月3日にも書いたことの繰り返しですが,個人が組織と相対するとき,他をもって替えがたい力(知的所有権,高度な技術・技能,知名度,政治力,人脈,集金能力,etc.)なしには,いつ切り捨てられるかわかりません.世の中,マジ,食うか食われるか ―― 我が身を守り,生き残るには,常にそれを肝に銘じるべきです.

■ 2005年7月26日(火) 死に向かう存在

近頃,橋本真也の急逝とか裁判沙汰とかジゴロウのリストラとか,暗い話題が多いですね.6月末には人気AV女優の林 由美香が,7月22日には江戸文化研究家の杉浦日向子が若くして他界しました.PowerPC搭載のMacは来年には販売終了です.RIETAN-2000(Carbonアプリケーション)の廃棄は目前に迫っています.人間だってキャラクターだってソフトだって,遅かれ速かれ死ぬことに変わりありません.あの世に逝く日が近づきつつある身として,諸行無常を感じます.

といっても,まだ死にたくありません.今,この世を去ったら,最後に観た映画が「あゝ! 一軒家プロレス」だということになってしまいますから.せめて「独立少女紅蓮隊」だったら我慢できますが…

■ 2005年7月27日(水) DV-Xα法関連の新作ソフト二つ

第18回DV-Xα研究会における私の招待講演(8月4日,16:30〜17:00)終了後に,戦略的プログラム開発推進部会からcontrdの拡張版contrwdの公開と使用例紹介(水野正隆,坂根弦太),相対論版DV-Xα法プログラム(小笠原一禎),その他がアナウンスされるそうです.contrwdはVENUSのWebページで配布する予定です.

圧縮・解凍ソフトLhaplusがv1.52にバージョンアップしました.

■ 2005年7月28日(木) 選球眼

日々届く依頼をことごとく引き受けていたら,身が持ちません.軽率に承諾して,後で大変な目にあった,ということは過去に何度も経験済み.

そこで適切な選別が必要となるのですが,それが難しい.とりあえず心得ておくべきなのは,相当手間がかかりそうな依頼に対しては,すぐに返事しないことに尽きます.頭を冷やして熟考した上,返答する ―― これが処世術として有効です.要するに,高価な物を買うときと同じ心構えです.衝動買いはいけません.

ただし,講演・講義・執筆は研究者の義務のようなものとみなしており,スケジュールが許す限り引き受けるようにしています.思い返せば,「日本造船学会誌」のために執筆,「化学と工業」のマルチメディア特集号に執筆,人工鉱物討論会にて講演,繊維学会のサマースクールで講演,構造解析にまったく興味なさそうな高専の学生(私語だらけ)の前で講演という,「なんでオイラにそんな話が?」と首を傾げたくなるようなものまでありました.

DV-Xα研究会での講演も,同じようなもんじゃないの.」と突っ込まれそうですが,そんなことはありませんよ.なにしろ,VENUSによる3D可視化はDV-Xα法による電子状態研究に大いに貢献しうると確信していますし,今年度からDV-Xα研究協会の会員になったのですから.VICSとVENDはDV-Xα法のプロモーション・ビデオとしての役割を担えるはずです.

■ 2005年7月29日(金) Gymnopedie No. 1 by E. Satie

エリック・サティの曲を初めて聴きました.ジムノペディ第1番からは孤独の痛みがひしひしと伝わってきます.望みもしないのにこの世に生を受けた人間の愁い ―― とでも表現したらいいのでしょうか.虚飾もなければ,明るくも暗くもない不思議な雰囲気を味わえます.

■ 2005年7月30日(土) もういい加減にしたら

若貴騒動が収まってきたと思ったら,今度はNEWSメンバーの飲酒問題です.菊間千乃アナって,どうしてここまで袋叩きにされなければならないんでしょうか.週刊誌はもとより,国家公安委員長やテレビ放送会社の社長のようなエラい人たちまで雁首揃えて菊間バッシングに馳せ参じるとは… 「なんぢらの中、罪なき者まづ石をなげうて.」というではありませんか.二十歳過ぎてから初めて酒を飲んだ人以外は,菊間アナを批判する資格ないよなあ.

ところで,私は女子アナに関する知識が皆無に等しく,菊間千乃=チノパンと思い込んでいました(←アホ).菊間千乃は"きくまゆきの",チノバンこと千野志麻は"ちのしお"(地の塩?)と読むんですね.勉強になりました.

■ 2005年7月31日(日) 時代の流れに従います

当Webサイトを最近訪問した3000人が使っているOSを調べたところ,Mac OS Xが13 %,Mac OSが1 %でした(Windowsが79 %,その他が6 %).もうMac OS 8.X/9.Xのユーザーは切り捨てて差し支えないということでしょう.そこで,次回からMac用RIETAN-2000は圧縮ディスクイメージファイルrietan2000m.dmgとして配布するつもりです.Mac OS X標準のフォーマットなので,もはやbin-tar-gzipは不要になります.

■ 2005年8月1日(月) 究極の武器を手に

独立少女紅蓮隊」はタランティーノが随喜の涙を流しそうな作品でした.長年,本土の人間や米軍に踏みにじられてきた南端の島(明らかに沖縄)を日本から独立させるべく,ダンス・スクールを装った秘密組織が4人の少女をスパイ兼テロリストとして鍛え上げ,東京に送り込むが,国家権力の手で次々に抹殺されていくという荒唐無稽なストーリーです.惜しむらくは,低予算B級映画の宿命として,撮影日数ひいては上映時間が短すぎました.

「すべての楽器を武器に!」という逆説的煽り文句が気に入りました.なにしろ,今の私はフリーソフトウェア運動の幻想から覚醒し,「すべてのソフトを武器に!」というスローガンを日々,実践しておりますので.第三者には完全なブラックボックス,自分たちだけ改造自由, 厳格な使用許諾契約つき ―― 建設的破壊を推し進めていく上で,これほど頼もしい武器は滅多にありません.しかし最終的には,諸刃の剣として己の心をも切り刻むでしょう.

今晩は羽田空港近くのホテルに泊まり,明日朝,松山に飛びます.そう,PowerBookと大量のOHPシートを詰め込んだ,リュックを背負ってね.若かりし頃,テント持参で北アルプスの裏銀座を縦走したときのことを思えば,これくらいの荷物はなんでもありません.

■ 2005年8月2日(火) で,何を観るの?

今,一番買いたいものは,なんといっても大画面薄型テレビです.できれば40インチ超のビッグなやつが欲しい.これなら連日連夜フル稼働間違いなし.しかし,どのメーカーの製品をいつ購入すればいいのか決めかねています.液晶か,プラズマか,リアプロジェクションか,はたまたSED(未発売)か.店頭で叩き売りされているデジタル家電負け組企業の製品はどうでしょうか.

ともあれ,いつまでも迷っている訳にいきません.どなたか,背中をドンと押すようなアドバイスをお願いします.

なお,当Webサイトの維持・管理に使っている自宅のiMac(満4才)は,来年にインテルCPU搭載のMacが発売されるまで使い続けるつもりです.それまで壊れないことを祈ります.11月に満10才を迎えるシビックには,あと3年頑張ってもらいましょう.ラジオが壊れたことを除けば,快調です.

■ 2005年8月3日(水) フ〜

愛媛大学工学部機能材料工学科での集中講義は無事終了しました.明日夕方のDV-Xα研究会での講演さえ終われば,一息つけます.予想以上に受講者が多く,事前に刷っておいたテキストでは足りなくなりました.平易な授業だったせいか,最後まで出席者は減りませんでした.

■ 2005年8月4日(木) 二つの誤算

DV-Xα研究会における招待講演のために持参したPowerBookは液晶プロジェクターを認識してくれませんでした.これは前にも一度経験したことで,DVI-VGAアダプタに問題があると睨んでいます.念のために講演用PDFをCD-Rに焼いてあったので,急遽,それを香川大学石井研究室のMacにコピーさせていただき,なんとか切り抜けました(感謝).

そろそろ,RGBコネクタ付きの軽量ノートパソコンを買うべきだと悟りました.

講演をいくつか聴講していて痛感したのは,結晶構造と物性や化学的性質の関係を研究するには結晶構造パラメーターの精密化だけでなく,電子状態も計算すべきだということです.私は構造解析と電子状態計算を橋渡しするためのソフトこそ作成しましたが,自分自身がその橋を渡ることもなく力尽きようとしています.残念でなりません.

珍しく懇親会まで出席したのはよかったのですが,実行委員長から挨拶せいと命じられて周章狼狽し,DV-Xα法とまったく無関係な馬鹿っぽいことばかり口走り,赤恥をかきました.慣れないことはするもんじゃないな.

いや,肝心の講演でも,別世界の言葉がかなり散りばめられていましたね.今,覚えているだけでも,「突っ込み」,「税金」,「無味乾燥」,「人柱」,「プロモーション・ビデオ」が挙げられます.これほど羽目を外すと,顰蹙を買ったのではないでしょうか.

ようやく一連の講習会,集中講義,依頼講演が終了し,肩の荷が下りました.この間,異例なほど雑用が多かったのですが,幸い,体調を崩すことなく乗り切りました.本掲示版への書き込みも途切れませんでした.しかし,秋風が吹き始めるころにガクっとなるかもしれません.

■ 2005年8月5日(金) 秀丸エディタのメジャーチェンジ

秀丸エディタがv5.01にバージョンアップされました.ついに縦書き・段組編集が可能となりました.

■ 2005年8月6日(土) ALBAのマイナーチェンジ

PRIMA v1.3.3をリリースしました.ALBAが出力する入力ファイル中の1行を修正しました.信州大の大木 寛氏のご指摘です.

■ 2005年8月7日(日) 悲劇と喜劇は紙一重?

委細は省きますが,松戸 → 矢切の渡し → 柴又帝釈天 → 松戸というルートを3人で散策し,ゆっくりおしゃべりしました.楽しかったなあ.

「野菊の墓」で,政夫と民子が涙ながら別れた矢切の渡しの行き着く先がフーテンの寅の棲息地だったのには意表を突かれました.

■ 2005年8月8日(月) 最新兵器の薦め

あまり知られていないRIETAN-2000の機能にVICS形式のファイル*.vcsの自動更新があります.すなわち,*.insが存在するフォルダ中に*.vcsが含まれていると,リートベルト解析終了後に格子定数と分率座標を精密化値に置換してくれるのです.最新の結晶データを視覚化し,かつ結合距離と結合角を表示できるので,実に便利です.

少なくとも我が国においては,リートベルト・MEM・3D可視化プログラムの密接な連携が必要不可欠という認識が浸透しつつあります.長年の経験によれば,リートベルト法プログラムだけでは明らかに不十分です.リートベルト解析は選択配向の可能性,結合距離・結合角,結晶化学的妥当性,類縁化合物の構造との比較,MEM解析結果などをチェックしつつ何度も繰り返さなければならないので,利便性向上のためにはVENUSのようなシステムが必需品となります.VENUSのような3D可視化ソフトウェア・パッケージが実際に活用されているという点で,日本は欧米に先行しているといって過言でありません.

1960年代に考案された古典的な構造精密化法であるリートベルト法に惰性でしがみついていると,せっかく執筆した論文がリートベルト解析結果を報じる膨大な数の論文の中に空しく埋もれるのを嘆く羽目に陥るでしょう(対象物質のインパクトが強ければ,話は別).VENUSの徹底活用は諸外国に類を見ないような,新奇性の高い研究を産み出すと確信しています.

■ 2005年8月9日(火) がんばっていきまっしょい

まとまった時間が確保できそうなので,5月の連休以来,久方ぶりにプログラミングに取り組むつもりです.もちろん,夏休みはゼロ.秋には別な仕事が待ち構えているので,致し方ありません.

1週間前に愛媛大学の宿舎で観たTVドラマ(松山が舞台)をタイトルに使わせていただきました.鈴木 杏は体育会系キャラがよく似合いますね.

■ 2005年8月10日(水) RIETAN-2000とlst2cifのバージョンアップ

RIETAN-2000 Rev. 2.3.7をリリースしました.Mac OS X版では,リートベルト解析終了後に*.insと同一フォルダを共有するCrystalMaker text file(*.cmt)中の格子定数と構造パラメーターを自動的に更新するようになっていましたが,VICS形式のファイル(*.vcs)を更新するよう変更しました.Mac OS X用VICS-IIのβ版がリリースされたのを期に,CrystalMakerと縁を切ったという訳です.もはや*.cmtは更新されないことにご注意ください.さらに,Le Bail解析における出力ファイル*.ffoの1行目で,'2-th'を'2-theta'に変更しました.

最新版のRIETAN-2000で出力した*.lstはlst2cifでCIFに変換できないと横浜国立大の中津川 博氏からご指摘いただいたので,lst2cifを改訂しました.ただし,Mac OS版(Carbonアプリケーション)はRIETAN-2000,lst2cifとも,旧バージョンのままです.Terminalアプリケーションへの移行を勧告します.

7月31日に予告した通り,Mac OS用には,今後,ディスクイメージファイルrietan2000m.dmgを配布します.これはFreeDMGで作成しました.UDZO(zlib)形式で圧縮されています.Mac OS X上でrietan2000m.dmgをダブルクリックして仮想ディスクrietan2000mをマウントした後,RIETAN-2000 FolderとRIETAN-2000X Folderを適当なフォルダにdrag & dropしてください.

■ 2005年8月11日(木) 随分暑いときに生まれたもんだ

例年通り,誕生日がやってまいりました.エアコンもない時代に私を産んでくれた母親(故人)に感謝します.時の流れが異様に遅く感じられる今日この頃です.

昨日アップロードしたrietan2000m.dmgですが,Mac OS X版用シェルスクリプト・ファイルxとx.commandで拡張子vcsがcmtのままになっていました.これを改訂し,アップロードし直しました.

■ 2005年8月12日(金) 商標権侵害

鶴亀メールが秀丸メールに改名されました.他社の商標権を侵害していたのだそうです.

こういうトラブルを未然に防ぐため,自作ソフトの名称は商標登録しておく方がいいのでしょうね.Linuxだって抜け目なく商標として登録されているのです.

だけど,面倒くさくて,やってられないよなあ.ある日突然「貴殿が配布している●●●●の名称は当方の登録商標であり,(後略)」という内容証明郵便が届いたら,名称を変更すればいいんでしょう.たとえばRIETANはRIYUETAN,PRIMAはPRIMACY,ALBAはALPHAに変えるだけのこと.重要なのは,名前でなく中身です.

■ 2005年8月13日(土) No problems so far

恐る恐るdmg形式のファイルrietan2000m.dmgを配布し始めたのですが,「ドジ,間抜け,下司!」というような非難の声は聞こえてきません.次はいよいよCarbonアプリケーションの削除を断行する番だな.切り捨てる理由としては,計算の遅いことと利便性の低さ(毎回Openダイアログボックスが出てくる!)だけ挙げれば十分でしょう.

■ 2005年8月14日(日) 脱力系?

最近,肩の力が抜けてきました.過去8年間の猪突猛進ぶりが影を潜め,自主技術を地道に発展・普及させていく堅実路線を飄々と歩んでいます.これまで種をまき,育成してきた作物の収穫を楽しむ時期に入ったのです.今のところ嫌なことをやらずに済んでいるのでストレスがかかりませんし,競争相手が不在のためマイペースで仕事できます.さらに,昨年以前と比べ,経済状況が見違えるほど好転しています.

今後も,追い風を背に一歩ずつ前進していくつもりです.

■ 2005年8月15日(月) 地球温暖化防止への個人的貢献

燃料電池の最重要な用途は自動車ですが,最大の難点は固体高分子形(PEFC)燃料電池の触媒に使う白金のコストだそうです.イオン交換膜やセパレータと異なり,量産によるコストダウンがまったく期待できないからです.むしろ白金系触媒を使う燃料電池自動車が量産されるようになったら,白金の価格は高騰するでしょう.だとしたら,安価な新触媒を発見する,新方式の燃料電池を開発する,といったブレークスルーが必要不可欠となります.今のところ,量産化(= 大幅なコストダウン)の目処は立っていません.

燃料電池自動車にしろ,核融合にしろ,核燃料サイクルにしろ,宇宙開発にしろ,はたまた高温超伝導にしろ,夢物語を語るのは容易です.しかし,膨大な人・金・モノを投じたにもかかわらず,さしたる成果(ここでは,実社会に多大な恩恵をもたらすものに限定)は挙げられませんでした,という無様な結果に終わったとしたら,衝撃が大きすぎます.科学技術計画を審議する立場の方々は予算獲得あるいは組織維持のための誇大宣伝(本音 → 後は野となれ,山となれ)にすぎないのか,実現可能な技術なのかをよく見極めるべきです.「やってみなければわからない」と言われるかもしれません.確かにその通りです.しかし,それは無謀な計画を強引に推し進めるとき,しばしば発せられる言葉でもあります.

個人レベルでクルマからのCO2の排出を減らすための現実的solutionは,当面,(a) 必要以上に重い(デカい)クルマに乗らないこと,(b) できるだけクルマに乗らないこと,(c) できるだけクルマを買い換えないこと,(d) ハイブリッドカーは割高で,しかも燃費の良さから走行距離が増えがちなので敬遠すること,だと思います.どれも実践可能なことではありませんか.要するに,MOTTAINAIの精神を尊重するだけのことです.(a)〜(d)を遵守しており,日々チャリンコで通勤している私は,少なくともこの点では模範的市民です.

■ 2005年8月16日(火) SiO2の新高圧相

268 GPa,1800 K以上の圧力・温度領域で安定なパイライト(FeS2)型SiO2が発見されました:

SPring-8のBL10XUで測定した粉末X線回折データをRIETAN-2000で解析して得られた結晶データも記載されています.

■ 2005年8月17日(水) 7i軌道の3D可視化

2月28日にも書いたことですが,VENDは単位胞内の任意の領域を可視化できます.Isosurfacesダイアログボックスで,"Change boundaries"をチェックし,Inside boundariesを変更するだけです.単位胞全体を描いたときと同様な切り口が現れます.もちろん赤〜青の彩色条件は好みに応じて変えられます.この機能を使えば,等値曲面内部における物理量の分布を調べることができ,等値曲面だけの場合より多くの知見が得られます.

ただし,直方体の座標範囲を指定するので,任意の平面を切り口にすることはできません.もっともVENDには二次元マップと鳥瞰図を表示する機能もありますから,それらを併用するという手もあります.

この技を坂根弦太氏にお教えしたところ,レントゲニウムの7i軌道(n = 7, l = 6, m = 0)のGIFアニメーションを作成・公開してくれました.断面彩色,2枚の可動スライス,等値曲面レベル増減という,極彩色の派手なヤツです.

「スイカの中身は切ってみないと分からないように、原子軌道も切ってみると情報が増えます。」と指摘されていますが,同感です.教育効果満点といってよいでしょう.授業中にこれを披露したら,学生たちは眠気が覚めるに違いありません.いずれ分子軌道でも同様なアニメーションを作成されるそうです.

8月4日の第18回DV-Xα研究会で,坂根氏はこのようなanimated GIFファイルをPowerPointのページに複数張り込んで発表しておられましたが,プレゼンテーション効果抜群でした.しかし,GIFアニメーションの作成には相当な手間がかかります.不肖,私はその気力に欠けています.

■ 2005年8月18日(木) スローライフ進行中

プログラミングに没頭すると宣言した(8月9日参照)にもかかわらず,雑用,原稿執筆,査読などに追われ,着手できずにいます.体調も芳しくありません.夏休みはとっていませんが,右往左往しているうちに9月入りしそうな気配です.まあいいか,惰眠をむさぼっている訳ではないのだから.

今年は私にしては珍しく,休暇を2,3日とるつもりでいました.愛媛大学での集中講義の直後に高速フェリーで広島に渡り,そこでのんびり遊んでからつくばに帰る,という計画でした.ところがDV-Xα研究会での講演を依頼され,あえなく中止に追い込まれました.私が観光旅行することなど滅多にないのに,どうしてこうなるんでしょうか.

■ 2005年8月19日(金) しまった!

VENDで半透明の等値曲面や配位多面体を描くときは,背面を白あるいは淡い色にすべきだということに気づきました.スケスケルックの背景に暗い色は禁物.背面も透けて見えるわけですから,全体に黒ずんでしまいます.今春,リガクジャーナルのために執筆した解説中のFig. 5は背景が暗緑色だったため,失敗作に終わりました.今後は十分注意します.

■ 2005年8月20日(土) 単なる貧乏性?

第18回DV-Xα研究会の講演報告集の原稿を書き終えました.余白を一行も残さず,ぴったり6ページに収めました.カメラレディの原稿作成時にも,MOTTAINAI運動を実践しているのです.

粉末回折に関する話題は意識的に避けました.その気持ち,わかるでしょ.

「むすび」の最終段落をコピペしてみます:

VENUSは種々の物質・材料の結晶・電子構造を3次元的に理解し、科学者と技術者の創造性を拡大するための道具として広い分野の研究・開発に貢献すると確信している。今や、音楽CDにプロモーション・ビデオ(PV)を収録したDVDが付いてくる映像重視の時代となった。VENUSで自由自在に操る3Dイメージは視覚に訴求する力がきわめて強く、電子状態計算に対する興味をかき立てるPV的役割を見事に演じられるであろう。VENUSはフリーソフトウェアなので、物質構造に関する教育にも向いていることを最後に強調しておく。

「プロモーション・ビデオ」なんて和製英語を使って得意がっているところに,軽佻浮薄な性格がにじみでています.笑ってやってください.

■ 2005年8月21日(日) 何処も同じ,人材不足

Microsoft Wordは根っからタコなソフトだということを再確認し,安堵(?)しました.要するに、業務用DTPソフトでなく一般大衆向けソフトとみなしているのでしょう.

ともあれ,Wordには不要な機能とバグが多すぎます.あそこもここも,いやどこも(アカデミックな世界も)人材が枯渇してるんだなぁ.莫大な利益をあげ,人的資源に事欠かないはずのMicrosoftにしてこのレベルの低さなのだから,後は推して知るべし.

■ 2005年8月22日(月) 乗り物については新しもの好きでありません

いよいよつくばエキスプレス(TX)が明後日開業し,つくば―アキバ(韻をふんでる!)間が45分で結ばれます.といっても,つくばには大型家電ショップがすこぶる多く,電気製品などの買い物には不自由しません。近日中にメイド喫茶まで開店するらしい.アニメ,コミック,ゲーム,フィギャーにはほとんど興味ありません.CGには最大級の関心を抱いていますが,creativeかつconstructiveな科学技術ソフトの製作しか眼中になし.薄気味悪いアニオタやギャルゲーマーを眺めても,気分が悪くなるだけ.健全すぎるな,オイラは.

要するにアキバなんぞを徘徊するモチベーションはなきに等しいのです.今のところ都内に所用もないことから,TXの初乗りは大分先になるでしょう.

■ 2005年8月23日(火) The happy few

人もうらやむような幸せな暮らしができる人が何パーセントいるか知ってる? たったの6パーセントよ。

と6年3組の生徒たちに言ってのけたのは、今話題の鬼教師、阿久津真矢ですが、すでにリタイアされた或る大先生から数ヶ月前に拝聴した「高く評価される研究者はせいぜい5パーセント程度」という言葉とこのセリフが似通っているのには驚かされました。

■ 2005年8月24日(水) 大改善

NextFTP4 v4.49では、テキストファイルをアップロードする時の改行コードを設定できるようになりました。

ところで、「パッチギ!」はいつも借り出されていて、未だに観られません。いったい、いつになったら…

■ 2005年8月25日(木) ここにこんなものが

東工大の中山将伸氏第一原理計算(結果のサンプルファイル)において、二次電池の正極材料LiCoO2VASPによる第一原理計算の出力ファイルを配布しておられます。このページにはVICS-IIとVENDで視覚化した美しいイメージも6つ展示してあります。第一原理計算(解析編)にも、類似の図が3枚飾られています。

いよいよ明日、かねてからの懸案事項を片づけます。その準備をほぼ終えました。一部の人達にとってはショックでしょうが、後ろ向きの仕事には関わり合いたくありません。

■ 2005年8月26日(金) Scrap and build

Mac OS・Windows用RIETAN-2000の配布ファイルを更新しました。RIETAN-2000自体のバージョンはRev. 2.3.7のままですが、配布ファイルの内容が次のように変わりました:

  1. Mac OS・Windows版に共通の変更
  2. Mac OS版における変更
  3. Windows版における変更

以前から何度も予告してきた通り、Mac OS用Carbonアプリケーションの配布は停止しました。その理由については、5月2日の記事をご参照ください。今後、Mac OS 8.X/9.XではRIETAN-2000(の最新版)は使えなくなります。今やコマンド入力不要のTerminalアプリケーションを提供している上、Carbonアプリケーションの助命嘆願は皆無だったのですから、至極妥当な措置ではないでしょうか。後ろを振り向かずに一般ユーザーを(Mac OS Xの外見で着飾った)UNIXの世界へと先導するのが私の使命です。

これで、Absoft Pro Fortran for OS 9をインストールしたPower Mac G4(満5才)はいつでも捨てられます。未だにMac OS 8.X/9.Xにしがみついている人達も切り捨てです。

Readme_mac.txtは大急ぎで作成したので、完成度が高いとは言えません。わかりにくいところや間違いを指摘していただけると、助かります。

Windows版で*.patを*.itxに変えたのは、Mac OS X版との互換性をとるためです。Mac OS X・Windows版の如何を問わず、Igor Proを使わない人は、スクリプトファイル(Mac OS X)やバッチファイル(Windows)中の"itx"(Igor text fileのデフォールトの拡張子)を任意の拡張子に変えて差し支えありません。RIETAN-2000の実行形式ファイルではファイル名(拡張子を含む)をコマンドの引数から一方的に受け取るだけですから、そうしても問題ないはずです。

上記の変更に伴い、Multi-Purpose Pattern-Fitting System RIETAN-2000で配布している文書Notes.pdfを改訂するとともに、もはや不要となったWebページ"RIETAN-2000: Carbon Application"を撤去しました。

Scrap and build ― 時代遅れになった古いものを処分し、新しいものを築き上げること。長年放置した結果、老朽化したRIETAN-2001Tを捨て、VENUSシステムの開発に邁進したのは、scrap and build以外の何物でもありませんでした。Carbonアプリケーションの2倍以上高速なTerminalアプリケーションへと全面的に移行した今回の措置にも、この言葉がぴたりと当てはまります。

■ 2005年8月27日(土) res2insをリリース

rietan2000w.tbzを更新しました。EXPO2004が出力するSHELX形式のファイル*.res中に含まれる格子定数と構造パラメーターをRIETAN-2000用入力ファイル*.ins中に取り込むための対話形式ユーティリティ・プログラムres2insを追加するとともに、res2insについてReadme_win.txtに記述しました。

日本結晶学会講習会「粉末X線解析の実際」(7月5・6日)の受講者は配布テキスト、p. 29の図2をご覧ください。EXPO―RIETAN-2000―VENUSによる非経験的構造解析において、res2insが2つの異なる目的に使われることがわかります。

来週はいよいよ、RIETAN-2000本体に手を入れるつもりです。

■ 2005年8月28日(日) 勝ち組・負け組

8月23日の書き込みの続き(大先生とのQ & A)です:

泉: しかし、業績らしい業績を挙げていなくても、エラくなる人はいくらでもいますが…
大先生: 空しいだけです。少なくとも科学の世界では、肩書きだけ立派な人は勝ち組ではありません。

私自身は、勝ち負け、出世、金儲け(結果)よりも、自分のやりたいことができ、したくないことをしないで済んだかどうか(プロセス)を重視しています。そういう意味では、勝ち負け超越組に属するといってよいでしょう。

■ 2005年8月29日(月) 万全の体勢

「化学と工業」8月号のNEWSに、電子部品産業の国際競争力が低下し、アジア各国にシェアを奪われている理由が明確に指摘されていました。第一に市場創出後に市場の維持・拡大のために必要な投資を惜しんだこと、第二に製造装置をブラックボックス化しなかったため、競争優位性を確保する参入障壁を構築できなかったためです。抜け目ない日本企業にしては、とんだドジを踏んだものです。

いずれの失敗も他山の石とすべきです。この一二年は、第二の点にとくに気を配っています。フリーソフトウェアの幻想からようやく目覚め、自作ソフトを完全に自分でコントロールするよう軌道修正を図りました。RIETAN-2000やVENUSのソースコードを公開しなくなったのは、このためです。うかうかしていたら、自己の利益だけを追究する輩に足下をすくわれる恐れがあります。油断も隙もあったものではありません。ブラックボックス化を怠った挙げ句、先端技術がブラックホールに吸い込まれていく ―― ブラックユーモアの対象になってしまいます。

バラード・パワー・システムズが固体高分子形燃料電池をブラックボックス化し、中身を調べられないようにしているのは有名な話です。苦労して蓄積してきたノウハウの塊を無警戒にさらけ出すのは、家に鍵をかけないで外出するようなものです。

といっても、外部との関わり合いについては、柔軟性に富む対応を心がけています。ソフトの改良を助けてくださる協力者にはソースコードをオープンにしていますし、もっともな改善提案は喜んで受け入れています。他の追随を許さないソフトを自分(たち)だけで開発するのは不可能です。

それだけではありません。粉末回折データ(特性X線、放射光、定常炉・パルス中性子)を用いる構造解析ソフトウェアの作成を学びたい人には、出し惜しみせずに教える用意があります。これまで綿々と蓄積してきた技術を継承し、発展させる人材の養成は急務ですからね。我が国の放射光源や中性子源の施設には構造解析ソフトウェア開発のプロがまったくいないというのが現実ですから、それらの施設は頼りになりません。その気がある方は、ぜひ私にコンタクトしてください。訪問も大歓迎です。

■ 2005年8月30日(火) Igor Proのマイナーアップデート

Igor Pro v5.04Bへのアップデータが出ていました。

思い起こせば、私がMacを初めて買ったきっかけは、このマニアックなソフトを使うためでした。10数年前にアルゴンヌ国立研のIPNSを訪問することになり、SEPDのビームタイムを1週間(!)もプレゼントされ、高圧下での超伝導体の構造変化に関する実験を行ったとき、横軸を圧力とするグラフをプロットする必要が生じました。誤差棒を付け加えられる高機能ソフトがPC-9801にはなかったため、Mac II ciとIgorを購入しました。それ以来、グラフといえば、Igor一本槍。いくら無料といっても、gnuplotを使う気にはなりません。リートベルト解析パターンをプロットするためのファイルの拡張子'pat'を'itx'に変えたのは、それが自分に都合がよかったためです。

■ 2005年8月31日(水) 竜宮城から帰還し、しばし漁師に戻った浦島太郎(乙姫は、そして玉手箱は?)

8月20日の記事の続きです。4月に活字になったリガクジャーナルの解説では、

筆者はこれまで,無表情な数値データを吐き出す無味乾燥なプログラムしか作成した経験がなかった.味気ないことである.その反動として,エンターテインメント性に富む,華のあるソフトウェアに憧憬の念を抱き続けてきた.右脳に訴求するアプローチに飢えていたといってもよい.

と「むすび」に記しました。飽き飽きした仕事を惰性で続けざるを得なかったことのやりきれなさ、これまでほとんど働かせていなかった右能を活性化したいという欲求を感じ取っていただけたでしょうか。後者は、8月20日の書き込みにおける"PV"という表現に如実に表れています。

私が飽きると同時に疲れ果てたことを具体的に申し上げましょう。

第一は中性子回折データをリートベルト法で解析して論文に仕立て上げることです。このタイプの研究は1997年ごろから意識的に減らしました(「統合パターン・フィッティングシステムRIETAN-2000を語る」参照)。たとえ重原子と共存する軽原子がよく見えたにしろ、周期表で隣同士の原子が見分けられたにしろ、磁気モーメントが決定できたにしろ、それらは中性子回折に固有な特徴であって、自分の能力でもアイデアでもないのですから、胸を張れません。独創性など微塵もないのです。「もうやってられねー」という気持ちでした。

第二はRIETAN-2000のポリッシュアップです。これでもか、これでもかと頑張っても、いつまでもおいでおいでの連続で、切りがないのです。そろそろ打ち止めにしたいというのがVENUSの開発に着手したころの本音でした。

誰も好き好んで狭い殻に閉じこもり、惰性でルーチンワークを続ける訳ではありません。しかし、そこから飛び出すのは勇気、知恵、気力、体力が必要です。文字通りゼロの状態からVENUSを製作することで相当消耗したのは事実ですが、華やかな3Dグラフィックの世界にどっぷりつかり、リフレッシュできたのは幸せな体験でした。

とはいえ、いつまでも極彩色の仮想空間に留まっている訳にはいきません。それに、地味な粉末回折の研究(3次元ならぬ1次元の世界)がなにやら懐かしくなってきました。門馬君による次世代VICS・VENDの開発は順調に進展しています(今日もVICS-II v0.90.6がアップロードされました)。そこで、今後しばらくは、粉末回折用ソフトの開発に立ち戻り、やり残した仕事にコツコツ取り組んでいくことにしました。またぞろ倦怠感に襲われるのに決まっていますが、なんとか耐え抜くつもりです。

■ 2005年9月1日(木) 結果オーライ

Mac OS X用RIETAN-2000の配布ファイルをdmg形式に変更し、Carbonアプリケーションの配布を停止したことに対する反響は事実上ゼロです。抗議の声も苦情もまったく届いていません。今後、Terminalアプリケーションへの移行が徐々に進んでいくでしょう。

■ 2005年9月2日(金) 錬金術?力業?

今、計画中の戦略的プログラム開発はRIETAN-2000の次世代バージョンRIETAN PROへの新機能#1投入とVENUS用の新ユーティリティー(開発コード: alchemy)の製作です。後者は自分自身も痛手を負いかねない諸刃の剣なので、慎重に取り扱わねばなりません。その内容は今のところ、極秘です。

いずれも公開するつもりはありません。かつてのRIETAN-98と同様に、当分、自分(たち)だけで使い込んでいきます。つまり「すべてのソフトを武器に!」(8月1日参照)というスローガンを実践に移すのです。無償配布ソフトは真の武器になり得ません。

■ 2005年9月3日(土) マイナーアップデート

Mac OS XとWindows用のRIETAN-2000の配布ファイルをアップロードしました。*.insの雛形すべての注釈部分(2箇所)とReadme_*.txtを修正するとともに、Mac OS X用ORFFE・lst2cifのG5用最適化実行形式ファイル(それぞれorffe_g5.outとlst2cif_g5.out)を追加しました。G5用プログラムを使うには、シェルスクリプト中のファイル名を変更する必要があります。

■ 2005年9月4日(日) Good old days

この世は、無責任(無能)な教官(上司)から何らかの実験、計算、解析などを丸投げされ、四苦八苦している学生(部下)で満ち溢れています。自分がわからないことを目下の者に押しつけ、ろくにサポートもせず、うまく処理できない人は無能者として切り捨てる ―― 可哀想なのは学生(部下)です。粉末構造解析の世界も例外でありません。

RIETAN-2000とVENUSの製作者を恨んだりすると、罰が当たりますよ。何の悪気もないどころか、世のため人のために無償で配布しているのですから。

放置プレーの憂き目に会ったら、どう対処すればいいのか ―― 見て見ぬふりをしている私には、何もコメントする資格がありません。自分は事実上野放し状態の中で、結晶学もプログラミングも(結晶学ソフトの製作に必要な)応用数学も英語論文執筆法も独学で学んだと言ったところで、なんの助けにもならないどころか、嫌みにしか聞こえないでしょう。

公務員試験に合格したというだけで正規職員として採用され、ノルマもdutyもなきに等しく、あり余る時間を好きなように使え、2年や3年、論文が出なくても涼しい顔をしていられた若き日の私と最近の若手研究者を比較しても、なんの意味もありません。大学教師と違って、講義も学生実験もないのですから、楽なもんです。

あらゆる領域で促成栽培がはびこっています。任期つき研究者はみんな余裕をなくし、目先の仕事に追いまくられ、青息吐息。手っ取り早く挙げた成果をさっさと論文に仕立て上げることを半ば強制されているのが実情です。じっくり腰を据えて息の長い研究に取り組むのは至難の業といってよいでしょう。

思い返せば、RIETANの前身を手探りで作っていたころの私は、浮世離れした、別世界の住人でした。サファリパークに放し飼いされているという感じだったなぁ。RIETANはこういう背景のもとに産声を上げたのです。

■ 2005年9月5日(月) 構想、固まる

9月2日に記した二つのプログラミングですが、綿密に調査・検討した末、基本方針が定まりました。RIETAN PROの新機能#1の方は今週中にコーディングが終わる予定です。

■ 2005年9月6日(火) ★★です

パッチギ!」は期待はずれでした。「ビーパップハイスクール」もどきの無意味な暴力沙汰の明け暮れの中に在日朝鮮人の問題を安直に挿入したところで、散漫で中途半端な作品になるだけです。

甘ったるいハッピーエンドというのも首肯できません。この手の映画は、カップルのうち、少なくとも一人が死ぬ、暗澹たる結末とするのが定石です。「ウェストサイド物語」然り、「ロミオとジュリエット」然り。

■ 2005年9月7日(水) 御茶の子さいさい

RIETAN Proの新機能#1(9月2・5日参照)のコーティングは、予想外に楽だということがわかりました。*.insにおける入力データの形式について知恵を絞ったのが功を奏した形です。

昔、PC-8001/8801用の英文ワープロをBASICで自作した経験があることからもわかるように、文字列を扱うのはお手の物です。これまで身に付けた技を駆使すれば、後1日で当該機能のコーディングは終了するでしょう。

こんなに簡単だとわかっていれば、本機能をとうの昔に組み込んでいたはずです。なにしろ、ある種のリートベルト解析実行時の利便性が劇的に向上しますから。

■ 2005年9月8日(木) More power to me!

結局、この世はなんらかのpowerを備えてないとダメなんだな、とつくづく感じます。研究の世界も例外でありません。

Power不足だと人から侮られる、powerを維持するのはきつい、powerが落ちてきたら黄信号、powerがなくなったらお終い ―― 昨日に引き続きプログラミングに励んでいる最中に、そういう想念が脳裏をよぎりました。今回の仕事もmy power増強活動の一環にほかなりません。

結局、惚れ惚れするほどすっきりしたコードに仕上がりました。RIETAN Proの名にふさわしい出来映えです。後はテストするだけ。

■ 2005年9月9日(金) 大満足

RIETAN Proの新機能#1の仕様を少々拡張しました。手持ちのデータを解析し、きちんと動くことを確認。予想を上回る使い勝手の良さです。久しぶりにプログラミングの醍醐味を味わいました。

早速、RIETAN Pro v0.1bとしてテストユーザーに送付しました。

■ 2005年9月10日(土) Carbonアプリ廃棄の祟りか

Mac OS X用RIETAN-2000配布ファイルrietan2000m.dmgを更新しました。リートベルト解析終了後にVICS形式ファイル*.vcsを更新するという機能が導入されていませんでした。配布を停止したCarbonアプリケーションの当該部分を修正していたという軽率なミスです。

どさくさにまぎれて、RIETAN-2000による*.vcsの更新についてReadme_mac.txtに追記しました。

■ 2005年9月11日(日) こりゃ楽だ

RIETAN Proに導入すべき新機能#2について検討し、工業材料の研究にかなり役立ちそうなものを選びました。文献を調べたところ、赤子の手をねじるようなことにすぎなかったので、拍子抜けしてしまいました。善は急げで、その機能を追加したv0.2bを作成しました。

プログラマーとしては腕のふるいようがありませんでしたが、材料開発において基本的に重要な情報が数値データとして入手できるようになったことの意義は大きいです。とくに合成プロセスの研究に威力を発揮しそうです。

本機能を10数年前にRIETANに組み込んでいたなら、これまで相当な数の研究に貢献したことでしょう。

■ 2005年9月12日(月) 求む、翻訳ボランティア

RIETAN Proのバージョン番号は、新機能を追加するたびに0.1ずつ増やしていきます。バグを除去しただけのバージョンでは0.01を足します。現時点での最新版はv0.21です。

v0.3に盛り込む新機能はすでに決まっています。最後に64ビットコードをビルドして一丁上がりです。

詳細なマニュアルを提供する予定ですが、英語、日本語のいずれで書くか、決めかねています。私自身は別にどちらでも構いませんが、両方とも執筆する余裕は到底ありません。

10数年前に作成したRIETANの日本語マニュアルはオークリッジ国立研の経費負担でアメリカの翻訳会社が英訳し、原研の公式レポートとして出版されました。もちろん私が徹底的に英文に手を入れました。

そういうふうに、どなたかRIETAN Proのマニュアルを翻訳してくだされば幸甚に存じます。できれば、LaTeXのエキスパートに英文マニュアルを和訳していただきたいです ―― な〜んちゃって。そんな奇特かつ有能な暇人がいるわけねーよな。「かくあれかし」という願望をぶちまけただけのことです。

■ 2005年9月13日(火) フランツ・カフカ曰く

救世主はすべてが終わった後にやってくる。

はてさて、今後「救世主」とどうつき合っていったらいいのでしょうか。

上記のこと、政治、経済、社会、宗教とは無関係です。念のため。

■ 2005年9月14日(水) Stay hungry, stay foolish.

スティーブ・ジョブズが2005年6月12日にスタンフォード大学で行った卒業祝賀スピーチは、

ハングリーであれ。馬鹿であれ。

という殺し文句で幕を閉じます。

嗚呼、その二つなら、私が8年前から日々実践していることにほかなりません。私は依然としてソフトの自作にハングリーですし、いい年こいてそんなハードワークに目の色を変えているのは半端でない大馬鹿者なのですから。まあ、馬鹿まるだしは、それだけに留まりませんが…

ということで、相変わらずRIETAN Proの強化に汗を流しています。昨日から新機能#3の実装に着手しました。

■ 2005年9月15日(木) タイトルからして強烈

今、公開中の「NANA」は主題歌がオリコン初登場で1位にランクされたくらいですから、大ヒットしそうですね。ただし、私は永久に観るつもりはありません。原作の絵が嫌いです。

宮崎あおいの映画なら、むしろ「害虫」をお奨めします。最近、女の子同士の友情を謳い上げる、ありふれたパターンにはまり込んだ映画が多いですが、「害虫」の不条理性は際立っていました。主人公のサチ子(宮崎あおい)は、日頃なにくれとなく助けてくれた恩人である夏子(蒼井 優)の●に■■してしまうのですから、仰天しました。あおいが蒼井を▲▲るとは・・・ 絵空事とは言え、未だに胸が痛みます。

結末はサチ子の暗澹たる未来を暗示していたものの、全体的な雰囲気はあまり暗くないんです。なんとも不思議な作品でした。

■ 2005年9月16日(金) 肥大化の一途

RIETAN Proにおける新機能#1と#3は互いに密接に関係しています。両者を組み込む過程で、二三の手続きを追加する必要に迫られ、しっかり対処しました。その結果、ソースコードの当該部分が日増しに膨張するとともに、複雑化してきました。IF、SELECT、DO WHILE、CYCLE、EXITだらけの名人芸的コードです。スパゲッティ状態には陥っていないものの、第三者にはほとんど理解不能でしょう。ともあれ、あと一息で両機能の実装は終了します。

プログラミングは実に大変ですが、利便性の向上には目を瞠るものがあります。非対称単位内の原子数が比較的多い化合物、rigidな構造単位を含む化合物(たとえば包接化合物)、有機化合物、錯体などのリートベルト解析で威力を発揮します。

これだけの手間を掛けたからには、いずれどこかの研究集会で発表し、その有用性をアピールするべきです。今年度中にぜひそうしましょう。

■ 2005年9月17日(土) v0.34bまでアップしました

Absoft Pro Fortran for Mac OS Xのバグに苦しんだのは予想外でしたが、RIETAN Pro v0.34bにおいて、ようやく新機能#1、#3が動きだしました。RIETANの周辺ソフトを拡張した後、もう少し改良するつもりです。

上記のコンパイラですが、2重ループを含むWRITE文のところでコケてしまいました。仕方なしに、対症療法で切り抜けました。

安直な研究スタイルがはびこっている今、自分たちにしかできないことを手間暇かけて成し遂げていくのは、気分爽快です。事実上、国内にライバルなし。過当競争とは無縁の世界です。

RIETAN Proの開発からは少々逸脱しますが、関連ソフト同士の連携に関する絶妙なアイデアが浮かびました。今後、その実現も目指します。

■ 2005年9月18日(日) 無用の長物

StuffIt Deluxe 10.0が発売になりました。はっきり言って、お金があり余っているMacファン以外は必要なし。解凍にはStuffIt Expanderを、圧縮には無料ソフトを使えば十分です。"MOTTAINAI"の精神を貫きましょう。

私自身はFreeDMGでフォルダ・ファイルを*.dmg形式として圧縮しています。 Preferencesにおいて、圧縮形式をUDZO(zlib使用)、圧縮レベルを9に設定しています。Mac OS X上では解凍ソフトが不要なので、実に便利です。

■ 2005年9月19日(月) Move on to the next stage

休日出勤して新機能#1、#3の総仕上げを行い、RIETAN Pro v0.35bを得ました。

RIETAN-2000を作成していたころは、1年360日、働きづめでした。我ながら、鬼気迫るものがありました。最近は、休日出勤はほとんどしていません。というより、無理の効かない体に成り果てた、という方が当たっています。あちこちにガタが来ています。次世代RIETANの開発では、マイペースで着実に前進していくしかありません。

研究集会での発表(9月16日参照)ですが、関連ソフト間の連携強化(9月17日参照)にはこれから着手するので、日本結晶学会年会(12月6・7日)に間に合わせるのはきついです。そこで、セラミックス基礎科学討論会(2006年1月19・20日、高知)に講演を申し込みました。

新機能#1・#3、「関連ソフト間の連携」についてはまだ伏せておきます。RIETANとその関連ソフトへの実装は、いずれ我が国では、あって当たり前、なければ論外の機能となることを意味しています。前者は利便性が、後者はデモンストレーション効果が際だっている上、強い習慣性があります。

幾度となく吐露したことですが、無味乾燥な数字ばかり吐き出すソフトには飽き飽きしました。後者はその類のソフトに新たな息吹を吹き込むための仕掛けにほかなりません。

■ 2005年9月20日(火) アキバ戦争

石田衣良の「アキハバラ@DEEP」は、それぞれ異なる欠陥をかかえたオタクたち(重度吃音者、不潔・女性恐怖症の男、フリーズ症患者、滅法腕っ節の強いメイド喫茶ウェートレス、中卒天才プログラマー、元ひきこもり)がネット社会を一変させるようなテクノロジーを産み出す物語です。

「ありえねー」とつぶやきたくなる展開は別として、こりゃまずいな、と感じたのは、「マトリックス」の戦闘シーンみたいな最終章です。違和感ありすぎ。オタクにハードアクションは似合いません。

この本は、あちこちに名言が散りばめられています。その中から二つほど紹介しておきます:

誰かを助けることは、そのまま自分を助けることなんだ。

座り込んで自分ではなにもつくらないやつは、最後には世界を憎むようになる

■ 2005年9月21日(水) RIETAN-2000とORFFEのマイナーチェンジ

Mac OS X・Windows用RIETAN-2000配布ファイルを更新しました。RIETAN-2000 Rev. 2.3.8では、標準出力中のスペルミスを一箇所修正しただけです(diatance → distance)。ORFFEでは、各サイトの原子間距離の区切り線を4桁増やすとともに、各結合角に対するサイト名と分率座標を出力するよう改善しました。また、ソースコード非公開の原則に従い、Windows用配布ファイルrietan2000w.tbzからORFFE、lst2cif、res2insフォルダを削除しました。

ORFFEによる結合角の計算について、一つだけコメントします。結合角φ(A―B―C)は命令2で求めますが、A、B、C原子のサイト番号と同価位置コードを入力するのは、かなり面倒です。命令201で計算した結合距離から自動的に命令2を含む*.xyzを作成する方法(LaTeXにおける文献の参照番号づけに似ています)が「粉末X線解析の実際」のp. 133に書かれているので、これを利用することをお奨めします。

■ 2005年9月22日(木) もう一息

RIETAN Proの新機能#1と#3はまだ不完全だということが判明し、v0.37bにアップグレードしました。ますます複雑怪奇なコードになってきました。●●●●●●の自動化は予想以上に大変です。

■ 2005年9月23日(金) うひゃ〜

某結晶学的計算ソフトのソースコードを調べていて、調査対象部分(なぜか、ここだけ小文字)に4つのバグを発見! マニュアルの該当部分も2箇所間違っています。どうしたことか。これほどの惨状を目の当たりにすると、作者に報告するのを躊躇してしまいます。しかし、見て見ぬふりをする訳にはいかんしなぁ。

RIETAN Pro v0.37bの標準出力に不適切な箇所があることに気づき、v0.38bにバージョンアップしました。さらに、新機能#4を決定しました。これは新機能#2と同様、RIETAN-2000で実現しておくべきだったというのが本音です。うかつでした。

■ 2005年9月24日(土) 休日は書き入れ時

昨日は午前中だけ休日出勤し、標準出力にデータを三つ追加したRIETAN Pro v0.39bを作成しました。新機能と言うほどのものではありませんが、プロ仕様を謳うからには、出力もできるだけ充実させるべきです。

丸一日働くつもりだったのですが、蒸し暑く、工事の音がうるさいのに耐えかねて、早々と退散しました。

■ 2005年9月25日(日) お祭り騒ぎは敬遠

愛・地球博が閉幕します。まったく興味が湧かないまま、あ〜、アホくさと、そっぽを向きつづけました。なぜあんなものに2200万もの人々が押し寄せたのか、理解に苦しみます。いったい、どこに「愛」があるというのでしょう。そもそも博覧会自体が環境破壊に一役買ったのでは?

まあ、こういうへそ曲がりもいないと、ますます行列が長くなってしまうから、いいことじゃないですか。

そういえば、出銭ランドにも行ったことないな。どうも群衆の一人として人ごみに揉まれるのが大嫌いなようです。それに、あの俗悪なシンデレラ城 ―― おぞましい限りです。

昨日の午前中も休日出勤したのですが、収穫ゼロに終わりました。残念。しかし、今月中には是が非でも、新機能#4を実現したRIETAN Pro v0.4Xbを完成させたいです。来月は雑用が激増する上、別な仕事を片づけなければなりません。

最近の自分は近年まれなほど、力強さにあふれています。上昇気流に乗ったような気分です。新たなものを産み出しつつあるからでしょう。

■ 2005年9月26日(月) 期待はずれ

奥泉 光の「モーダルな事象 桑潟幸一のスタイリッシュな生活」をようやく読了しました。これほど長い小説(546ページ)を読むのは久方ぶりです。

三流私立女子短大で近代日本文学を講じる桑潟幸一助教授のしょぼくれ話は面白かったものの、肝心のミステリー部分がこけおどしにすぎません。それに、殺人の動機が必然性を欠いています。薄汚いアトランチィスのコインが云々なんて、馬鹿馬鹿しいだけ。元夫婦探偵による謎解きという趣向も、とりたててどうということなし。

小島での忌まわしい事件のからんだ伝奇・探偵小説というと、どうしても乱歩の「孤島の鬼」を思い浮かべてしまいます。しかし華麗な文体で綴られた「モーダルな事象」は、不気味でたどたどしい秀ちゃんの手記が一種異様な効果を上げている「孤島の鬼」にまったく太刀打ちできません。饒舌にして冗長、装飾過剰、中身は空虚というのが私の読後感です。

■ 2005年9月27日(火) えいやっと

RIETAN Proの新機能#4の導入に伴い、今やほとんど使われていないと思われる関連機能をリストラし、入力を簡略化することにしました。新機能#4のパフォーマンスの高さを確信していますし、ここまで踏み込まないとユーザーを混乱させかねないからです。

今、近所のCINEPLEXで「メゾン・ド・ヒミコ」と「タッチ」を上映中です。いずれも犬童一心監督の作品です。以前、本掲示版に書き込んだように、彼が脚本を書いた「大阪物語」、監督した「金髪の草原」と「ジョゼと虎と魚たち」はいずれも秀作でした。ところが、今回は映画館にまで足を運ぶ気はありません。なぜかというに、お気に入りの池脇千鶴が出ていないからです。

■ 2005年9月28日(水) あと一息

昨日は丸一日、RIETAN Proの新機能#4のプログラミングに没頭しました。これから改訂部分をみっちりチェックするとともに、偏導関数の部分を書き上げます。

■ 2005年9月29日(木) 64ビット化の効果

6月29日に記したように、RIETAN-2000(RIETAN Pro)の64ビットコードをAbsoft Pro Fortran for Mac OS X v9.2でビルドすると、特定の箇所で異常終了してしまいます。

今日、その不具合を回避する対症療法(confidential!)をようやく突き止めました。どうやら新機能#4も動くようになったので、バージョン番号を0.2増やし、RIETAN Pro v0.50bとしました。実行形式ファイルの64ビット化を新機能#5とみなした訳です。

最高の最適化レベルでビルドした実行形式ファイル(Mac OS X 10.4・G5マシン専用)を用いてベンチマークテストを行ったところ、64ビット版が6 min 1 s、32ビット版が7 minちょうどでした。64ビット化により約15 %高速化したことになります。微妙な数字です。

新機能#6が決まりました。明日一日で片が付くでしょう。

■ 2005年9月30日(金) なぜベストを尽くさないのか

次世代DVD規格統一の交渉が決裂しました。私見によれば、HD DVD陣営は戦略的に大きな間違いを犯しています。技術的ハードルを目一杯高くして、技術力の低い(国の)メーカーの参入を最小限に留め、独占的な地位を築く ―― それが日本産業が国際競争に勝ち、生き残る道ではありませんか。HD DVDのような中途半端な技術ではすぐ追いつかれてしまいます。

いや、ひょっとしたらHD DVD陣営の会社は、BDを十分低いコストで安定に生産する技術を持ち合わせていないのかもしれません。そうだとしたら、情けないの一言です。

■ 2005年10月1日(土) 一月でよくぞここまで

昨日は丸一日、脇目もふらずに頑張り、新機能#6を追加したRIETAN Pro v0.60bを完成させました。

9月は予想以上にバージョンアップ作業がはかどりました。まとまった時間を確保できたためです。だめ押し的新機能#7(CUIの強化)と#8(RIETANの頑健性を増すための補強)はすでに決めましたが、来月は単行本原稿の執筆や雑用に忙殺されるので、v0.6Xbのバグとりくらいしかできそうにありません。しかし、開発がこれだけ順調に進展したからには、おっとり構えていればいいでしょう。

■ 2005年10月2日(日) v0.60b → v0.61b

昨日は午前中だけ出勤して、RIETAN Pro 0.50b以降で発生するようになったVICS-II形式ファイル*.vcsの自動更新に関する障害と0.60bのバグを取り除きました。新機能#6は今後さらに強化する予定です。

粉末X線解析の実際」(朝倉書店)の第6刷が発行されました。初刊発行から3年経ちましたが,未だに売れ行きが衰えていません。

■ 2005年10月3日(月) 過重労働をもたらす高度資本主義

森岡孝二著「働きすぎの時代」(岩波新書)は、現代の労働者が置かれている厳しい状況を詳細に報告しています。情報通信革命は企業活動の地球規模化を進行させ、仕事を増やし、実質的労働時間を長くし、正規雇用の多くを非正規雇用に置き換え、ストレスを増大させ、健康障害を引き起こすという指摘は正鵠を得ています。

以前、大卒男子3割、女子5割が入社3年以内に離職するとTVで報じていました。働きすぎがこのような離職率の高さの一因になっているのは間違いないでしょう。脳・心臓疾患の発症や過労死を防止するための自己防衛という側面です。

私もかつては、押しも押されもせぬ働きすぎ人間でした。しかし私の場合、自分のやりたいことをやりたいときにやりたいようにやっていましたし、仕事はすこぶる順調にはかどっていましたから、疲れはしたものの、ストレスはほとんど感じませんでした。Creativeでない苦役を長時間強制されたら ―― と思うと、ぞっとします。

研究活動のために残された数年をどうやって過ごせばいいかを、この本で再確認しました。それは、専門知識をもつテクノロジストとして、情報通信革命を推進する側に留まり続けるということです。情報通信革命は一種の産業革命なのです。既成ソフトウェア資産とこれまで培ってきた知識・ノウハウを徹底活用し、技術力の向上を絶えず心がけ、先端技術のブラックボックス化を推進していけば、働き過ぎなどに陥らずに済みます。革命の犠牲者にはなるのは真っ平です。

サバイバル戦略の中核的存在はもちろんRIETAN Proの開発です。今年から来年にかけて全力を挙げて取り組んでいきます。

■ 2005年10月4日(火) 着々と前進中

RIETAN Pro v0.61bを0.62bにバージョンアップしました。

VICS-II v0.90.7がリリースされました。GUI frameworkをwxWidgets 2.6.2にアップグレードしました。

秘密兵器alchemy(9月2日参照)開発の準備に着手しました。

詳細は省きますが、経済状況の好転に伴い、研究に必要なマンパワーと機材を拡充しつつあります。その効果がこれからじわじわ出てくるでしょう。

■ 2005年10月5日(水) 最終解に違いはありませんが・・・

RIETAN-2000 Rev. 2.3.9をリリースしました。

原点に対称心のない空間群に属する化合物の粉末X線回折データを解析する場合、March-Dollase関数の選択配向パラメーターrについての偏微分係数が真値の半分になるというバグを修正しました。この不具合は格子・構造パラメーターの精密化値には実質的に影響しないはずです。しかし、正規方程式を立てる非線形最小二乗解法の収束を減速するとともに、rの標準偏差を狂わせるため、旧バージョンから本バージョンへと速やかに移行するよう強くお勧めします。

Mac OS X版において、*.insと*.intの改行コードがLFになっていない場合、エラーメッセージを出力して停止するようにしました。この改良点を取り入れたRIETAN Pro v0.63bも作成しました。

不等間隔のステップ幅で測定した粉末回折データファイル*.intにおける最初の行を"GENERAL$"でなく"GENERAL"とすると、"Too large NREGION"という意味不明のエラーメッセージが出力されますが、これを"Too large NREGION. Is the first line in *.int 'GENERAL$'?"に変更しました。

9月29日に記した対症療法をRIETAN-2000のソースコードに施し、Mac OS X 10.4.X専用64ビット版をビルドしてみました。もちろん正常に実行できました。ただし、この64ビット版を配布する気は毛頭ありません。

■ 2005年10月6日(木) Web上でのRIETANの活用

こういうツールが公開されていました。ご苦労様です。

なお、RIETAN-2000は指数hklと2θより最小二乗法を用いて格子定数a,b,cを求めるのにも使われています(出力結果を利用)。

VICS-IIが早くもv0.90.8に更新されました。私はMac OS X版しか使っていませんが、wxWidgetsの不具合に起因する些細な問題を除けば、安定に動いています。VICS-IIによる*.insの入出力とRIETAN-2000による*.vcs中の構造パラメーターの更新が可能なことから、RIETAN-2000を活用する際の必携ツールとなっています。今や,高度な3Dグラフィックソフトとの密接な連携はリートベルト解析プログラムに必要不可欠な機能といって過言でありません.RIETAN-2000の強みはここにあります。

新機能#6のバグを一つ取り去ったRIETAN Pro v0.64bを作成しました。テストユーザーがチェック中です。

RIETAN Proは現時点でもかなり強化されていますが、これに新機能#7と#8が付け加わったら、さぞかし壮観なことでしょう。いずれも長年の悲願でしたから、実現の暁には祝杯を挙げたいくらいです。

単行本の原稿、ようやく書き始めました。プログラミングが中断されるため、超渋々モードです。遅々として進まないのは言うまでもありません。

■ 2005年10月7日(金) シンチレーション・カウンターの時代は去りました

高速一次元位置敏感検出器高速半導体アレイ検出器が特性X線を用いる粉末X線回折装置の世界を一変させつつあります。なにしろ計測効率が二桁上がるのですから、革命的な変化といって過言でありません。X線吸収が比較的少ない試料でしたら,デバイ―シェラー光学系での精密測定も十分可能です。

分解能はなんとイメージング・プレート(IP)を使った放射光粉末X線回折装置と同程度です.入射側にヨハンソン型の結晶モノクロメーターを装着すれば万全です。吸収端近傍の波長を利用したり、重原子を含む試料の強度データをデバイ―シェラー光学系で測定する必要がある場合を除くと、放射光施設の装置を使うに及ばなくなったといって過言でありません。

自分の研究室で粉末X線回折データが短時間でステップスキャン測定できるようになったのですから、RIETAN-2000、ひいてはRIETAN Proの利用価値が一段と上がるのは確実です。もちろん、これらの最新回折計で測定した強度データを対象とする先端構造解析手法のブラッシュアップもRIETAN Pro開発の主目的の一つです。

■ 2005年10月8日(土) これも機能の内?

RIETAN Pro本体でなく、そのマニュアル(LaTeX文書)に関連して、良いアイデアが浮かびました。さっそく某アプリケーションでテストしてみました。試行錯誤を繰り返した末、目論み通り成功。うん、新機軸を出せそうだな。後でもう少し詳しく調べてみよう。

ヒント: 紙に印刷したマニュアルでは絶対に不可能なことです。

VICS-II v0.90.9がリリースされました。

■ 2005年10月9日(日) 人は人、自分は自分

ご存じの通り、5月初めごろ、RIETAN-2000にmicroabsorptionの補正機能を追加しました。次世代版(仮称RIETAN Pro)に組み込む予定だった機能を前倒しで実現したのです。RIETAN Proの新機能#0と言ってよいでしょう。事実、新機能#2はその機能と密接に関係しています。産業界における定量X線分析に対する需要の高まりに配慮したのですが、レスポンスがほとんどなく、少々落胆しています。

よくよく考えれば、産業界からのフィードバックを期待するなんて甘すぎます。有用な情報など、まず提供してくれないでしょう。企業秘密として秘匿されるだけのことです。

私のWebサイトへのアクセス数はすこぶる多いにもかかわらず、配布ソフトの強化に対するコメントやアドバイスがほとんど届かない ―― これ以上、突っ走り続けても実質的に意味がないような気さえしてきます。

どんな機能を追加しても反響が僅少なのは毎度のことで、そのたびに、自分一人が先走っているな、と痛感しています。Mac OS版のTerminalアプリケーションへの全面的切り換えも、その典型例です。無反応そのもの。付いて来られるのか否かすらわかりません。孤立感はいや増すばかり。独りよがりなのかなあ。

サイエンスの領域で、老人の方が若者より先進的で新しもの好きという逆転現象が生じているのは、情けない限りです。若者は老人の古くささを馬鹿にするくらいでないと・・・ 時代遅れの烙印を押され,「年寄りは引っ込んでろ」と罵られる方が、まだ気が楽です.

本来はVICSとVENDと同様に、若い世代にRIETANを遺産として生前贈与すべき時期なのですが、適当な人材が見当たらないのも困ったことです。

独り言: 「人はあてにならない」と達観し、「我が道を行く」という姿勢を貫けばいいじゃん。これまで通り、勝手気ままにやっていくしかねーよな。己の流儀をトレンドにしてしまえばいいだけじゃねーの。

■ 2005年10月10日(月) リスメール

休日出勤して、単行本の原稿執筆に精を出しました。なんとも味気ない仕事です。

勤務先ではMac OS X標準のメーラーMail、自宅ではWebメールシステムIMP日本語を使ってきました。IMPでは、Safari上でメールを送受信していました。先週から、WebメーラーがSquirrelMail v1.4.5に切り替わりました。見かけは無骨ですが、IMPよりはるかに使いやすく、動作も俊敏です。これまで抱いていた不満がほぼ解消しました。

またメールサーバーが出会い系業者からのメールを遮断してくれるようになりました。これは実にありがたいです。大量のいかがわしいメールが連日連夜送りつけられていましたから。

■ 2005年10月11日(火) 若さ = エネルギー

窓際の机の引き出しの奥に甲種危険物取扱主任者の免状(東京都知事発行)がしまってあります。それには、20代前半の私の写真が貼られています。Webで調べたところ、記載事項に変更があったときはもとより、10年ごとに写真を貼り替えなければならないのだそうです。つまり、この免状はとうの昔に無効になっています。

記憶力がよかったですね、この頃は。ちょこちょこっと二三日勉強しただけでしたが、一発で合格しましたから。

体力もありました。夜行列車にゆられて、ほとんど一睡もせずに山麓に到着し、そのまま山頂までまっしぐら、くらいのことは平気の平左。あのエネルギーが失われて久しいです。

いや、もう若いとは言えない年(40手前)だった頃、徹夜で論文を一報書き上げたこともありました。確か、その時は三日間くらいろくに寝なかったんじゃないかな.今だったら、あの世に逝きかねません。

以前にも書きましたが、文章(日本語・英語)を書くスピードだけは衰える気配がありません。若い頃に比べて段違いに速いだけでなく、語彙もずっと豊富になっています。この特技が錆びついてきたら、終わりが近いのでしょう。

■ 2005年10月12日(水) 勘違い

昨日、速筆について触れたばかりですが、単行本の原稿がすでに規定枚数を何割もオーバーしていたことに気づきました。やむを得ず手当たり次第カットしましたが、身を切られるほどつらかったです。

ともあれ、後は図だけ。余裕綽々です。

■ 2005年10月13日(木) Shirane's formalism of collinear magnetic scattering

磁気構造の解析って、何年ぶりかな。比較的簡単に解けるタイプの物質だったので、助かりました。ラッキーです。

なお、RIETAN-2000でcollinearな磁気構造を解析したい方は、

をぜひお読みください。白根 元先生の論文に記載された磁気構造因子に関する過不足のない知識が得られます。

RIETAN-2000に組み込まれている三斜晶系の式は電通大の山田修義氏が導出されました。白根先生が電通大を訪問されたとき、「こういう式でよろしいでしょうか」と尋ねたところ、「まあ大丈夫でしょう」というお答えだったそうです。

私自身は白根先生にお会いしたことはありません。アルゴンヌ国立研で中性子回折実験を行った後、ブルックヘブン国立研を訪問したときは、あいにくお留守でした。

■ 2005年10月14日(金) 3D >> 2D

単行本の原稿中に、フーリエ合成により観測構造因子から電子密度を計算するという記述があります。フーリエマップを示すのも芸がないので、等電子密度曲面の図を入れることにしました。

4軸回折装置で測定したNaNO2(斜方晶系、空間群Imm2)の単結晶X線回折データから電子密度を計算し、それをVENDで3D可視化しました。NO2-イオン内の共有結合性が高い結合が一目でわかります。単位胞の断面も色つきで表示されており、二次元の等高線図に比べはるかに見栄えのするイメージが得られたので、これを採用することにしました。

■ 2005年10月15日(土) 割り込み

単行本(丸善から刊行される由)の原稿執筆がほぼ片付いたので、RIETAN Proのプログラミングを再開するつもりでいたところ、CPD Newsletterの原稿(4月10日参照)、さっさと書けや、という催促メールがはるかカナダから届きました。不覚にも、ケロっと忘れていました。最優先で処理せざるを得ません。

このニュースレターに寄稿するよう依頼されたのは3回目です。最初はRIETAN-98(RIETAN-2000の前身)、次はMPFの技法とその放射光粉末回折データへの応用がテーマでした。今回はどうしましょうか・・・

■ 2005年10月16日(日) ABINIT―VENUSの連携強化

ABINITのバイナリーファイルを種々の形式のテキストファイルに変換するユーティリティーCut3Dの最新版v4.6(Linux用)に波動関数のバイナリーファイルを直接XSF形式にする機能が追加されたそうです。VENUS・ABINITのユーザーが知らせてくれました。

v4.6では、波動関数のバイナリーファイルを読み込んだ後、

13 => XCrysden/VENUS wavefunction real data

というタイプを選択すれば、波動関数を収めた*.xsfが出力されます。メニューに"VENUS"と明記されており、VENUSがABINIT用の3D可視化ソフトとして認知されたことが窺えます。

以前は、XSF形式の波動関数のテキストファイルを作成するには、VICS_VEND_manual.pdfのAppendix A(ID = 8)に記載した面倒な操作が必要でした。今回のCut3Dの改訂に対応し、新変換法をVICS_VEND_manual.pdfに追記し、VENUS.tbzを更新しました。

なお、戦略的基盤ソフトウェアの開発プロジェクトが配布している第一原理擬ポテンシャルバンド計算ソフトPHASEが出力するCube形式の電荷密度ファイルはVICS/VENDで3D可視化できるということも、同じ方からご指摘いただきました。確かに標準的なCube形式ファイルであり、そのままVICS/VENDで読み込めるはずです。

■ 2005年10月17日(月) Mac OS X用電卓ソフト

PCalc 3がリリースされました。実に3年9ヶ月ぶりのバージョンアップです。

■ 2005年10月18日(火) キラー・トラック!

VENUSには二つのMEM解析プログラムALBAとPRIMAが含まれています。前者はパターソン関数、後者は電子・原子核密度の3D分布を決定します。

驚いたことに、"Alba Prima"というジャズピアノ曲があるんです。Mads Vinding Trioの"The Kingdom"というアルバムに冒頭曲として収録されています。ぜひ聴いてみたいです。

■ 2005年10月19日(水) The world's fastest and the most versatile graphics softwareと豪語

Xara Xという超弩級オープンソース・グラフィックス・ソフトウェアが開発されつつあります。VICS-II同様、wxWidgetsでGUIを構築しており、Windows、Linux、Mac OS X上で動きます。

■ 2005年10月20日(木) RIETAN-2000とVENUSを使う上での留意点

RIETAN-2000 Rev. 2.2以降を使うと、多相試料のリートベルト解析が途中で止まってしまうのはなぜか、という問い合わせが何回かありました。5月3日の掲示板に明記したように、Cu3Fe4P6E.insが多相解析用の雛形入力ファイルです.これを出発点にして*.insを作成すれば、大丈夫です。単相用の雛形ファイルはmicroabsorption関係の入力データを含んでいないことに注意してください(5月17日参照)。

RIETAN-2000とVICSに共通する心構えですが、実行形式プログラム、雛形、入力ファイル例、シェルスクリプト(Mac OS X)、バッチファイル(Windows)はすべて最新の配布ファイルを使用するべきです。2004年の1月5日・1月15日・5月24日にも書き込んだことですが、新旧のファイルを混在させると、予想外のトラブルが起きる可能性があります。原則として、バージョンアップの際、旧バージョンとの互換性は考慮しないためです。

なお、信州大の大木 寛氏に依頼し、Linux用のRIETAN-2000 Rev. 2.3.9をアップロードしていただきました。これでLinux用RIETAN-2000・VENUSの最新版が勢揃いしたことになります。

■ 2005年10月21日(金) 総合科学技術会議による評価

総合科学技術会議による科学技術関係活動の把握・所見とりまとめ結果が公表されました:

最も興味深いのは、種々の指標のランキングでしょう。

2004年8月2日の掲示板に国立大学所有特許からの収入が驚くほど少なく、そのほとんどが赤崎 勇名大名誉教授の青色発光ダイオード関係の特許による収入だと書き込みました。国立大学法人のとりまとめ結果の13ページ目の「実施料収入」を眺めると、事情があまり変わっていないことがわかります。これとても日亜化学工業の得た莫大な利益と比べたら、桁が違うのでしょう。

私が殊更に特許の実施料に言及する理由がわかりますか。特許とはまったく無縁なように見えるでしょう。ところが違うんだな。それどころか、私が今の…(個人情報保護のため、省略)

上記の評価結果について、さらに感想を述べるのも控えておきます。

■ 2005年10月22日(土) PRIMAのバージョンアップ

PRIMA v3.5.4を含むVENUS.tbzをアップロードしました。G-constraintに関する深刻なバグを除去しました。XSETUPというサブルーチンの実引数名を二つ間違えていたため、両者が未定義のまま走っていたことになります。何が起こるか、わかったものではありません。この不具合を報告していただいたストックホルム大学の室山知宏氏に感謝します。

過去にG-constraintを課すMEM解析を実行したことがあるならば、再解析するようお願いします。

ついでにPRIMA_manual.pdf、VICS_VEND_manual.pdf、VICS_VEND_readme.pdfも少しずつ更新しておきました。

■ 2005年10月23日(日) 宝の持ち腐れ

Windows用画像編集ソフトウェアPaint Shop Pro Xがリリースされました。販売会社はピーアンドエーからコーレルに変わりました。嫌窓派の私は、この多機能ソフトを画面キャプチャとVICS_VEND_readme.pdf中の記述のチェックにしか使っていません。

■ 2005年10月24日(月) Forty Years in Japan

原稿二つの目処がほぼついたので、RIETAN Pro(仮称)のプログラミングを再開しました。ソースコードの手直しにいそしんでいるうち、なぜか侘びしさと空しさがこみ上げてきて、しばし手を休めました。

風景や歴史や世界のほうがぼくらよりずっと忘れっぽいということ。
百年後のこの場所には君もぼくももういない。ぼくたちは世界に忘れ去られているんだ

岡崎京子「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」より

という囁きが聞こえたような気がしました。百年後はおろか、四半世紀後には私はもとより、私のソフトもすっかり忘れ去られているでしょう。後継者などいませんから、少しでも長く生き長らえさせるべく、独力でRIETAN Proへのアップグレードに奮闘しているのですが、どうなることやら。あと10数年、命脈を保てれば上出来じゃないのかな。

そうは言っても、とにかく過去20数年、我が国で発表されたリートベルト解析結果の大半(たぶん9割以上)がRIETANで得られたのは事実です。20数年 + 10数年 ≒ 40年。目まぐるしく進歩している科学の世界で、これだけ長い年月にわたって通用したなら、驚異的な快挙です。十二分ではないでしょうか。来年には、RIETAN-2000による解析結果を報告する論文が400報を超すのは確実です。そう思いを巡らしているうちに、寂寥感も焦燥感も雲散霧消していました。

■ 2005年10月25日(火) 窮余の二策

Mac OS Xを使っていると、まれにログアウト、再起動、システム終了ができなくなることがあります。そういうときは、起動中のアプリケーションをすべて終了させ、ターミナルを立ち上げ、

sync && sync && sync && sudo shutdown -r now

と打ち込んだ後、パスワードを入力すれば、再起動します(sudoより前の部分は不要の可能性大)。'-r'を'-h'とすれば、システムが終了します。Mac OS Xの土台がUNIXにほかならないことが実感できます。

自宅のiMac(4.5才)のメモリーはたった256 MBしかありません。あまりにも遅いので、常駐ユーティリティ(Default Folder、FruitMenu、StuffIt Deluxe)をすべてアンインストールしたところ、体感速度が見違えるほど上がりました。とくにU.S.(Roman)とATOKの切り替えが迅速になりました。もっと早くそうするべきでした。

■ 2005年10月26日(水) Center Of Economy?

昨日は丸一日、書類書きでした。つらかったなぁ。

ILL(グルノーブル)のDiffraction GroupのリーダーにJ. Rodriguez-Carvajal(FullProfの作者)が選ばれたそうです。スペイン出身者です。

当該グループのリーダーはA. W. Hewatだったはずですが、リタイアするのでしょうか。彼はオーストラリア人です。Hewatの家に2回ほど招かれたことがありますが、広い庭にユーカリの木が植えられていました。彼とは、過去に何度か共同研究を実施しました。Ga系高温超伝導体と梯子型超伝導体の構造解析がその代表例です。

そういえば、ISISでGEMのInstrument Scientistとして活躍中のRadaelliはイタリア人でした。彼はアルゴンヌ国立研とILLでポスドクとして修行後,ISISでパーマネントの地位に就きました.

世界中から優秀な人材が結集する大学・研究所はうらやましい限りです。日本ではこうはいきません。日本に定住しようとする欧米人はまれです。その癖、COEなどと自称してはばからないのですから、噴飯物です。

■ 2005年10月27日(木) Why's that?

2000〜2002年にかけて私が指導したAlexeiは、full paper6報とproceedingsの論文2報を残して京大に移りました(2002年8月8日参照)。現在は、再びNIMSでICYSリサーチフェローとして活躍しています。このたび、Chem. Mater.に投稿していた論文が活字になりましたが、他にも一報投稿中で、それ以外にも後が控えているようです(私との共同研究に限った話)。これほど論文を書きまくる、勤勉な若手研究者は見たことがありません。

Alexeiに限らず、私はこれまで異例なほど、逸材に恵まれてきました。人にもよく、そう言われます。それぞれ得意技の異なる優秀な研究者を、どうして惹きつけることができたのか ―― 自分にとっても謎です。

■ 2005年10月28日(金) How kind I was!

ポスドク(外国人)と四方山話をしていたら、博士課程の学生だったとき、構造解析に関する質問メールを何回か私に送ったことがあると言われました。メールでの質問には返答しないことが多いので、一瞬、ドキっとしました。しかし、ちゃんと返事が届いたそうです。まったく記憶にありません。

まあ、メールを受け取りっぱなしの人の所に、ポスドクには来ないでしょう。先見の明がありましたね、少なくとも本件については。

■ 2005年10月29日(土) 不意打ち

ずしりと重い宅急便が届いた結果、週末も文化の日も仕事する羽目に陥りました。

■ 2005年10月30日(日) Moneymaking ―― it's not my business

一太郎のヘルプ機能を巡る特許権侵害訴訟は松下電器の敗訴で決着しました。ほとんど独創性のない低レベル特許を有効とした特許庁も赤恥をかきました。

過去に民間企業の人から、どうしてソフト関係の特許を出願しないのですか、と不思議がられたことが何度かあります。私の答えはいつも「そんな七面倒くせーこと、やってられねー」でした。自分が自由に使える時間が有限である以上、手間のかかる苦役は避ける方が賢明です。やりたくないことはやらない、というのも幸福の条件の一つです。

それにもう一つ、すでに特許では十分●●ましたから、食傷気味なんです。

■ 2005年10月31日(月) 感心しないとまずいかなぁ…

締切の迫っている仕事を三つ抱えて浮き足だっているにもかかわらず、週末に「ミリオンダラー・ベイビー」を観てしまいました。

周知のように、この作品はアカデミー章の主要4部門を独占しました。折り紙付きの名作という訳です。

原作者のF.X. トゥールは本作に勝るとも劣らないような壮絶な人生を歩んだ後、70才にして「ミリオンダラー・ベイビー」を処女作として発表し、3年前に72才で死去しました。

もっと驚かされるのは、ヒロインのマギー同様、ヒラリー・スワンクがトレーラー・ハウス育ちだということです。つまり、マギーを地で演じられる人なのです。極貧家庭という出自、さして人目を引かない容姿にもかかわらず、若くして2回目のアカデミー主演女優賞を獲得した刻苦勉励の人 ―― サクセス・ストーリーの最たるものです。

こういう先入観をもって映画を鑑賞するのは、よくありません。肝心の映画にさっぱり没入できませんでした。

文学、音楽、映画、学術論文、さらにはソフトウェア(手前みそですが)などcreativeな活動の産物は、本来、作家、作曲家、監督、俳優、科学者、プログラマーなど個人の経歴、知名度、過去の業績、パーソナリティ、プライバシーと切り離して評価・批評すべきものであるのはいうまでもありません。ところが、そうstraightforwardにはいかない面があるんです。仕方ないのかな。

なお、三つの原稿のうち、原稿#1は土・日出勤で片付け、今日、原稿#2(査読結果に基づく修正)に着手しました。

■ 2005年11月1日(火) 復活希望

昨日の続き。大体、私のようなはみ出し者が、上昇志向の女優が主演した超メジャーな映画に言及するのは似合いませんな。昨日の記事がいかにも素っ気ないのは、自分でもそれに気づいているからでしょう。

しかし、毎日新聞のコラム「日曜日の名言」が3月に終了して以来、私好みのサブカルチャーに関する情報がさっぱり入らなくなってしまったのです。このコラムは、枡野浩一が元妻(漫画家、南Q太)と彼女が扶養している長男について愚痴をこぼしまくることを除けば、大のお気に入りで、日曜朝にそれを読むのを楽しみにしていました。新装開店してもらえませんか、毎日さん。

■ 2005年11月2日(水) 出し惜しみ路線に転じたからには

約1ヶ月にわたりVENUS用の新作ユーティリティーAlchemy(9月2日参照)の製作に奮闘してきましたが、ようやく完成の目処がつきました。二つの大きな障害に行く手を阻まれ、右往左往。もう二度とやる気にならないほど大変な作業でした。ともあれ、この難事を乗り切れそうなので、安堵しました。

Alchemyって何かって? 文字通り、鉛の塊を金の延べ棒に変える道具です。VENUSの付加価値を一段と高めると確信しています。しかし将来を見据えて開発した戦略兵器である以上、一般に公開する気は毛頭ありません。後は黙して語らず…

■ 2005年11月3日(木) ターミナル >>> コマンドプロンプト

Mac OS Xがv10.4.3にアップデートされました。

OS XはUNIXベースの超安定な業務用OSに成長しました。 OS 8.Xや9.Xの不安定さが嘘のようです。

Macでいずれ実現したいのがRIETAN Proによる自動MPF解析です。シェルスクリプトとPerlスクリプトの組み合わせによりREMEDYサイクルを自動化するのです。以前、AppleScriptによる自動Le Bail解析(賞味期限切れ技術)を実現したときの経験が役立ちます。

おもちゃめいたコマンドプロンプトを使わざるを得ないWindowsでは、やる気が失せます。どうしてもWindows上で自動MPF解析を実行したくなったら、Cygwinを使えばいいでしょう。

■ 2005年11月4日(金) 書類、原稿、ソースコード、メールの山に囲まれ、

混乱を極めています。頭の切り替えが大変。

原稿#3のremiderがCranswick氏から届きました。週末の間に送付するべく、頑張ります。

■ 2005年11月5日(土) 「粉末回折」というタイトルの章

原稿#2の修正が終わりました。かなりの部分を削除したのですが、旧原稿と重ねると、あまりにも分厚いので、箱詰めにして宅急便で出版社に送りました。我ながら、よくもまあ、こんなに長大な原稿を書きまくったものです。

本書は実験化学講座の11巻として2006年1月に出版される予定です:

2006年3月(予定)には、この叢書全体を収録したCD-ROM版も刊行されます。

■ 2005年11月6日(日) An article for the CPD Newsletter

原稿#3完成。図6つを含む、やや長い原稿です。zip形式に圧縮したにもかかわらず、30 MBにも達していました。そこで、そのアーカイブファイルをWebサーバーに転送し、使い捨てWebページをメール添付で送り、そこからダウンロードしてもらうという荒技で対処しました。

結局、1ヶ月近く、仕事抜きの日は一日もなし。帰宅後もしばしば延長戦入り。そうでもしないと、処理し切れません。

休日こそ稼ぎどき、という体質が染みついています。人が休んでいるときに働くと、スイスイ仕事がはかどるのです。もちろん良いことだとは思っていません。しかし、積年の悪癖を直すのは至難の業です。どうしたらいいのか。答えはただ一つ、●●●に■■■■する。この奇策は検討に値します。

ともあれ、明日からはプログラミングに復帰します。まずはAlchemyの仕上げから。

■ 2005年11月7日(月) あまりにも先走った話ですが

11月3日の話の続き。Windows XPの後継OSであるWindows VistaではWin32に加え、WinFXというAPIセットが搭載されます。当初、WinFXは4つの部分からなるという話でしたが、それらのうちWinFSの搭載は見送られました。WinFSの基盤となるSQLサーバの開発が大幅に遅れているためです。発売より1年以上前につまずいたのは、いかにもMicrosoftらしい失態でした。

CygwinはWin32用UNIX互換環境です。RIETAN Proが64ビット機の使用を前提にしている以上、WinFX対応のUNIX互換環境で自動MPF解析を実現するのが筋です。しかし、そんな注文通りのフリーソフトウェアが実際にリリースされるかどうか、予想もつきません。

来年末にならないとリリースされないOSのエミュレーション技術を渇望する ―― 新しもの好きもいい加減にせい、と言われそうですね。

どうしてMPFの自動化にこだわるのかというと、PRIMAが速すぎて、あっという間にMEM解析が終わってしまうからです。RIETAN-2000によるwhole-pattern fittingを急き立てられているような気分になります。

64ビット機でPRIMAがさらに加速するのは確実です。いずれ、なんとかせにゃなりませんな。

■ 2005年11月8日(火) 一度しか焼けないトースト

Mac用のCD/DVDライティングソフトにはToast 7 Titaniumを使っています。ところが、こいつはとんだ間抜けで、DVD-R/RWに追記できません。17,640円という値段からは想像もできないような手抜き仕様です。データのバックアップなんて重視していないのでしょう。

仕方なしに、自作ソフトをバージョンアップするたびにソースコードのファイルをWindows機に転送し、Drag'n Drop CD+DVD5でDVD-RWに保存しています。もっとも、このソフトのGUIはToastほど洗練されていません。帯に短し襷に長し、といったところ。

■ 2005年11月9日(水) Fortran 90を学ぶ

残念ながら、私はFortran 90/95の豊富な機能をほとんど使いこなしていません。これから修行していくつもりですが、その過程で便利なのがFortran90 Tipsです。Fortran 90に追加された型、命令、関数などを要領よく説明しています。

■ 2005年11月10日(木) 馬鹿の一つ覚え

理工系研究者には、なんでもExcelでデータを処理する人々が存外多いです。グラフの作成にも、もちろんExelを使います。こういうExcel症候群患者は高級言語(Fortran、C、C++、Fortran、etc.)、Perl、Pythonなど見向きもしません。カッコ悪すぎ。事務員やビジネスマンならいざ知らず、Excel一本槍なんて、みっともないですよ。一本指打法でキーボードを叩くようなもんです。

一方、私はExcelの使い方をほとんど知りません。配列の計算やユーティリティなどは、さっさと高級言語で書いてしまいます。言い換えれば、Excel愛好者とは「人種」が違います。

研究成果さえきちんと出れば、どちらの手段でも構わないではないか、という意見もあるでしょう。しかし、一私企業の枠組みに囲い込まれると、自分の研究の可能性を狭めかねません。安直な手段に頼ってばかりいないで、プログラミング言語の一つや二つはマスターし、より広い世界に飛躍することをお奨めします。

■ 2005年11月11日(金) 疑念一掃

一般に、中性子回折における構造因子Fは結晶構造因子F(cryst.)と磁気的結晶構造因子F(magn.)からなっています。

|F|2 = |F(cryst.)|2 + |F(magn.)|2

磁気散乱が観測されない場合は、もちろん右辺第2項はゼロとなります。まったく別な仕事(Alchemyの最終仕上げ)をしている最中に、RIETAN-2000ではF(cryst.)とF(magn.)の次元(単位)はconsistentになっているのかどうか、心配になってきました。Inconsistentだったら、まともな(磁気)構造パラメーターが求まらなくないのは言うまでもありません。

およそ20年前(!)の黄ばんだノートをめくったところ、γe2/mecというF(magn.)中の係数を次元解析を通じて計算し、その過程を詳細に記載していました。すべてSI基礎単位に変換する面倒な解析です。結局、F(cryst.)とF(magn.)の次元はL、単位はInternational Tables, Vol. Cにならってfmにしてありました。

嗚呼、これだけ綿密な記録を残していた昔の自分は偉かった!しかし、過去の仕事をきれいさっぱり忘れていたのはボケつつある証拠か?!

こういう枝道に迷い込みながらも、Alchemyは着々と完成に近づいています。

■ 2005年11月12日(土) まあ、あまり当てにできません

校長の方が事務次官より年金が多い理由が文科省のHPに掲載されていました。平均の年金月額は校長が26万3000円、事務次官が24万6000円だとのことです。官界のトップに君臨した超エリートの月額が25万円ぽっちというのには驚かされましたが、どうせ天下りしてがっぽり荒稼ぎするのですから、それで一向に差し支えないと思います。それに「日本は世界一の社会主義国ですよ」(某中国共産党員談)だそうですから。

ところで出世頭の年金年額が300万円弱だとすると、天下りと無縁なオイラがもらえるのは…(汗)。

■ 2005年11月13日(日) 性懲りもなく

真夜中の弥次さん喜多さん」、レンタルDVDで再び鑑賞しました。

2度目にして、ようやく気づいたことを一つ。魂の宿で弥次さんが数人の魂(すべて荒川良々)と入浴するシーンがありましたが、みんな次郎長喜び組、すなわち日本髪の女子高生たちの魂だったんですね。

それにしても、次郎長喜び組全員が崖で死んだのは妙でした。あまり急な崖ではなかったですから。「たくましい、たくましい、宅麻 伸だ(死んだ)」ってことですか。

■ 2005年11月14日(月) 停滞中

Alchemyは最終段階で、使い勝手を良くするために仕様を変更することになりました。あわてず騒がず、じっくり腰を据えて、と行きたいところですが、新たな仕事を自ら拵えてしまい、やや浮き足立っています。いつになったらRIETAN Proの開発に復帰できるのでしょうか。

■ 2005年11月15日(火) こちらは順風満帆

VICS-II v0.91(aka. 1.0 beta 2)がリリースされました。Mac版のユーザーが大いに喜びそうな改良が加えられています。

■ 2005年11月16日(水) これで一区切り

ついにAlchemyが完成しました。第三者が理解に苦しむような、技巧をこらしたコードです。あるタイプの実験法に対応するための橋頭堡を築いたことになります。反語的表現ですが、波及効果が大きすぎるため、オープンにしたくありません。当面、in-house softwareとして秘蔵するに留めておきます。

定番仮想CD/DVDエミュレーション・ユーティリティDAEMON Tools v4.00がリリースされました。

■ 2005年11月17日(木) 金科玉条

昔、プログラミング書法に関するカーニハン先生の本を読んでいたら、

if ・・・
   if ・・・

というようにif文が2行続くのは危険信号だと書かれていました。確かに論理が不明確になり、バグを導入しやすくなります。それ以来、そういう無様なコーディングはできるだけ避けるよう心がけてきました。その目的を達成するために、冗長性を導入することさえあります。

Alchemyには連続したif文はもとより、go to文もまったく存在しません。上から下へと、流れるようにデータを処理していく簡潔なコードは、芸術的ですらあります。

Fortran 90ではselect case文が使えるため,if文が続くのを容易に防げます。文字型関数が充実しているのも便利です。今後、Fortran 90の機能を積極的に活用するよう心がけていくつもりです。

■ 2005年11月18日(金) ここで一丁上がり?!

RIETAN-2000の配布ファイルに含まれているTl2223E.insは少々手直しする必要があることがわかりました。具体的には

NAUTO = 3
NCYCLE = 25
MITER= 10

というように設定します。これだけで、Rwpが4.94 %から4.80 %まで低下しました。共役方向法の威力を再認識。大体、雛形ファイルとして配布している解析例がきちんと収束しないというのは失態です。次回の改訂のときに、修正しましょう。

論文に記載されているリートベルト解析結果の多くはlocal minimumにトラップされたときの解を報告しており、強度データをダウンロードし、RIETAN-2000を用いて共役方向法で再解析すると、R因子がしばしば下がるそうです。そこでTl2223E.insを外国製有名リートベルト法プログラムで解析してみたところ、local minimumにはまり込んでしまい、そこから抜け出られなくなってしまいました。使い方が未熟なのか、それとも本質的に局所解に停留しやすいのかは、不明のままです。ただ、RIETAN-2000に比べると、収束可能範囲が狭く、解が発散しやすいように見受けられました。

リートベルト解析の収束はさておき、己の人生そのものがlocal minimumに落ち込んだまま、空しく過ぎてきたような気がしてなりません。共役方向法のような強力な技法で、なんとかそこから脱出し、大域的解に到達できないものでしょうか。

■ 2005年11月19日(土) I can't make up my mind

RIETAN Proの開発と関連し、VICS-IIへの機能追加を門馬綱一君にお願いしていたのですが、試作品が4日前に届きました。昨日、それをテストしてみたところ、かなり完成度が高いことがわかりました。わずかな修正でイケそうです。さすがですね。

RIETANのユーザーは幸せです。将来、この魅力的な機能を享受できるのですから。アイデアが素晴らしいのか、プログラマーが凄腕なのか ―― いずれも事実ということにしておきましょう。

本機能についてはセラミックス基礎科学討論会(2006年1月19・20日、高知)での講演で紹介するので、それまでは秘匿しておきたいのですが、それもケチくさいような気がします。出し惜しみするのはalchemyだけで十分ではないでしょうか。迷っています。

■ 2005年11月20日(日) 不公平感

来年度からスタートする新規プロジェクトがらみの「業務」が増えています。直接は関係していなくとも、当該プロジェクトを念頭に置いた仕事も結構多いです。

このような負荷がのしかかる中、複数のソフトを急ピッチで同時開発中です。これらのソフトの競争相手は国内に見当たらず、日本中の人達がわれわれが産み出すプロダクトに注目し、鶴首して待っていると自負しています。今後、マニュアルの作成や講習会などの開催に多大な労力を費やすことになるでしょう。

先端科学技術ソフトの開発・普及活動だけでも激務なのに、人並み以上に成果を挙げ続け、旺盛な執筆活動を展開し、しかも当Webページを連日更新し続けているのですから、負担の大きさは並大抵なものではありません。フル回転中の油ぎれ老朽化エンジンのようなものです。さほど高くもないサラリーで、どうして馬車馬のように働かなければならないのか ―― 割に合わない、期待されすぎ、要求きつすぎというのが偽らざる心境です。

■ 2005年11月21日(月) 違和感

平成の大合併とやらのおかげで、耳慣れない市名が続々と誕生しています。私の住む茨城を例にとっても、いつのまにやら

常陸大宮市
小美玉市
かすみがうら市
行方市
桜川市
筑西市
坂東市
つくばみらい市
稲敷市
神栖市

といった聞き慣れない市名が登場していました。「小美玉」(おみたま)は「ゴミため」に聞こえないでしょうか?「行方市」は「ゆくえし」じゃないんですね。「つくばみらい市」のセンスの悪さには唖然とします。まあ、「さいたま市」、「西東京市」、「南アルプス市」といった珍市名よりは、ましかもしれませんが。いや、極めつけは「四国中央市」です。四国のどの辺か、わかりますか?

合併の場合は、各市町村の顔を立てる必要から、ヘンテコリンな市名になりがちです。一方、昔、「挙母市」という由緒正しい市名を一私企業(一ファミリー)に由来する「豊田市」に変えてしまったのは、暴挙以外の何物でもありませんでした。ダイハツ町、スバル町とかいうのもあるらしい。そんな胸くそ悪い名前の市や町にだけは、住みたくねーよな。

■ 2005年11月22日(火) ひたすら先を急ぐ

11月19日に書き込んだVICS-IIの新機能ですが、それを組み込んだ試作版が安定に動くようになったら、ただちに新バージョンとしてリリースするよう門馬綱一君に依頼しました。RIETAN-2000―VICS-IIユーザーの利便性を重視した上での決断です。口頭発表時のインパクトなど、二の次、三の次という心境に変わりました。

門馬君から、次世代可視化ソフトへのVEND相当機能の組み込みは順調に進行していると聞きました。等値曲面がより滑らかになり、所要メモリーが減り、高速化するそうです。しかも、VICS-IIとの一体化が実現し、使い勝手がはるかによくなります。VICSとVENDに対する不満を一掃する超強力ツールとして、膨大な数のユーザーを長く魅了し続け、研究や教育に広く貢献すると確信しています。

その統合次世代ソフトには新しい名を与えなければなりません。何か良い呼称がありましたら、門馬君あるいは私にお知らせください。

■ 2005年11月23日(水) Goサインを出しました

勤労感謝の日変じて休日出勤の日になるとは…

新機能(11月19日参照)を搭載したVICS-IIは次の週末ごろリリースできそうです。私の切なる要望を見事にかなえてくれた門馬君に厚く御礼申し上げます。

現在、門馬君と二人で統合次世代ソフトの名称を思案中ですが、プログラミングとネーミングは別な才能を要求するらしく、良い案がさっぱり出てきません。有力候補が一つ浮上したところで、ストップしています。

■ 2005年11月24日(木) Congratulations!

セラミックス基礎科学討論会のアブストラクト(A4、2ページ!)執筆に四苦八苦する中、島根大学総合理工学部の永嶌真理子さんがドイツのフンボルト財団のpostdoctoral fellowshipを見事獲得されたとの報に接しました(2005年赤坂研究室ニュース参照)。本人から喜びのメールも届きました。素晴らしいことです。本当におめでとうございます。

彼女はRIETAN-2000のパワーユーザーです。7月12日の掲示板における「RIETAN-2000は幸せをもたらしてくれる青い鳥となる可能性があります.」という文言は、永嶌さんがフンボルトのfellowshipに合格することを祈りつつ書き込みました(プログラム作者自身は青い鳥が訪れるどころか、やらずぶったくりのハゲ鷹に襲われたことしかないような気が…)。

キール大学に留学されるとのこと。私は5年前に同大学の地球科学科を訪問し、講演したことがありますが、バルセロナの安ホテルで痛めた腰の痛みがひどく、ほとんど寝られないくらい苦しみました。薄汚いフランクフルト空港における6時間待ち、深夜のバルセロナ到着、ハンブルグ空港でのバスの置いてけぼりも含め、これまでの海外出張のうちで、もっとも苦難に満ちた旅でした。

そのとき、バルセロナで開かれたEPDIC-6で私が発表したのが、RIETAN-2000で得た成果を発表する際、必ず引用するよう求めている論文にほかなりません。当該論文は、あと1報で350回引用されたことになります(注: 翌25日に351回に達しました)。来年の中頃までに引用回数400に達する勢いです。あっ、また手前味噌になっちまった。ここでお終い!

■ 2005年11月25日(金) キャピキャピ感

セラミックス基礎科学討論会における講演の要旨、ようやく書き上げました。RIETAN Pro、ORFFE、VICS-IIの緊密な連携に関する報告です。

本来はVICS-IIとは無関係な講演のつもりだったのですが、結局、門馬綱一君の手を煩わせることになりました。なぜそうしたかというと、地味な幾何学的パラメーター計算ソフトであるORFFEにキャピキャピ感を付与するためです。

キャピキャピ感って何だって?私はその蓮っ葉な言葉を「野ブタ。をプロデュース」で知りました。超クラ〜イ、いじめられっ子の女子高校生を人気者に変身させるにはどうしたらいいか ―― キャピキャピ感を身に付けさせようじゃねーの、というような展開でした。

野ブタ同様、ORFFEも隠花植物みたいな日陰の存在です。そこで、私は「ORFFE.をプロデュース」するべく立ち上がりました。ビジュアルな要素を注入して、浮き浮きするような明るい雰囲気を醸し出そうという訳です。「本田美奈子.」(ご冥福をお祈りします)同様、ORFFEの後ろは"。"でなく"."であることにご注意ください。

意表を突いた斬新なアイデアを盛り込んだ点も自慢の種です。

上記のチャレンジの成否は、VICS-IIの次期βージョンがリリースされる週末に明らかになるでしょう。

■ 2005年11月26日(土) 上澄み → アメリカ

6年前、インドの某有名大学の教授(A氏)と私(B氏)がIUCr国際会議(グラスゴー)の合間に四方山話をしたときの、身も蓋もない会話:

A氏: インドにおける頭脳流出は深刻です。ウチの大学では、学部を卒業すると、トップクラスの学生はほとんどアメリカの大学の修士課程に進学します。
B氏: 修士課程を修了した学生は?
A氏: 進学組のトップクラスはやはりアメリカの大学の博士課程に進学してしまいます。
B氏: それでは、博士課程を修了した学生は?
A氏: アメリカでポスドクになるか、アメリカの会社に就職してしまいます。

今は事情が多少変わったかもしれませんが、基本的には同じような傾向でしょう。貴重な人材は皆、アメリカへ向けて巣立って行く ―― 日本がそういう状況に陥らないよう祈っています。

インドの大学では、授業も教科書も英語です。発音はきれいでないかもしれませんが、学生は英語がペラペラ。アメリカで言葉に不自由するようなことは、まずありません。ここが平均的日本人学生と大違い。

私のポスドクだったRashmiさん(National Physical Laboratory)に至っては、native speakerとさほど変わらなかったなぁ。嗚呼、そう言えば、「いずれ自作ソフトを携えて、インドに行くよ。大学をいくつか案内してね。」と彼女に言ったきりになっています。残念ながら、当分そんな暇はありません。

結晶学(とくに粉末回折)関連のソフトウェアを開発している私にとって、人材不足の問題は深刻です。優秀な人材を確保しないことには、長年にわたって蓄積してきた技術を継承してもらえません。ところが、適当な年格好の、優秀で、やる気のある研究者が我が国にはさっぱり見当たらない。中性子回折の業界はとくに悲惨。私のソフトの単なるユーザーやExcelバカ(11月10日参照)なら掃いて捨てるほどいますよ。彼らにとって、先端的結晶学ソフト開発は無限にハードルが高いのです。

インドに数学や情報処理に長けた研究者・技術者が多いのは周知の事実です。重い腰を上げ、おこぼれ頂戴、リクルート目的の天竺行脚に出かけたい心境です。

■ 2005年11月27日(日) DAEMON Tools v4.00に仕込まれた罠

DAEMON Tools v4.00にはDAEMON Tools Search Barというアドウェアが同梱されています。これは広告を表示するだけでなく、ユーザーが閲覧したWebページの情報を収集したり、他のアプリケーションをダウンロード・インストールする恐れがあるらしいです。"In order to support FREE distribution of DAEMON Tools"と言い訳していますが、危険性が高いのは否定できません。窓の杜はDAEMON Toolsをソフトライブラリから取り去ってしまいました。

インストール時のコンポーネント選択画面で、"DAEMON Tools Search Bar"のチェックをはずすことをお勧めします。

■ 2005年11月28日(月) 「ORFFE.をプロデュース」プロジェクト、無事終了

VICS-II v0.92がリリースされました。11月25日に記したRIETAN―ORFFEとの連携機能を追加しました。原子・結合・結合角の3次元的認識とでも表現すべき、派手な先端技術です。幾何学パラメーターに対する抑制条件の自動付加機能(RIETAN Proの目玉)を支援するために、VICS-IIに実装しました。原子認識はVectorsダイアログボックス、結合・結合角認識はGeometrical Parametersダイアログボックスを用います。ORFFEは現在RIETAN-2000システムの一部として配布している最新版を使う必要があります。詳しくはVICS-IIのWebページでDocumentationタブをクリックし、Dialogsのところをお読みください。

VICS-IIにおいて、RIETAN-2000用入力ファイル*.insの入出力に引き続き、*.ffeの入力とオブジェクト―幾何学的パラメーターの対応づけも行えるようにした結果、RIETAN-2000―ORFFE―VICS-II間の連携が一層緊密となりました。また、Geometrical Parametersダイアログボックス中で表示される結合距離・結合角の標準偏差はORFFEが計算した値なので、VICSの計算した値より正確です。

RIETAN-2000のユーザーにとって、今やVICS-IIは必需品といってよいでしょう。今後、我が国における粉末X線・中性子回折の分野では、結晶学的計算ソフトと3D可視化ソフトの連係プレーがますますルーチンワーク化していくに違いありません。

さらに、原子数が非常に多いときに原子・結合の超高速探索を可能にするアルゴリズムも採用しました。

VICS-IIはv0.92で、実用上十分な成熟を遂げたといってよいでしょう。今後はVICS・VEND統合システムへのアップグレードに注力していきます。RIETAN-2000―ORFFEだけでなくVENUSも着実にアップグレードし続ければ、大きな相乗効果が期待できます。

■ 2005年11月29日(火) どっちに転んでも…

今、迷いに迷っているのは自分のコアコンピータンスを引っさげて積極拡大路線を突っ走るか、それとも悠然と高みの見物をしているかの選択です。前者のビジネスモデルはごく最近思いついたばかりですが、すでに頭の中で熟成済み。やるべきことは知り尽くしており、多大な利益をもたらすでしょう。

しかし「儲かって儲かって、しょーがねー。ウハウハ」というのは「多忙」と同義語なので、二の足を踏んでいます。脱力系の私は、時間に追われる生活などまっぴらな方ですから。

ただ一つ明らかなのは、どちらを選んでも得るものと失うものがあるということです。結局は後悔するだけなのでしょう。そうだとしたら、足して2で割ったらどうなのか?儲けは半減するが、後悔の程度も半分ということで。

「利益」や「儲け」といっても、金儲けの話ではありませんよ。言うまでもないことですが、念のため。

■ 2005年11月30日(水) プログラマーの逆襲

昨日の本掲示版で「金儲け」という、幾分ダーティーなイメージを伴う言葉が飛び出したので、今日はそれに関連するテーマについて論じてみます。これまでもくどいほど主張し続けてきたことですが、一段と舌鋒鋭く切り込むことにしましょう。

自分のやりたいことにはのめり込むものの、嫌なことにはそっぽを向くという偏った性格が直らないのと同様、人と争うのを好まない(2004年8月30日参照)という消極的な性格もいまさら変えようがありません。国立研を独法化したからには、競争的資金の獲得を目指せ(ポイントを進呈するからね)と要請されても、人と競争するどころか、数多くの研究者を援助・教育し続けてきた(つもりの)私は、キョトンとするだけです。

それに、Rubenを雇っていた3年間を除けば、私は金欠病に罹ったことがほとんどありません。銭は取ってくるものでなく天から降ってくるものだと思い込んでいます。世のため人のため、時には身銭を切って、研究基盤を整備している私は、他人を押しのけて資金を獲得するなんて殺伐とした行動に打って出る必要などさらさらなく、受益者(とくに放射光源や中性子源)から外部資金とビームタイムをたんまり頂戴して当然、という想念が頭に染み込んでいるのです。単なる一般ユーザーと一緒くたにされたら、心外。そういう考えは自己チューですか。傲慢ですか。

「たんまり」といっても、ビームライン・装置の建設費や加速器・原子炉の運転経費と比べたら微々たるもんですよ。けちる理由が理解不能。あまりにもアンバランスな予算配分のために優れた国産ソフトの開発が滞り、人材の枯渇を招いたら、長期的に見て損をするのは自分たちでしょう。論より証拠、人材の枯渇はすでに深刻化しています.

脳の中に蜘蛛の巣が張っている私にもよくわかるように、誰か、放射光や中性子の施設が科学技術ソフトの開発に背を向けている理由を懇切丁寧に説明してほしいです。

私がいくらソフトの重要性を説いても、放射光・中性子業界関係者(ユーザーも含む)からのレスポンスはなきに等しいです。「たんまり」ならぬ「だんまり」戦術で黙殺しようという態度がありありと窺えます。

Rubenの雇用経費の捻出に四苦八苦していたころ、尊敬する先生に上述のような愚痴をこぼしたら、即座に「そりゃあ、お金を払うに値するソフトを作れる人材がいねーからだな。」と指摘され、なるほど、と納得しました。

しかし、オイラのソフトが無価値とみなされているとは思えません。いや、思いたくありません。現に、数多くの研究成果に貢献しているのですから。

野ブタ。をプロデュース」(11月25日参照)の中に、野ブタ(小谷信子)の作ったノブタ・キーホルダーを販売しようと計画するシーンがありました。「只で配ったら、誰もありがたがらねー」という訳です。このセリフを耳にしたとたん、目から鱗がストンと落ちました。不特定多数の人に無償配布しているモノは空気と一緒、ありがたがる人など皆無 ―― これが人間の本性です。目の玉が飛び出るほど高価だからこそ、人はブランド品を崇め奉るのです。仏心が仇になるとは…

かくして私は、チープなTVドラマ一本から、秋の霜の如く厳しい現実を抜かりなく学び取りました。さすがは、長年にわたって粉末回折データから最大限に構造情報を抽出するリートベルト法のソフトを作り続けているだけのことはあります。

こういう「現実」にやりきれなさと憤りを感じるのなら、「現実」に唯々諾々と従って泣き寝入りしていては駄目。ソフトの著作権を武器として「現実」に真っ向から立ち向かい、それを正常な姿に変革するよう努めるべきです。「現実」に一定の制約条件を課し、理に適ったところに収束させてやればいい。RIETAN-2000VENUSの使用許諾条件の「ゆるふん」を締め直し、ソースコードと一部のユーティリティーを研究・開発協力者以外には非公開としたのは、このためです。これでRIETAN-2000やVENUSの値打ちが再認識されるでしょう。

もっとも、制約条件が厳しすぎると解が発散しやすくなる(自作ソフトのユーザーが逃げ出す)ので、手加減も必要です。今くらいの制約条件で、ほど良い湯加減なのではないでしょうか。

そんな制限は我慢ならねー、と息巻く御仁は、他の無料ソフトを使うなり、商用ソフトを購入するなり、ご自分で開発するなり、ご自由にどうぞ。拙作を押し売りする気はありません。

おっと、戯言はここら辺で切り上げ、締切が迫りつつある原稿を書き始めなければなりません(ご安心ください、S井さん)。ではまた明日。

ご意見・ご感想をお待ちしております。

■ 2005年12月1日(木) で、何のために?

昨日のうらぶれた与太話とうって変わり、本日は豪勢な(というほどでもないか?)買い物について書き込みましょう。デュアルコア インテル Xeon プロセッサ(2.80 GHz)搭載機を発注しました。このCPUはデュアルコアの各コアにそれぞれ2MBのL2キャッシュを搭載しています。2CPU機だと50万円を軽く突破し、備品となるので、CPUは1個に留めておきました。GPUはNVIDIA Quadro FX 3450です。

贅沢と誹るなかれ。波及効果を考えたら、激安です。このマシン上で64ビット版のRIETAN Pro、PRIMA、ALBAをビルドするのですから。

■ 2005年12月2日(金) 新バージョンの誘惑に負け、

DAEMON Tools v4.00をDynaBookにインストールしてしまいました。もちろん"DAEMON Tools Search Bar"のチェックは外しました。

今のところ、とくにトラブルは生じていません。

■ 2005年12月3日(土) ギクっ

11月30日の殴り書きを読まれた方からメールが届きました。「私は泉先生のソフトを使ったことがないので、あくまで推測ですが、ひょっとしたら、プログラムより文章を書く方が得意なのではありませんか?名文すぎますよ、これは。」とのこと。

なんてこった! (明日に続く)

■ 2005年12月4日(日) 得意、不得意の判断は第三者に委ねるとして、

ただ一つ断言できるのは、「私はプログラミング愛好者ではあるものの、(本来の意味の)stylistではありません。」ということです.

さて、あんまり文句ばかり垂れていないで、バランス感覚を働かせ、心温まるサービスも提供しないと、誰も付いて来なくなります。近日中に、一部Macユーザー限定のクリスマス・プレゼントを差し上げることにしましょう。どんなものかは、「一部Macユーザー」という、思わせぶりな表現から察してください。

お返しは要りませんから、ご心配なく。

■ 2005年12月5日(月) 怪気炎

ソフト開発の人材が枯渇云々、という11月30日の書き込みに関連して一言。大所高所に立って我が国の特定研究分野の現状と未来を憂えるのは馬鹿げている、という気がしてきました。私は生涯現役の一研究者であり、文科省の官僚や放射光・中性子科学研究施設のお偉方ではないのですから。

物事の二面性に着目しましょう。たとえば、民間企業では、代わりがいくらでもいる無能な社員は、いずれリストラされる可能性が大です。必要不可欠な人材がリストラされるはずはありません。自分の代わりが勤まる人が業界にほとんどいない(競争相手がいない=希少価値がある)のは素晴らしい事、と心得ればいいではありませんか。楽天的発想への転換です。

自分が消えた後のことを心配している暇があったら、目前の仕事にせっせと励むべきです。他の追随を許さぬレベルにまで自作ソフトを磨き上げる ―― 今の私にとって、それだけが自分の存在意義を高める道です。

■ 2005年12月6日(火) こんなものやめちまえ!!!

この季節になると、街路樹などに電飾を施すという愚行が日本全国で繰り広げられます。京都議定書にそっぽを向いているエネルギー浪費大国から伝染してきた病気としか言い様がありません。悪趣味の最たるもの。公共の場をなんと心得る、いい加減にせい、と抗議したくなります。

相当な人手を要しますし、無数の電球をぶらさげられる木は悲鳴を上げているに違いありません。なによりも地球温暖化防止の精神に逆らっています。こういう無駄が積もり積もった末、どんどん地球が暖まっていくのでしょう。

■ 2005年12月7日(水) PRIMAの64ビット化

現在VENUSシステムの一部として配布しているPRIMAは32ビット・アプリケーションであり、ブラッグ反射や単位胞内のピクセルの数が非常に多くなると、"ERROR : The allocation has been unsuccessful (RMIC)."というエラーメッセージを表示して、停止する恐れがあります。PRIMAは主要配列を動的に確保しますが、Windows 2000/XP上でアプリケーションに割り当てられるメモリー空間が限られているため、所要メモリーが一定限度を超えると配列の動的割付に失敗し、異常終了するようです。

Windows XP Professional x64 Edition SP1上でIntel Visual Fortran Compiler for Windows v9.0によりPRIMAを64ビットアプリケーションとしてビルドすれば、そのようなメモリー空間に関する制限がなくなるという報告を受け取りました。64ビット版PRIMAが出力する3Dピクセルデータファイル*.priはVEND v6.7.2と互換性があり、問題なく読み込めるそうです.

いつになるやら見当がつきませんが、いずれは64ビット版PRIMAをVENUSの一部として配布するつもりです。そのためにIntel Visual Fortran Compiler 9.0 for Windowsを購入済み。気長にお待ちください。

■ 2005年12月8日(木) Norton AntiVirusの不具合

Norton AntiVirus for Macintosh v10.0.2がまともに動きません。LiveUpdateでウィルス定義を更新しようとすると、十中八九,「更新の実行中にエラーがありました」というメッセージが出力されます。時間を置いて同じ操作を何度も繰り返すことにより、なんとか更新していますが、相当いらつきます。

一方、Windows版Norton AntiVirusで更新に失敗したことはありません。いったい原因はなんでしょうか?

■ 2005年12月9日(金) Xcode 2.2

Mac OS X用ソフトウェア開発環境Xcodeをv2.2にアップグレードするために、833.8 MBもの巨大アップデータを長時間かけてダウンロードしました。アップデートにはXcode 2.0のDVDが必要です。

RIETAN-2000などのビルドに使っているAbsoft Pro Fortran for Mac OS XはXcode Tools中のコンポーネントを数個利用しているため、コンパイル・リンク過程が多少は影響を受けるはずです。事実、実行形式プログラム*.outのサイズがわずかに変わりました。

■ 2005年12月10日(土) 久々のバージョンアップ

RIETAN-2000 Rev. 2.4をリリースしました。計算強度式に含まれるパラメーター一覧中の"displacement parameter"を"atomic displacement parameter"に変更しました。さらに、*.lst中のパラメーター一覧における行末のスペースを除去しました。*.lstのサイズが多少小さくなります。

Mac用RIETAN-2000には次の三つの実行形式ファイルが含まれています:

ご自分のMacに合わせて、x.command中のファイル名*.outを変えてからお使いください。

rietan_64.proはMac OS X 10.4.X(Tiger)以降のOS上でのみ実行できます。これが12月4日に記した「一部のMacユーザーへのクリスマス・プレゼント」の正体です。期待はずれな贈り物で、申し訳ありません。RIETANの64ビット化は、Microabsorptionを補正した混合物の定量分析と同様に、RIETAN Proの新機能とする予定だったのですが、Rev. 2.4において前倒しで実現しました。

なお、雛形ファイルTL2223E.insとTL2223J.insは11月18日に書き込んだように修正しました。

しばらくかかりきりになっていた論文を昨日ようやく投稿(内容は秘密)。ノートのつもりが、ついつい報文にまで膨張してしまいました。来週からRIETAN ProとAlchemyのアップグレードを再開します。

■ 2005年12月11日(日) あらずもがな Part II

12月6日に要らざるイルミネーションに怒りをぶちまけましたが、まあ、そんなのは可愛いもんです。安っぽい光をピカピカ放つのは一時期だけで、いずれ跡形もなく消えてしまうのですから。

できることなら、この世から消え失せてほしい ―― と私が切に願うもの(システム、商法)は、一年中フル稼働。いずれも今を時めく勝ち組で、社会に完全に定着し、もてはやされているものばかりです。どんなものかって? 極論と呼ばれるのは覚悟の上で、代表例をいくつか挙げてみましょうか:

電車に乗って前の列に座っている人たちを眺めると、何割もの人がケータイをチャカチャカやってるというのは、どう見ても常軌を逸してるよなぁ。若年層のケータイ依存症はとりわけ深刻。もっと有意義なことにお金と時間を使ったらどうなの。

飽くなき利益追求のために、夜更かしを積極支援し、深夜も低賃金で労働者を酷使し、二酸化炭素を大量放出しながら道路を倉庫代わりに使うのは、長い目でみれば一種の社会悪だよなぁ。そんな阿漕なことまでして儲けたいですか?

上記のビジネスに関わっている会社から莫大な広告料金を受け取っているマスコミは、それらの暗部を暴き、批判するという愚を犯しません。なにしろ、広告料金は口止め料込みなのですから。

他人はいざ知らず、少なくとも自分は、そういうおぞましいものにソッポを向いていたい。もっとも、現代日本で暮らしている以上、完全に無縁という訳にはいきませんが。

■ 2005年12月12日(月) 規則遵守

古い話です。パソコン上でRIETANが動くようにしようと奮闘していたとき、某会社の若手社員に色々手伝ってもらったことがありました。数ヶ月後の彼女の述懐:「これほど、100%規則通りに書かれているプログラムは見たことがありません。」

まさに図星。たとえば行番号は、GO TO文の行き先のときは1桁、CONTINUE文に対しては2桁、FORMAT文の場合は3桁*、と判で押したように決まっており、ループ、IFブロック、Selectブロックは必ず3桁ずつ段付けされています。IF文が2行続くのを避けるというノウハウは、11月17日に記しました。もちろん注釈文は十二分に挿入。全体的にGO TO文が僅少で、データ処理の流れを把握しやすい論理的なコードです。

*(注)最近は、READ文におけるエラー処理の行き先と多重ループからのジャンプを除けば、ほとんど行番号を使わなくなりました。

その直後に彼女が放ったもう一言:「ソースコードだけ眺めたら、規則にうるさい、厳格な人かと思っちゃうわ。ところが、・・・」。

「・・・」の部分は「言動がぶっ翔んでいて、なおかつ毒舌家」というようなニュアンスだったと記憶しています。

彼女の言葉を補足しておきましょう。私ができるだけ一定の自己流ルールに従って書くのは、ソフトウェアだけに留まりません。論文、レビュー、書籍から雑文に至るまで、英文・和文を問わず、ほとんどの文章で日々実践しています。自由奔放な殴り書きのように見える本掲示版も例外でありません。躍動的で活き活きとした文章となるよう努めているつもりです。

どんなルールなのか、教えてくれだって?それは企業秘密。よく調べれば、わかることです。まあ、そんな暇人がいるはずもありませんが。

■ 2005年12月13日(火) もう二度と会うチャンスはないだろうと思っていましたが、

37th ISTC Japan Workshop on Advanced Nanomaterials in Russia/CISが物材機構で開催され、10年ほど前、ポスドクとして高温超伝導体の結晶構造を研究したNellie Khasanova(モスクワ大学)と7年ぶりに再会しました。

彼女の講演を聴講しましたが、燃料電池用触媒の話でした。彼女の所属する無機結晶化学研究室は水銀系超伝導体の発見で有名ですが、もう超伝導物質はほとんど研究していないそうです。あらためて時の流れを感じました。

■ 2005年12月14日(水) セラ協年会、サテライトプログラム開催のお知らせ

中性子によるセラミック材料研究会・第4回研究会「粉末中性子回折技術の進展とセラミックスへの応用」への参加募集を掲示しました。今回は、私が世話人兼招待講演者を仰せつかりました。皆様のご来聴・ご講演を歓迎いたします。聴講・講演されたい方は、必要事項を書いたメールを来年の2月17日までに私宛にお送りください。

私と門馬綱一君の講演では、RIETAN Pro(仮称)、次世代可視化システム(VICSとVENDを一体化し、wxWidgetsでGUIを構築)、Alchemy、RIETAN-2000―VENUS―EXPO2004との連携について、とくに中性子回折という制限は設けず、詳細に報告する予定です。内容が盛り沢山すぎて、時間が足りないのではないかと心配しています。喋りっぱなしというのも素っ気ないので、来聴者には素敵な(?)プレゼントを進呈するつもりです。

■ 2005年12月15日(木) ベンチマークテスト結果

Dell Precision Workstation 670(12月1日参照)が届きました。CPUがDualCore Xeon (2.80 GHz)、GPUがQuadro FX 3450です。今のところ、OSはWindows XP。早速、動かしてみましたが、意外なほど静かでした。

CrystalMark 2004によるベンチマークテスト結果は次の通り:

  1. ALU: 12 512
  2. FPU: 13 446
  3. MEM: 8 348
  4. HDD: 8 078
  5. GDI: 9 175
  6. D2D: 5 308
  7. OGL: 59 863

合計値(Crystal Mark)は116 730でした。

■ 2005年12月16日(金) 困惑の弁

私しかできないことが多すぎて、フェードアウトの望みが叶いません。喜ぶべきか、悲しむべきか。

ともあれ、完遂すべき課題が三つ残っています。いずれも着手済み。まだまだ峠を越したとは言えませんが、病気で倒れたり、あの世に逝ったりしない限り、是が非でも成就させるつもりです。どれも極めて波及効果が大きく、有意義なことと確信しています。

問題は、それらだけでも大変な負担なのに、少なからぬ割り込みがかかることです。割り込みタスクは時間を奪うだけでなく集中力を削ぎ、メインタスクを著しく遅延させます。最優先すべき仕事に専念させてほしいというのが本音です。

近日中に「実験化学講座」11巻(粉末回折の章全体)の校正刷りが届くらしい。それを片づけてから、今後のことを熟考しましょう。

■ 2005年12月17日(土) Intel Visual Fortranの採用

Precision Workstation 670に種々のソフトをインストールし、環境を構築しました。Visual C++.net 2003の巨大さには、今更ながら圧倒されました。

Intel Visual Fortran 9.0 for Windowsもインストール。長らく愛用してきたCompaq Visual Fortranは今年で販売終了なので、そろそろIntelのコンパイラに乗り換えることにしたのです。毒を食わば皿までということで、来週からAlchemyを拡張しますが、その際、早速使ってみます。

■ 2005年12月18日(日) 人生の岐路

2004年2月7日の掲示板に記した舘林千賀子さんが、その後、同志社大学大学院に進学し、車いすで勉学に励んでいると偶然知りました。毎日小学生新聞は戌(いぬ)年にちなみ、舘林さんが介助犬「アトム」との日常を描く「すてきなあしたへ」を新年集中連載するそうです。そこで、上記の書き込みに触発された断片的な文章を書いてみました:

釈迦族の王子として豪奢な生活を送っていたゴータマ・シッダールタは、ある日、町中で死体を積んだ牛車に遭遇し、すべての人間の末路と安逸な暮らしと遊興の空しさを悟り、地位も財産も妻子も捨てて出家し、乞食になったという。

モンテシーノスの洞穴に一人降り立ったラ・マンチャの騎士は「この世のあらゆる喜びが夢まぼろしの如く消え去り、野に咲く花の如く萎れてしまう」ような光景を次々に目の当たりにした挙げ句、騎士道ひいては人間の営為がすべて夢幻であることを感得した。しかし、彼は何も見なかった振りをして、苦難と狂気に満ちた遍歴を死に至るまで続けたという。

「人生の意味」を悟った人が選択した道を二つ紹介しましたが、かつて私は人生の岐路に立ったとき、一も二もなくラ・マンチャの男と同じ道を選びました。というより、自分にはこちらしか選択肢がなかったのです。人に頭を下げたことがめったにない私に、乞食など勤まるはずもありません。現実のドン・キホーテは50がらみの平凡な中年男なのですから、私と同じようなものでした。天分、若さ、活力に欠けている私でも、その真似事くらいはできるように見えました。

苦労と冒険の天こ盛り ―― そういう旅に出てから8年余りになります。まだゴールは視野の外です。そこにたどりつく前に倒れるかもしれません。

■ 2005年12月19日(月) 製品がすべて

私は一澤帆布の布製カバンを携えて自転車通勤しています。今年の夏は同社のリュックにPowerBookを詰め込み、講習会、集中講義(2回)、招待講演に走り回りました。

現在、一澤帆布はお家騒動で揺れているらしい。遺産相続をめぐる裁判、臨時株主総会での社長解任、別会社の設立などなど。

まあ、私はそんな薄汚いゴタゴタには無関心です。上記のカバンとリュックは非常に頑丈で、私があの世に逝くまで十分使えそうですから。

■ 2005年12月20日(火) 64ビット化への取り組み

OSやアプリケーションの64ビット化は時代の流れです。われわれは64ビット化の潮流を常に意識しつつ、RIETAN-2000の後継RIETAN Proや次世代3D可視化ソフトを開発しています。そのための投資も惜しんでいません。64ビット機や64ビットコードをビルドできるコンパイラはすでに取りそろえました。

急ピッチで進めている64ビット化の進捗状況は次の通り:

  1. Mac OS X v10.4用RIETAN Pro v0.50bで64ビット化を実現(9月29日参照)
  2. 64ビットLinux(Fedora Core 4)用VICS-IIのアーカイブVICS-II-amd64.tar.gzを配布
  3. Windows XP Professional x64 Edition用のPRIMAのビルドと動作確認(12月7日参照)
  4. Mac OS X v10.4用RIETAN-2000 Rev. 2.4を配布(12月10日参照)

つい最近、共同開発者の門馬網一君からFedora Core 4+Intel Fortran Compiler 9.0 for Linuxで64ビットコードをビルドできたという報告を受けました。つまり、無償のOSやコンパイラだけで64ビットFortranアプリケーションが得られ、実行できるのです。喜ばしい限り。

Windows XP Professional x64 Editionなどより、Fedora Core 4で64ビットコードが動くようにするのが先決という気がしてきました。大体、ヘビーユーザーは64ビット用Windowsなんて眼中にないでしょう。第一、現時点では外付け・内蔵機器(ボード)のドライバーがあまり揃っていないはずです。

それにしても、いい年こいてアプリケーションの64ビット化に目の色を変えているのは、傍目にはどういうふうに映るでしょうか。先走りはいい加減にして年相応のことをしたら、と忠告されかねませんね。

要するに、99.9%の研究者と興味の方向性が違うのです。しかし、こういう異次元研究の方が、意外と世のためになるのかもしれません。希少価値が高いですから。

RIETAN Proを久しぶりに更新。v0.66bになりました。単に選択配向パラメータのIDをチェックするようにしただけです。

■ 2005年12月21日(水) VICS-IIのマイナーアップデート

VICS-II v0.92.1がリリースされました。v0.92の細部が英語のスペルや表現に至るまでポリッシュアップされています。

修士課程2年の学生が、ほぼ独力でVICS-IIを製作したのは驚くべきことです。VICSという土台が存在したとはいえ、GUI部分を完全に書き換え、随所を大幅に改善し、Mac OS X版や64ビットLinux版まで取り揃えた力量には目を瞠ります。VICS―VEND統合システムのリリースが待ち遠しいです。

■ 2005年12月22日(木) 長年の悲願を達成するには

昨日は相次いで2名来客。5時間余り応対しました。

仕事が停滞ぎみです。まとまった時間がとれません。RIETAN Proに次の新機能を追加するのは、年末年始に自宅で、ということになりそうです。

研究の本筋と関係ない雑用や依頼からうまく身をかわさないと、己の自由になる時間がどんどん減っていきます。誰から、どこから頼まれようが、きっぱり断る勇気をもつべきです。そうすれば、RIETAN Proの開発がぐ〜んと加速すること、間違いなし。

■ 2005年12月23日(金) まだ使い物になりません

Fedora Core 4をインストールしたXeonマシンで64ビットCPU用gfortran 4.0.2を使い初めた人がいたので、試しにRIETAN-2000をビルドしてもらいました。実行時エラー連発で、あえなく討ち死にしました。

■ 2005年12月24日(土) 肥大成長

謎のユーティリティAlchemyの規模が倍増しました。昨日はそれに化粧を施しました。いずれ、RIETAN-2000関連機能も追加するつもりです。最終的には1000行近いコードにまで膨張するでしょう。

■ 2005年12月25日(日) 放射光で測定した粉末回折データを解析する人に耳よりな情報

古谷龍也君から、RIETAN-2000(+VENUS)による結晶構造解析

  1. 複雑なバックグラウンドの補正
  2. Q & A ― 2ページ目

を追加したとの知らせが届きました。前者は力作です。キャピラリー・チューブに試料を詰め、デバイ―シェラー法により測定した粉末X線回折強度データを解析する際、大いに役立つに違いありません。

この他、中性子・放射光実験施設での注意点・アドバイスも加筆されています。

今更申し上げるまでもないかもしれませんが、2000(+VENUS)による結晶構造解析は粉末回折、とくにリートベルト法に関する実用的な情報を満載しています(Q & Aの製作には私が全面協力しました)。ここを経由して当Webサイトを訪問される方がかなり多いことからも、その利用価値の高さが窺えます。

日本語のWebページは、とくに初心者に歓迎されるでしょう。わが国でRIETAN-2000が圧倒的なシェアを占めている理由の一つは、豊富な日本語情報の存在にあります。誰だって、専門知識に欠けている段階では、母国語で書かれた文書を読みたいに決まっています。日本人はとくにその傾向が強いです。外国製科学技術ソフトを広く普及させるためには、マニュアルなどの和訳が欠かせません。これが日本の現実です。

■ 2005年12月26日(月) 案ずるより産むが易し

RIETAN Proに追加すべき新機能(12月22日参照)ですが、連休の間に突貫工事でコーディングを完了させました。ユーザー入力ファイル*.insに優美な彩りを添える構文の導入であり、私的趣味の産物に他なりません。今日から動作テストを行い、28日までにはv0.7bとして結実させるつもりです。

やはり休日が稼ぎ時という悪しき体質は旧態依然のままでした。じっくり休養など夢のまた夢です。

といっても、ずっとプログラミングに集中していた訳ではありません。マドンナの新曲の伴奏がアバの或る曲のそれと酷似しているのに触発され、アバのCD(ストックホルム土産)を取り出し、久方ぶりに聴いたりしました。

ともあれ、上述の機能を実装し終えれば、RIETAN Proに対する主要追加機能は一つ(Lazy Pulverixによる指数と多重度の発生)を残すだけです。これは相当な難物であり、一筋縄ではいかないのではないか、と危惧しています。

「長年の悲願」はむしろ、こちらの方だと認識しています。RIETAN Proの信頼性をさらに向上させるには、万難を排して遂行するしかありません。

提案:年末年始の間に最終課題と格闘し、v0.8bの完成を目指すという前倒し大作戦は如何。

■ 2005年12月27日(火) The Legend of RIETAN

前代未聞の大停電が勃発した日に、すべての教育・研究活動を停止した新潟大学で、
元気に動いていたコンピュータ・プログラムがただ一つあったという。

島根大学赤坂研究室21世紀記念写真館より

■ 2005年12月28日(水) どうしてエラーが発生しないのか不思議ですが…

RIETAN-2000 Rev. 2.4.1をリリースしました。Tink実行時に行末文字しか含まない行が不適切な文字型データの範囲を与えるというバグを二つ、取り去りました。ピーク位置シフト・パラメータの偏微分係数がIDのチェックなしに計算されるというバグも修正しました。

現在使用しているコンパイラでビルドする限り、いずれも実害ないように見えます。しかし、あらゆる計算環境でテストした訳ではないので、安全のために更新しておくことを推奨します。

実は、64ビットコードを生成するFortranコンパイラにより別な問題が露呈してきました。

IF (A .AND. B) THEN

という形のIFブロックがあるとします。64ビットCPU対応コンパイラはAとBの真偽を同時に調べるらしいのです。Fortran 90/95の文法ではそれが許されているということを、つい最近知りました。Aが真の場合に限りBの真偽を判定できるときは、当然エラーが発生します。一方、現在、私が使っている32ビットCPU対応コンパイラは、Aの真偽を調べた後、Bを判定します。エラーが発生しないのはこのためです。

いずれ64ビットCPU対応コンパイラ+デバッガを使って、危ない箇所を洗い出さなければなりません。

■ 2005年12月29日(木) 腕力に物を言わせて

3連休の間もプログラミングを休まなかったのが功を奏し、RIETAN Pro v0.7bを年内に完成させることができました。12月26日に記した機能の他、RIETAN-2000から引き継いだバグ(Rev. 2.4.1で除去したものを含む)をいくつか退治しました。

12月26日に記した最終課題は、年末年始の間に片付けてしまおう、と決意しました。開発に必要な全フォルダをPowerBookにコピーし、自宅に持ち帰りました。

■ 2005年12月30日(金) 二度目の栄冠

3月29日と5月19日に記した吾妻ひでおの「失踪日記」が第9回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門の大賞を受賞しました。

■ 2005年12月31日(土) 出る幕ありすぎ

12月26日に書き込んだ課題は、昨日までに切りの良いところまで片づけました。もう峠を越したという感じです。

今年一年を振り返ると、将来へ向けた布石を次々に打ち、水面下で地道な努力を積み重ねていた年、という感が強いです。4、5年先でないと、まず使いそうもないツール(Alchemy)まで前倒しで完成させたくらいですから、停滞を余儀なくされた昨年よりパワーはむしろ上昇したといってよいでしょう。一昨年に断行した不採算事業のリストラが今頃になって功を奏してきたようです。

一昨日は、Tinkに関する絶妙なアイデアを思いつきました。長年の懸案が実質的に解決。「最終課題」などと自己規制するのはもう止めましょう。

かくの如く、着々と成果が挙がりつつあります。来年から順次、発表・公開していくつもりです。